表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
27/55

【27】呪詛者の夜・参(京奈千冬、アリス)

 灯りを消して、布団に潜る。無駄に大きなベッドは、千冬とアリスの身長ではベッドの先に足が及ばない。

「千冬···手、繋いで」

 アリスが布団の中で、千冬の手元に自分の手を添えた。その手を、千冬は当たり前のように握る。

「···おやすみ、アリス」

 千冬が微笑みながらゆっくり目を閉じる。今日はどんな夢を見るだろう。夢の中にアリスは出てくるだろうか。アリスと何をするのだろうか。

「···千冬、寝ちゃった?」

 音ひとつない部屋の中で、アリスの声が一際目立つ。

「···ポケットの中にビスケット入れたらさ、増えたところで食べるのに抵抗あるよね」

 アリスがつぶやいたあと、「プフッ」と、千冬が笑った。

「アハハハ、ちょっ、アリス何言ってんのさ!フフッ、アハハハハ」

 千冬が繋いでいた手を離して、腹を抱えながら笑った。起きていたことにホッとした。

「千冬がもう寝ちゃうんだもん」

「もう10時だよ?良い子は寝る時間だよ?」

「私、良い子じゃないもん。ってか、こんな時間に寝る良い子って絶対人生楽しいんでないよ!」

 千冬と、アリスと。他愛もない、意味も···ない、そんな会話をしている時間が好きだ。

 呪詛者には人を殺す義務がある。でも、殺す期限はない。もしかしたら老いて、寿命で死ぬまで生きていられる――千冬と、アリスといられるかもしれない。そう思う。

「···千冬はさ、私のこと好き?」

「···はい?」

 突然の言葉に、千冬は頭が悪くなったような気がした。

「いや、だから!千冬は···私のことどう思ってるのか···ってこと」

 千冬の目を丸くして、キョトンと横たわる姿が惨めだった。それでも、顔を赤に染めながら、アリスは千冬の目を見つめた。

「え···好きだけど?」

 驚いた様子で、息を詰まらせながら千冬が答えた。

「本当に?心から言ってるの?」

 なんだか、今日のアリスはいつも以上に積極的な気がする。――そうでもないか。いつもこんな感じだよね。

「···う、うん」

 それから、数分間静寂だった。今さっきまでの会話がなかったかのように、不安なほど静かだ。

「···アメンボって、赤じゃなくて黒色だよね」

 やはり、静まった部屋の中ではアリスの声が際立っている。

「···プフッ、アハハハ、ちょっ、アリス!」

 千冬は布団の中で転がりながら、穢れをしらない子供のように笑った。

 ――考えてみると、おかしな光景だ。千冬とアリスは呪詛者で、殺し合う仲だ。それなのに、他愛もない話をして笑い合っている。

「だって千冬が喋らなくなるんだもん!」

 それでも、そんなおかしな光景でも、千冬とアリスは今が好きだ。千冬と、アリスと。――初めて心から愛し、愛された人と笑い合える『今だけ』が好きだ。

「···最近、千冬と一緒にいるのが当たり前になってきてさ···千冬は私のことが好きなのか、分からなくなっちゃうんだよね」

 アリスの透き通った声が千冬の耳を刺激する。なんだか、訳もなく悲しくなってきた。

「私は···アリスのこと好きだけどな···」

 ポツリと呟いた声は、アリスには届かなかった。

「前も言ったけどさ、アリスは私を愛してくれた。アリスと会ってから、トイレにいるとき以外ずっと一緒にいるじゃんか」

 入浴中も2人だ。これはアリスの提案なのだが、千冬は許可したことを後悔していない。逆に、誘われたことを有難いと思っている。千冬は誰かに物を言うのが苦手だからだ。

「···それだと『ただそばにいるだけ』じゃないの?」

 ――意義なし。言われてみればそうだ。強いていうなら···キスをしていることだろうか。キス···だけ。

「千冬と『えっち』したい···」

「んーんん?何て言った?」

 ――聞き間違いだろうか。アリスが「えっちしたい」と言った気がする···アリスのことが好きなあまり、幻聴まで聞こえてしまったのか?

「な、何回も言わさないでっ!私はっ!千冬とっ!『えっち』がっ!したいの!」

 言った。言ってしまった。アリスが大きな声で、処女(ちゅうがくさんねんせい)が言ってはいけない言葉を――。

「···返事は?」

「――え、あ!えっと···暑さのせいでおかしくなった?」

「真剣だよ!」

 アリスの言葉が分かるようで、理解にくるしむ。聞き間違いではないことが分かった、真剣というのも分かった――じゃあ、アリスは本当に千冬とえっちしたいということになる。

「···本気で言ってるの?アリスだって、私だって、『人生』の3分の1も生きてないよ?それなのに、遭って1年も経ってない私なんかと···」

「そ、そんなことないよ!」

 千冬のか細い声と、その内容にアリスは否定した。

 いや、否定するべきだった――アリスは『孤独』を知っている。だからこそ、独りでいる者と、一緒にいたいと願ってしまう。それに――

「私が千冬に『愛の呪い』をかけたんだよ?私は千冬が好き。千冬は···」

 ――アリスが千冬に『愛の呪い』をかけたのなら、千冬はアリスが好きだと断言できる。なのに、アリスの言葉には迷いがあった。

「···ありがとう···アリス。でも、えっちはダメ」

「え、なっ、なんで!?」

 千冬がそっぽを向いた。

「ちょっ、千冬ってば!」

 繋いだ手を離して、アリスが千冬の体を大きく揺らした。その時、千冬の顔が見えた。――涙が、滴っている。

「ち、とう···」

 気まずくなってしまった。アリスは千冬から手を離し、状態を伺っている。

 ――千冬が突然起き上がり、アリスに鋭い目を向けた。睨み付けるという言葉が如何にも合う。

「···ッ!」

 アリスの体が大きく跳ねて、アリスがベッドから立ち上がろうとした時、千冬はアリスの手首を掴み、強引に引っ張った。

 アリスは驚きを隠せず、目を瞑った。そして「ひゅぇ···」という変な声がでた。

 ――アリスが恐る恐る目を開くと、すぐ左に千冬の顔があって、胸元から背中にかけて腕が伸びていた。

「いつか···私たちが大きくなってから···えっち、しよ?」

「···いまは···ダメなの?」

 アリス自身、自分が声を発したのか分からない。甲高く、声ではなく『音』だったかもしれない。

「···あくまで私たちは『呪詛者』――いつ死んで、人を殺すか分からない。だから、このノロイアイが終わったら···ヤろうよ」

 ――アリスは唇を噛み締めた。自分が呪詛者という、呪われた存在である事実から逃れられない、そんな今がアリスは大嫌いだ。呪詛者である限り、千冬とは敵同士――いまは親しく接しているだけかもしれない。

「···そっか」

 ほどいた手をもう一度握りしめて、アリスは目を瞑った。

「···アリスとえっちしなくても、私はアリスのことが大好きだよ」

 アリスが千冬の横たわる方向を見ると、千冬がこちらを見ながら微笑んでいた。その微笑みに、アリスは顔を赤くした――気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ