【22】愛するものの在り方(天野市花、生徒会長)
「···市花はさ、憂ちゃんと不知火さん、2人はどこで暮らすべきとおもう?」
揺れる車の中、市花は窓から外を覗きながら永梨の話に耳をかす。
「私が決めたらダメ···でしょ」
「私は市花の意見が聞きたいだけ。2人の人生は2人のもの」
人生、そんな重い話題は嫌いだ。しかもその人生は自分自身のものじゃない、友達の人生だ。
「決めれない···決めるのが怖い」
市花自身でもよく分からない。自分は何を望んでいるのか、自分の大切なものは何か、考える度に答えを出すのが怖くなる。
「···市花、欲張るのも良いことだよ」
その短い言葉が胸にきた理由は分かっている。市花は遠慮しているのかもしれない、だから自分の気持ちを言えない、言うのが怖い。
「いいのかな、欲張って、後悔···しないかな」
確信していたのが間違いだった、その時に人間は後悔をする。それと同じ、欲張って友達の人生が間違った方向へ行ってしまうのが怖い。
「私が中学生の時、不知火さんのお母さんと友達になったの」
「えっ?」
急に語り出した永梨に驚いたわけではなく、永梨が淋の母と面識があることに驚いた。
「知り合った切っ掛けは忘れたけどね、気があって、周りから仲が良いって言われて、凄く嬉しかった。高校も同じだったっけ」
「···それがどう関係するの?」
「いつしか私は不知火さんの人生を選んでたんだ。居場所はどこかじゃない、生きるか死ぬか、殺すか殺されるか、そんな感じ」
永梨がいつのことを言っているのか、それはイーズランドでの出来事のことだ。イーズランドでの殺し合い、人を殺すのが選択肢のように思えていたものだ。
「それで···お母さんはどうしたの?」
別に詳しく知りたいわけじゃない、むしろその逆、人が死ぬのなら聞きたくない。
「···いや、ショッキングな内容だからやめるよ」
酷いネタバレだ。ショッキングということはその人は死ぬ、または重傷を負う、他にも色々と浮かぶが良いものではない。
「···そうだね、聞くのも怖いよ」
あとどれ程で家に着くだろう。家に帰ったら何をしよう、何が待っているのだろう、市花は小さくため息をついた。
***
「···ずっとここで待ってたの?」
そろそろ午後1時になる頃か、一睡もしていない美恋がふらついた足取りで帰ってきた。
「どう、だった?」
「そんなにしんみりしないでよ。無理だった、予想が外れたみたい」
美恋の報告を聞いた美悠は心の中で一息ついた。
「今回はいけると思ったんだけどね、やっぱ難しいよ」
そう言いながら美恋は服を脱いだ。美悠は近くのかごに着替えが置いてあるのを見て微笑む。
「あのさ···美恋、話があるの」
「どうしたの、改まった顔してさ」
美恋が後ろを向いてブラを外しているとき、美悠は美恋の顔を見て話そうと深呼吸をして間を埋める。
「――美恋は家族が欲しいんだよね」
下から覗くような素振り、美悠の方が歳上とは思えないほどだ。
「···うん、だから必死に頑張ってるんだよ」
その強い意思に心を打たれたわけではないが、本気でそう思える根性には一目置いてしまう。
「私じゃ、ダメかな」
「え?」
「あ、いや、だから。私が美恋の家族になるのはどうかな···」
顔を赤くして美恋から目を反らす美悠、そんな彼女でも美恋が一目置いてしまうところがある。それは優しすぎる性格だ。
「······それは···無理だよ」
美恋は悩んだ。悩んだ末にでた答えがこれだ。
「どうして?どうして無理なの?美恋は家族が欲しいんでしょ?」
「···美悠は私の『お姉ちゃん』だから『家族』にはなれないんだよ」
なぞなぞ染みた答えだ。意味があることは分かっている、でも美悠にはその意味が分からない。それは、美悠に家族がいるからだろう。
「どういうこと?」
美悠の声から出たとは思えない低い声、動揺しているのだろうか、美悠は喉に手を当てて咳をする。
「···そろそろ行かなきゃ。バイバイ、美悠」
美恋は机に置かれたカバンを取り、今さっき履いていた靴をもう一度履いた。
「どこに行くの···逃げる気?」
「逃げないよ、逃げたりなんてするもんか」
美恋は微笑む。相手を安心させる加減で、優しく、温かく。
「じゃあどこに行くの?」
「···旅行、かな。10日間ほど遠くに行くよ」
中学1年の女子がカバン1つで10日も旅行できるハズがない。分かっているのだけど、分かっているからこそ止めるのが難しい。
美悠は美恋の言葉に唖然として言葉が浮かばない。
「···それじゃあ、行ってくるよ」
「ま、待って!行くのは好きにすればいい、けど、お願い、私の想いに答えてよ、私は美恋を救いたい、だから家族になろうって提案したんだよ!?」
家族ができれば美恋は心から笑ってくれる、美悠は美恋の笑顔のためならば自害だってする。
「···嬉しいよ、家族になろうって言われて――だって望みが叶うんだもん。でも、違うの、美悠じゃダメなの」
「どうして?私は誰よりも美恋のそばにいる、悲しませたくない、なのに――どうして···」
美悠の声が強くなる理由、そんなこと分かっている。美恋が美悠と出会ったのは1年前だ。出会って以来、毎日顔を合わせているのだから。
元々話し合える友達が少なかった美悠からしたら、第二の家族のような存在だった。それ相当、もてなした。
「ごめん、時間が押してるから。返事は帰ってきてからでいいかな?」
いいわけない、今すぐ答えてほしい――その反面、美恋に無理をさせるのが嫌で、美恋を悲しませる者が大嫌いで、美恋のやりたいことをやらせてしまう自分がいる。
美悠は我慢できずうずうずする体を堪えながら、美恋の背中を見つめた。
***
昼食を食べたあと、千冬とアリスはソファに腰を掛けた。
「最近、夜暑くて眠れないよ」
「アリスが抱きついてくるからじゃないの?」
「ん···それは関係ない、とは言えないけど一先ず置いといて、夏だねって言いたいの」
棚に置いてある温度計を見ると29℃を指していた。
そろそろ半袖にするべきか。生憎アリスの持っている服に半袖はない。アリス曰く肌の露出をなくすためだという。
「···半袖の服着ればいいのに」
「えー、だって人に肌とかあまり見られたくないもん」
なら暑いと嘆くのはおかしい。解決法方が見つからないのは確かだ。
「···別に恥じるようなことないじゃん、アリスの肌を見るのなんて···私ぐらいだし」
千冬は小さな声で呟いた。アリスに聞こえないように、でも伝えたいから口に出した。
「ん?何か言った?」
「え、いや。別に何も···」
思わず顔を反らしてしまった。拗ねているような口調、アリスに不思議がられただろうか。
千冬は渋々顔を上げ、アリスに目をやる。
――アリスは疑問を抱いたような顔をして千冬を見つめていた。
「な···なに?」
「んー、えっとね···半袖、着ようかな」
アリスの照れた顔に千冬は見入ってしまった。
「···その方がいいよ、アリス可愛いもん」
その後、2人で服を買いにいく約束をした。




