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七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
37/55

【37】想うこと(不知火淋、天野日向)

 憂が天野家の一員になった次の日、市花たちは車に乗っている。

「ホントに良いのかなぁ」

 向かう場所は――不知火家。琳の父親が亡くなったことで、家を片付けなければならない。

「大丈夫よ、きっとね」

「でも···肝心な琳ちゃんがいないんじゃどうにもならないよ···」

 家を出る前に永梨が話を振ると、琳は「嫌だ」とだけ言った。理由を訊くと、琳は突然泣き出す。

「まぁ、その内琳ちゃんも行かないといけなくなると思うよ」

 淋は両親を愛していた。父親が死んだことなんて受け入れたくないだろう。それに、母親を殺した人物が身近にいることは知られてはならないだろう。

「お姉ちゃん、着いた」

 「え、どこ?」と言いながら永梨がブレーキを踏んだ。

 霙以外は辺りを見渡す。近くにはアパートが並んでいるだけだ。

「ここです。ここの二階の201号室が淋さんの家です」

 アパートを指差す霙に、市花は勘違いしていたことに気が付いた。

 不知火家は、憂の祖父母と同じくらい大きいと思っていたから、または三階建ての一軒家。

「···引っ越ししたってこと?」

 永梨は知っている。昔、不知火家は一件建ての家だった。それが知らぬ間にアパートに引っ越していただなんて。多分、引っ越したのは永梨がイーズランドに行っている間か帰ってきてからだろう。

「行きましょう。鍵は在りませんが『創り出すこと』ならできます」

「創り出す?」

 霙が車から下りると、一同が速やかに車をから下りる。

「私は『神の代理』です。神のできることなら全て私にもできます」

 霙は両手の平を合わせ、短く息をはいた。そして、霙が手を離すと、霙の右手に鍵があった。

「え、え、えぇ?」

「このアパートのマスターキーです」

 そう言って、霙は永梨にそのマスターキーを渡した。

「···行こっか」

 永梨に続くように、アパートの階段を上った。軋む階段は、いつ抜け落ちてもおかしくない。二階201号室――一番右にある。永梨が鍵穴にマスターキーを挿して回すと、簡単に開いた。

「···本当に何でもできるんだね」

 部屋の中は綺麗だった。まるで昨日誰かが掃除をしたみたいだ。――でも、綺麗な理由は、掃除したからじゃない。

 誰も、使っていないからだ。

***

「···ねぇ、淋さん」

 淋の隣に座る日向が、子供をあやす口調で尋ねる。

「···はい」

 小さな声だ。元気のない自分のようだ。日向はそう思った。

「淋さんは市花のことが好きなの?」

「え、」

 もう少しオブラートに包んだ方が良かっただろうか、だったら――

「淋さんは市花のことどう想ってるの?」

 ――オブラートに包むとか、よく分からない。

 日向は学校で、よく「毒舌だな」と言われる。ただ、返事しただけなのにだ。

「···どうって···えっと···何と言えばいいのか···」

「『好き』か『そうじゃない』かで答えて」

「え、えええ!?」

 淋は日向に恐れて、椅子から立ち上がりドアまで走った。

「···あ、」

 日向が我に返ったかのように、落ち着いた顔を見せる。

「え···私、いま何してた?」

「···」

 淋が微かに脅えているのを見ると、ある程度察することができる。いけないことをしたのだろう。

「···ごめん」

 日向が椅子から立ち上がり、淋との距離を更に遠くする。怖がられているのが、逆に日向は怖かった。日向は、少し離れたところで床に座る。

「···この前、永梨さんと話していた『諦めるとか諦めない』って···何の話だったんですか?」

「あー、あれは····」

 日向は答えるのに戸惑う。

 何と言えばいいのだろうか。市花が好きだった――なんて言うと、淋は市花を避けるようになるかもしれない。

「えーっと···市花を諦めるとか、は···なんというか···その···」

「『嘘』とか、『自己満足』はやめた方がいいと思います。人間は『素直じゃない生き物』ですから」

「え···ひろが言いそうなこと、言うね」

「ひろ?」

「前に家にきてた後輩。ひろっていうのはあだ名だけど、本人は相当気に入ってるみたい」

 話が少し脱線しそうになった。日向は話が進まないのでは、と不安に思ったが、そうではなかった。

「···私は『市花が好きです』。憂も同じです」

 そんなことよく言えるよ、日向が口に出す寸前で堪える。

「···そっか。え、でも憂と同じ人を好きになるって、辛くない?」

 日向が市花を諦めるきっかけになったのは、淋と憂だ。2人がいる限り、市花は『日向のもの』にならない。――市花は『優しすぎる』から。

「そんなことはないです。私は憂も好きですから」

「···二股?」

「そ、そんなんじゃないです!」

 淋の反応に、日向は小さな笑い声を発した。

「淋さんにとって、市花と憂は何?」

「何って···それは···」

 淋はすぐには答えなかった。淋の目を見つめる限り、悩んでいるというよりは、答えを『探している』。まるで『2人をまったく理解していない』ようだ。

「···ごめん、やっぱ答えなくていいよ。淋さんは···淋さんなりの考えがあるからね」

 日向はもう一度椅子に座る。そして、右手で淋を手招きする。数秒躊躇った淋は、気遣うように隣の椅子に座った。

「···いつか、いつだっていい。『私たちが生きている間なら』、何年後だっていい。市花と憂を、淋さんの言葉で『説明』してほしい」

 日向は、淋の頭に手を置いた。驚きながらも、淋は「はい」と小さな声で言った。

***

「基本、私物はそのままの状態になっています」

 淋は父親と一緒に暮らしていた。このアパートは、部屋が2つとお風呂とトイレがあるとしかいえないアパートだ。相当前から建っているらしく、階段を上るときに軋んだのにも頷ける。

「ここは淋さんと淋さんのお父様が寝ている寝室です。ここで···淋さんのお父様は亡くなりました」

 天井に突起物がある。よく見ると、縄か何かが激しく摩れたような跡がある。

「···市花、何か悲しくなってきた」

 憂が市花の背中に顔を擦り付けていた。市花は憂の手を握って、俯いている。

「ぁ···今日はもう帰ろっか。また今度···いや、次は私と霙ちゃんで来るからさ」

 永梨は気を紛らわせる為に手を叩いて、高い音を鳴らした。その音と永梨の言葉で、一同は顔を合わせる。そして小さく頷いた。

「···ごめんね。2人を連れてきた意味はなかった。悪いことをしたよ」

 永梨が市花と憂の手を取った。そして、行こうと言わんばかりに手を引いた。後ろから霙が急ぎ足で来ているのを確認すると、永梨は2人の手を離し、霙に駆け寄った。

「不知火芽吹のことは、霙ちゃんに任せるよ」

「···いいのですか?」

「多分、不知火さんのこと思い浮かべると、涙が溢れちゃうから」

 ごめんね、と永梨は顔でいう。

 そして、一同は淋の家を静かに出た。

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