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七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
28/55

【28】MORNING OF THE SMILE(天野市花、天野永梨)

 朝、ベッドで永梨が目を覚ますと、霙が横で寝ていた。昨日外ではしゃいだ無邪気な子供みたいな寝顔だ。

「···あなたはエルスなんかじゃない、霙だ。私を最期に助けてくれて、生まれ変わっても尚私を守ってくれた」

 ベッドから立ち上がろうと、体を横に動かした時、永梨は霙と手を繋いでいることに気が付いた。

「すごく···柔らかい。労働を知らない子供のよう···」

 15歳なのだから当たり前だ、永梨にはそう思えなかった。河東霙に会ったイーズランドでは、河東霙が奴隷のように働いていた。涙を流さず、笑顔で、体を震わさせながら。

 つい霙の手を触りすぎたか、霙の目が小さく開いた。

「···お姉ちゃん?」

 寝ぼけた声のまま永梨を向いた霙の髪は、寝癖が酷く四方に跳ねていた。

「あ、霙ちゃんおはよう···」

「···」

 霙は永梨の言葉が聞こえてないのか、反応もせずにゆっくりと動く。霙の向かう先には――永梨がいた。霙は衰弱しかけの仕草で、永梨の腰へ手を伸ばした。

「え、霙ちゃん?」

 永梨の腰を掴んだ霙は、更に体を前進させ――永梨の腹に顔を当てた。

「ひゅぃ!?」

 あと数年経てば40歳になる女性の、か細く幼い声を聞いて誰が得をするのだろうか。そんなことを考えていたが、すぐにやめてしまった。

「ちょっ、霙···ちゃん···」

 気が付けば、霙の脚が永梨の股の間へと動き、永梨の膝と霙のアソコが擦れていた。

「ダメ、霙ちゃっ、起きて!」

 ――一向に起きる気配がない。いま起きたらどんな反応をするだろうか、河東霙だったら間違いなく顔を赤くして逃げ出すだろう。多分、いまも同じ。

「霙ちゃん、誰か来ちゃうから!起きないと···」

 永梨から見た霙は、両親を喪い途方に暮れていた時、偶然の奇跡で見つけた『甘えられる人』にすがる子供のようだった。

「霙ちゃん···」

 初めて河東霙に会った頃を思い出す。所々破けているカーテンを身に纏い、森林の中にある大きな木の下で倒れていた。河東霙は口から唾液を垂らし、餓えという恐怖に脅えていた。

「···瀕死状態だった···ハズ」

 永梨と芽吹が近付いたところで目もくれず、何を考えているのか推測もできなかった。

「不知火さんと···一緒に担いで、宿泊先まで連れていったんだよね···」

 懐かしい。辛かった過去が、今では大切な思い出のようだ。

 永梨は目を閉じた。全身の力を抜いて、霙の感触や体温を感じる。柔らかい肌は服越しにでも分かる。霙の体温は体の奥底まで温めてくれる。いつの間にか永梨は目を閉じて寝てしまった。

***

 市花が目を覚ますと、隣には琳と憂がいた。2人はまだ寝ているようだ。

「···おはよ、憂ちゃん。···琳ちゃん」

 やはり「琳ちゃん」には抵抗がある。いきなり馴れ馴れしくなったようだ。でも、それが琳の望むことなのならば別に良い気もする。

「んぅ···ぁ···」

 右で寝ていた憂が寝返りを打った。その時、憂と手を繋いでいたことに気が付いた。すぐに左手も確認すると、予想通り琳が両手で市花の左手を握っていた。さらに、自分も琳の手を軽く握っていたのだ。

 寝ている時、ずっと手と手が触れ合っていたと思うと恥ずかしくなる。

「市花···?」

 憂と琳、最初に起きたのは憂だった。つぶらな瞳でこちらをジッと見つめてくる。

「あ、憂ちゃん。起こしちゃった?」

「···市花おはよ」

 市花の言葉が聞こえていないのか、会話が噛み合っていない。

「琳はまだ寝てるの?」

 ――まだ?市花は疑問に思った。まるで数分前に琳が寝ているのを見ていたかのようだ。

「···少し前起きてたの?」

「起き···てた···?···あッ!寝ちゃってた!」

 憂の甲高い声で、琳が嫌々起こされたような素振りをしながら目を開けた。――なんというか、寝転んでいて分からなかったけど、琳の後ろ髪が面白いほどにはねていた。

「わ、私。2人よりも先に起きて···2人が目を覚ますのを待ってたら···寝、ちゃっ、て、た?」

 目の前に、辺り構わず失敗を嘆いている憂と、寝起きで髪が異様なまでにはねている琳。意外な一面を見れた気がする。

「憂ちゃん、私より先に起きたんだね。でも、寝ちゃったら意味ないよ」

 市花が笑うと、憂は後悔することを忘れて笑い返した。

「琳ちゃん、後ろ髪、はねてるよ。なんだか孔雀(くじゃく)みたい」

 琳は寝ぼけたまま、右手で後ろ髪を確認する。そして赤面になった。

「あははは、やっぱ憂ちゃんと琳ちゃんは面白いや」

 1人で大笑いする市花を、憂と琳は子供のような眼差しを向けた。そして、憂が口を尖らせた後「私が最初に起きた時、市花は寝ながら「メロンパンが飛んでる」って言ってたんだよ?」と言った。

「えっ!?嘘!」

「うん、嘘だよ」

 ――仕返しされた。

 一瞬でも顔を赤くした市花と、そんな市花をからかう憂を見ながら、琳はまんべんな笑みを見せた。そして、3人でおはようと言った。

***

「せんぱーい、起きてますかー?」

 日向が目を覚ますと、目の前に携帯があった。普段、携帯は机に置いて寝るのに――。画面を見ると『ひろ』という文字があった。

「え···通話···中?」

「あ、先輩!やっと起きたんですか?」

 朝から煩い声だ。耳を塞ぎたかったが、寝ぼけていて体が思い通りにならない。

「···うん」

「あー!やっぱりですね!」

 電話相手――部活の後輩が何に怒っているのか分からない。ただ返事をしておけば丸く収まるだろう。日向はもう一度「うん」と言った。

「···ところで、どうして私たち電話してるの?まったく覚えてないんだけど」

 そう日向が質問すると、数秒間沈黙が続いた。

「···どうしたの?」

「え、あー···いや。昨日の夜、先輩が電話してきたんじゃないですか」

 初耳だ。いや、まったく記憶にない。嘘を言っているのだろうか。日向は半信半疑なった。

 数秒間悩んだ後「用件って何だった?」と、小さな声で訊いた。

「あ、そうですよ!先輩何も喋ってくれないなんて酷くないですか?」

「···え?」

「私が何度先輩を呼んでも何一つとして喋らないんですもん。いや喋ることは喋るんですよ?でも「うん」とか「そう」とか、会話にならないですよ」

 たしかにそれは酷いことをしたかもしれない。日向自身そんなことをされたら怒る。でも、電話越しに聞こえる声は、何だか嬉しそうな口調だった。

「···私がいま、何を考えているか分かる?」

 日向が言うと、迷いもなく「信じられないとかですか?」と言われた。

「···正解。私、昨日のことまったく覚えてない」

「何か嫌なことでもあったんですか?」

 日向は寝転んだ状態から体を起こしてベッドに座り、溜め息をついた。――昨日の朝から夕方までは何となく覚えている。小学生の頃から知っている憂と、最近に知り合った淋が家にきた。

「···ごめん」

 日向は特に意味もなく、通話を終了した。


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