【3】親友の呪詛者(浅野憂)
なぜ朝は雀のチュンチュンという鳴き声が聞こえるのだろうか。今日は土曜日で学校は休み。時刻は10時というのに、市花はまだ寝ている。
「市花の友達が来たよ。母さんも起きろってさ」
友達が来たことをいいことに、姉の日向が起こしにきた。
「うにゅ?う···ん。あと5分寝かせて」
友達とは憂のことだろう。憂とは幼稚園からの付き合いで、市花の、一番仲がいい親友的存在だ。だからこそ、この様に待たせることができる。
「名前は···不知火さんって子だよ?」
「···不知火さん!?」
市花は抜け気味の気力でベッドから立ち上がると、勢いで階段を下りる。
「室内では走っちゃだめだよ。昔父さんにも言われたでしょ、危ないって」
「今日は別なの!」
何が別なのかは市花自身でもよく分からなかったが、琳が来るのは初めてだ。
「髪がボサボサだぁ!」
鏡を見ると、寝癖で髪が酷いことになっていた。例えるならライオンだ。
「うん、そりゃあれだけゴロゴロしてたからでしょ。···はぁ、相変わらずだね、市花は」
その何気ない「相変わらずだね」は、何だか心にきた。捉え方を考えると、ずっと見ていたということになる。嬉しいような、恥ずかしいような、胸がもやもやした。
「不知火さん待ってるから、早くした方がいいよ。どんな絡みの子か分からないから尚更」
「は!そうだった!」
少しの間だが、琳のことを忘れていた。
市花は我に返ったような反応をした、その反応が、どれ程日向の心を、動かしたかを知らずに。
「行ってきます!」
「···気を付けてね、市花」
姉を向かずに家を飛び出した市花に、日向の思いなど伝わるはずない。
「市花遅い。20分は待ったのだけど?」
「ごめんなさい、ごめんなさい!何でも言うこと聞くから、ね?」
「···」
そんな約束をしてもいいのだろうか。だが琳に機嫌を直してもらうのには、こうするしかないと思ったのだ。ちょっと不安があるけれど。
「···まぁいいわ。じゃ、本題に入るわね、着いてきて」
そうとだけ言い、琳は市花の腕を掴み引っ張る。
「え?ちょ、不知火さん?え?な、え?」
抵抗しようしたが、以外にも琳は強かった。
身長は市花よりも低く、市花を見る時は、いつも顎を上げているのに。
そういえば、市花が呪詛者になった日、何度か掴まれたが相当の腕力だった。
***
「ハァハァ、不知火さん速すぎ······ここは?」
「あそこを見て、小さな建物があるでしょ?あれがエルスのいる場所、そして、私たちが呪詛者になった場所よ」
琳の人差し指がスッと、市花の後ろを指す。振り向くと、そこには一室しかないであろう小さな建物があった。周囲には何もなく、ただ不自然に置いてあるようにも見えた。
「あそこが···」
市花が呪詛者になった場所、市花に人殺しを命じた人物のいる場所。不安な気分になる。
「不知火さん、どうして私たち、人を殺さなくちゃいけないの···?」
なぜ、市花が呪詛者にならなければいけなかったのか、謎のままだ。
「市花···ッ!伏せて!」
「フグッ!?」
琳は市花の口を押さえた、何があるのかまだ知らない市花は抵抗したが、直ぐにそこにいる人物が誰だか分かった。そこにいたのは憂だ。
「憂ちゃん?どうしてここに···?」
憂がなぜ、こんな森林の中に来たのだろうか。そして、憂は辺りを警戒しているようにも見えた。その後、憂は小さな建物の中へ消えた。
「え···?ゆ、憂ちゃんダメ!」
市花が叫んだときには手遅れで、声は憂に届かなかった。
「ッ!」
「待って市花、どうする気?」
建物に向かおうとした市花を、今度は掴まず、訊いてきた。
「憂ちゃんを止めに行くの!お願い、今回だけは···」
「ダメよ」
「どうして!?」
憂が呪詛者になるのを止めたい、そんな気持ちは琳にも分かっている。それなのに、なぜ、琳は市花を止める必要があるのだろうか。
「···」
言いたくないのか、琳は何も言わなかった。ただ行かないで、という感情が伝わってくる。
「ゴメンね、不知火さん、私は大切な人を、守りたいの」
そうとだけ言って、市花は建物へ向かった。
ドアを開けようとした時、同時に中から憂が出てきた。
「市花!?なんで、ここにいるの?」
驚いたのはお互い様、市花は憂の全身を見る。どこか、変わったところがないかを確認する。
「憂ちゃん、そのカードって···」
市花は憂の右手にあるカードを指差した。




