表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
40/55

【40】今はなき姉妹の絆(京奈千夏、京奈千秋)

 7月28日

 市花たちは、永梨のいう『やらなくてはいけないこと』を終わらせ、本格的に市花たちの夏休みはスタートした。

「遊園地···だぁーっ!」

 ――騒がしい声。笑い声、悲鳴、様々な声が聞こえてくる。これぞTHE()・遊園地だ。

「···怖い」

「ん。あ、琳ちゃんは遊園地初めてだったよね」

 琳が遊園地に行こうと誘って来たことを、今でも微かに覚えている。琳は偏りがあるのか、知らないことが多ければ、市花たちの知らないことを知っている。

「···人が多い所は嫌いだから。なんというか···こう、ファーッ、ってなってる所が苦手なの」

「ここか」

「ここだね」

 うん。と小さな声で琳が頷いた。

「···お姉ちゃんがいないから···不安」

 市花たちの後ろで、霙が言った。

 永梨は日向と大事な用事がある、と言って、3人の見張りを霙に任せた。――何をするのか訊いても、答えてくれない。

「···ねぇ市花。霙さんの言う「お姉ちゃん」って何なの?」

「うーんとね···私のお母さんのことらしいけど···血は繋がってないから···何とも···」

 永梨に訊くと、私は霙のお姉ちゃんなんだ、とだけ言う。正直、混乱してしまう。

「···闇が深いのかな。最近の霙さんは···すごく『イキイキ』してると思う。数ヵ月前は残虐な人って感じだったのに」

 ――そんな気もする。市花はそうとだけ思った。

 永梨といるときの、甘えるようなところ。それに、永梨と霙は知り合い。『2人の過去』に何があったのか、市花は疑問におもう。

 考え事をして歩いていると、前から女性が歩いてきている事に気付かなかった。そのまま、市花と女性はぶつかった。

「え、あ。すみません!」

 女性は、ぶつかった拍子に、持っていた飲み物を落としてしまった。地面に水溜まりができる。

「あー、ごめんね。飲み物に気をとられてて前見るの忘れてたよ」

 女性は笑った。市花は、飲み物をどうするのかと気になって仕方がない。

「まぁ、これで1つになるからいいかな」

 溢れた飲み物には目もくれず、左手に持っている飲み物を見つめて女性は微笑んだ。

「え、飲み物···」

「ん、あーいいよいいよ、前見てなかったのは『私も』なんだし、逆に楽になったからね···怒られそうだけど」

 女性は市花に手を振って、歩いて行ってしまった。

「···」

 市花は感情を言葉にできず、黙り込んでしまった。

***

「ごめん、ごめん、遅くなっちゃった」

 女性は炭酸飲料を片手に、連れが座っている前の椅子に座る。女性の前方に座っているのは、女性の妹だ。

「遅い。何分オーバーしたと思ってるの?」

「えっと···3分?」

「4分と42秒だよ!」

 女性の妹は、机を叩いた。女性は妹の機嫌が緩まった時を見計らい、妹の前に炭酸飲料を置いた。

「···私、飲み物はお茶って言ったよね?」

「うーんとね···溢しちゃった?」

「なんでお姉ちゃんが疑問文なのさ」

 ついさっき、子供とぶつかって溢した。そう言えば、彼女――京奈千秋(ちあき)は何と言うだろう。そう、彼女の姉、京奈千夏(ちか)は思った。

「まぁまぁ、折角なんだし飲みなよ」

「···私、帰る」

 千秋はそうとだけ言い、椅子から立ち上がった。そして、小さな足取りで歩き始める。

「もー、つれないなー。折角『千冬のことを忘れて』楽しもうとしてるのにー」

 「千冬のことを忘れて」――その言葉を千夏が発すると、千秋は、持っている鞄を千夏に目掛けて振り回した。

「ちょっ、千秋危ないじゃんか!」

 必死に避けようとするが、避けれるハズがなく、千夏の腰に鞄が直撃した。鞄の中には、特に鈍器が入っているわけではないので、千夏は平気だ。

「お姉ちゃんは『千冬が嫌い』なの!?」

 鞄で殴られた事より、『千秋に』キツく言われる方が、千夏にとって痛い。無意識に、千夏の足は一歩下がっていた。

「そ、そんなことはないよ!」

「だったらどうして!千冬のこと忘れるためとか言うのさ!」

「それは···」

 千秋の大声を聞いたのは、3年振り程かもしれない。たった一度だけ、『姉妹4人で喧嘩』をした日があった。それでも、その時と今では違う。何もかもが、違う。

「···最近は『素直』になれない」

 そう言うと、千秋が何かと尋ねてくるのは分かっていた。姉妹だから。

「···千冬のことは好き。でも、いないんだからしょうがないじゃん。千冬には会いたいよ?だって『大好き』だから。でも···『会えない』じゃんか···」

 ――ごめん。千秋は最後にそう言った。

「···だったら···遊園地なんてきて『気分転換』しなくたったいいじゃん。ただ一生懸命、全力を振り絞って探せばいいじゃんか···」

「···探せないよ。『千春(ちはる)お姉ちゃん』じゃないんだから」

 千春――千夏たちの姉であり、京奈家の長女。彼女は、今は家にいない。帰ってくるかも、分からない。彼女は『香華院(きょうげいん)高校』という、福根市から電車で南に向かうとある、清半市にある高校にいる。5月頃、千春本人から電話がきた。「もう帰れない」という、短いメッセージだけ。

「···ごめん、お姉ちゃん」

 千秋は、椅子に座ってもう大丈夫だということを示す。

「ん?どうして千秋が謝るの?」

「私、お姉ちゃんに隠してることがあるの」

「え···」

 流石に急で、意味不明すぎたか。それでも、言うならいましかないと、千秋はポケットから携帯を取り出す。

「これを、聴いてほしいの」

 千夏に聴いてほしい物、それは数日前にLOVERで録音した千冬と銀髪少女(アリス)の会話だ。

「これは···?」

「···この前、お姉ちゃんの『誕生日ケーキ』を買いに、近くのデパートに行った日、私ね、『千冬を見たの』」

 千秋の言葉で、数秒だけ時間が止まったかと思った。かなり離れた場所にあるジェットコースターからの悲鳴で、千夏は我に返る。

「本当なの?」

「···本当だよ。私、『千夏お姉ちゃんには嘘を付かないって約束』してるから」

 ――千秋は、千夏の頭を撫でる。ありがとう、偉いね、他。様々な想いが、千夏の手から千秋の頭へと流れるように。

「千秋はさ、その時の様子、見たの?」

「···ちょっとだけ。でも···話したくないようなこと」

 「そっか」と、千夏は微笑んだ。

「でも、ありがとう。私、頑張るから。お姉ちゃんみたいに、立派になるから。だから···『千秋は私についてきてほしい』」

 当たり前といわんばかりに、千秋は頷く。了承を得たことに喜びが隠せず、目から涙が溢れ落ちそうになった。

「さーて、これからどうする?」

 陽気な声と態度で、千夏はさっきまでの会話を断ち切る。

「···」

 千秋は答えない。

「折角、遊園地に来たんだしさ、一緒に遊ぼ?」

「···しょうがないなぁ。『明日から頑張る』?」

「ん···うん。明日から頑張る!」

 千夏は、持ってきた炭酸飲料を飲み干し、ゴミ箱に捨てると、千秋の手を引いて走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ