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七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
42/55

【42】ずっと一緒に(浅野憂、不知火琳)

 7月28日

 市花たち4人の目の前にあるもの、それはジェットコースター。

「ねぇ···憂ちゃん···ホントにこれ、乗るの?」

「そりゃあもうここに来たんだから乗るっきゃないでしょ!」

「ですよねー···はぁ···死んじゃうかも」

「だ、大丈夫だよい、いい、市花。これ、そんなに怖くないかもだからぁ」

 市花の背中に隠れて、琳がギリギリ聞き取れる声を発している。

 霙は――1人で、ベンチに座っている。多分、乗るのが怖くて逃げたのだろう。

「『怖い』と思うから怖いんだよ。私は平気だーって、それっぽいこと考えとけばいいよ!」

 謎理論。憂の勇気付けようとする発言で、さらに不安が増した気がする。琳が、市花の背中を掴むようになった。

「···なんで憂ちゃんは平気なのさ、絶叫マシンだよ?絶叫させる為に作られた機械なんだよ?なのにどうして楽しもうとするのさ」

 こちらも謎理論。だが、憂はその理論に対し深く考え込んだ。

「たしかに···でも、遊園地にあるよね、遊ぶ園だから遊園地なんじゃないかな。だったら、ジェットコースターを楽しんでも···うん?よく分かんないや」

 もう少し悩んでくれてよかったのに。そう2人は思う。

 そんな会話をしていると、まもなくジェットコースターが到着する、と放送された。

「えっと···このジェットコースターが一回に12人だから···1、2、3――あれ、え、あ、数が足りない···」

「え?どういうこと?」

「え?わからないの?」

「前の人からジェットコースターに乗っていくと、私たちの内『誰か1人が乗れない』ってこと」

 琳が説明すると、憂はアッと声をあげた。

「でも···誰が···」

 誰も、誰かが欠けることを望んでいないのは確かだ。なぜなら、みんな『一緒にいたいから』ここに来た。そうだろう。

「遊園地に行くのを提案したのは琳なんだし、琳は乗るべきだよ」

 うん。と市花は頷く。

「え、でもそれって···」

「『琳ちゃんは、私と憂ちゃんのどっちと乗りたい?』」

 琳の、鼻の少し上辺り、ツンと痛んだ。

「え···そ、そんな、だって私は――」

「最終的に乗れればいいんだし、琳は気軽に選ぶといいよ。私たちは、琳を最高に楽しませるためにいるんだから」

 ――違うの。そうじゃないの。

 たったそれだけのことが···言えない。言わなくちゃいけないのに、口が、喉が、上手く動いてくれない。

「えっ···その···私は···い、『市花がいい』···ッ!」

 言ってしまった。そして『後悔』してしまう。琳が憂へと目線を動かすと、憂は笑っていた。

「いいなー、先に乗るのって。たしかこれ、4分で一周だよね···」

 普通だった。何だか、安心したような、できないような。薄汚い感情が生まれる。

 市花を見ると、市花は···浮かない顔をしていた。市花の目線は、憂に向けられている。

「あ、憂···あのっ――」

 空気を思いっきり抜いた時の音が聞こえて、市花たちの右側の通路を通って、次々と満足した人が帰っていく。それに動かされるように、前に並んでいる人たちがジェットコースターに乗っていく。

「···ほら、来たよ、ジェットコースター。絶対面白いから」

 憂が背中を擦ってくれた。でも···『喜べるハズがなかった』。

 流されるように、市花と琳はジェットコースターに乗った。乗るのを躊躇ったのは、琳だけではなく、市花もだった。

「···市花、私···」

「···琳ちゃんは悪くない···悪いのは···12人しか乗れないこのジェットコースター···だよ。うん」

 琳から憂を引き離すように、ジェットコースターが発進する。――その時に、少しだけ見えた憂の顔、悲しいけど、笑おうとしている。

「···ごめん」

 ――ジェットコースターは、面白くて良いと思う。ラストの急降下しながらの回転は、男性でも悲鳴をあげるほどだ。···だけど、市花と琳は楽しめなかった。

「···どうだった?ジェットコースター」

「うーん···『怖かった』」

「やっぱり絶叫マシンだよね···」

 憂を待つ時間は退屈ではない。ただ、憂がきたときどう接するべきか、それが問題になる。

「···あ、憂ちゃんがきた!」

 肩がピクッと跳ねた。顔をあげると、憂がまんべんの笑みを浮かべて、手を振っている。

「行こ、琳ちゃん。憂ちゃんのところへ」

 琳の返事を待たずに、市花が琳の手首を握り、走り出した。転けそうになりながらも、脚を巧妙に使い、倒れずにすんでいる。

「憂ちゃん!どうだった?」

「え、あー、えっと···中盤辺りの二回転がすごかった···」

「んー?二回転なんてこのジェットコースターにないよ?」

「え?そ、そうだったっけ?ははは。き、記憶が曖昧だなー」

 憂が笑う。でも、その『笑い』は、心の底からじゃない。市花と琳は憂の笑顔を、笑い声を、自身の目で見て自身の耳で聴いた。だから、この『笑い』が『作り物』だということは分かる。

「皆さん、アイスクリームを買ってきました。向こうのベンチで食べませんか?」

 どこからか、霙が現れた。両手にアイスクリームを持ちながら。

「霙さん!どこに行ったのかと思ったらアイスクリームを買ってたんですか!」

 アイスクリームが微妙に溶けかけている。見渡してみると、ここら一帯にはアイスクリーム屋がない。遠くまで行ったのだろう。

 3人はベンチに座り、霙からアイスクリームを受け取って食べる。

「···琳、そっちちょっと頂戴」

「え?――あ···」

 琳は何も言ってないのに、憂は琳の持っているバナナとクリームがトッピングされたアイスクリームを食べた。

「あぁ···」

 個人的に、このアイスクリームは好きだ。だから、いきなり盗られると――悲しい。

「――はい。私のアイスクリーム。これで『おあいこ』」

 何を言い出すのだ、そう思った。憂のことを考えれば『もらうのが正しい』のだろう。琳は、黙って差し出されたアイスクリームを一口食べた。

「···ごめん」

 ――色々と。

「え···何、いきなり」

「ジェットコースター···一緒に乗れなかった」

 琳がそう言うと、憂が気遣うように「あーそうだね」と言った。それがまた、申し訳なくて、琳は『憂のそばにいたくなくなった』。

「···別に気にしてないよ。私は『琳の笑顔が見たい』から」

 そう言われると、少しだけ安心する。憂が望むものは琳の笑顔、そうと分かれば『琳は笑う』、精一杯心の底から笑う。

「ふふっ···琳!市花!霙さん!お化け屋敷に行こう!」

「え、お化け屋敷···って、あの···お化けが出る屋敷?」

「そう!お化けが出る屋敷!」

 憂は、市花たちの返事を聞く前に、いいよ、と目線で訴えてきている(ような)琳の手首を握り、お化け屋敷の場所を把握していないまま走った。

「ちょっ、憂速い!手首がもげちゃう!」

 市花より、激しい。色々と、激しい。琳が本気で走っても、憂と並ぶことはない。

「――琳!私ね、2人が好き!だから、『ずっと一緒にいよう』ね!」

 その声は、風にかき消されて、市花と霙には聞こえなかった。ただし、憂のすぐそばにいた琳には、その言葉は一生忘れられない、大切な思い出になる。

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