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七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
20/55

【20】あなたを求めるの(天野市花、天野永梨)

 そろそろ眠気がさしてきた頃、永梨の車は止まらず走り続ける。

「この子が不知火琳って本当なの?」

「···はい。不知火淋さん···です。呪詛者でもあります」

 辺りに車は通っていない。当たり前だ、こんな時間に車を走らせていたら変に思われてしまう。しかも横になった中学生を乗せている車だ、見られたら不審者と思われるだろう。

「不知火淋さんに遭えて嬉しいですか?」

 エルスの目は、嬉しさを訊くような目ではなく、落ち込んでいるようだった。

「···嬉しいよ。でも···」

「でも?」

「不知火淋に遭ったところで、何をしたら良いんだろうって思うの」

 エルスの悲しみをもらうように永梨は小さくなる。

 話をしたかったのは確か、でもいざ考えてみれば話したところで芽吹が還ってくる訳ではない。淋は芽吹が死んだことに悲しみを抱いているだろう、呪詛者は悲しみを持つものなのだから。

「言いたいことを伝えるのでは?不知火芽吹さんの話、イーズランドでのこと、不知火淋さんが呪詛者になった訳――深く考えず天野市花さんとの関わりでも良いかもしれません」

 エルスの言葉が何だか胸にきた。永梨は静かに頷く。

「···もう1人、会いたい人がいるんだ」

 エルスに言う意味はない。ただ体が軽く感じたから、誰かに想いをぶつけたかった。

「不知火芽吹さん···ですか?」

「ううん、不知火さんじゃないの」

 少しだけ意地悪をした。分かってる、いまの永梨は本物の永梨ではなく、永梨の違う人格だ。

「誰···ですか?」

 エルスの強い口調で意識がハッキリとする。

「ぇ、あ···河東霙···ちゃん」

 エルスの体が小さく揺れた。永梨は気付いておらず、エルスは軽く深呼吸をした。

「河東霙はイーズランドで死んだ···あなたも確認したでしょう、ケルベリタの爆発に巻き込まれた彼女の姿を」

 「ずっと好きでいさせてください。私のことを忘れないでください。いつか、もう一度会える日を信じています。私を、愛してください」――好きでいてほしい。忘れたくない。もう一度会いたい。愛し···たい。

 永梨の車がゆっくりと停車した。

「どうかしたのですか?」

「エルス···私ね、知ってるよ、イーズランドでエルスが助けてくれたこと、不知火さんが私を守ってくれたこと···私が、不知火さんを殺したこと···」

 最初から知ってた、自分が自分を騙していたことに。なにがエルスが不知火さんを殺しただ、全部、全部全部全部、自分に嘘をついていただけじゃないか。

 永梨は泣いた、エルスの前で涙を流すのは恥じらいがあった。でもいまは気にしない。エルスにかまってほしい、泣いたらエルスが優しくしてくれる。そう願った。

「不知火さんは死んだ、私が殺した。いま私が願うもの、霙ちゃんに遭いたい、霙ちゃんを抱きしめて、霙ちゃんの願いに答える。私は···」

 そんな永梨をエルスは悲し気に見つめていた。

***

「ここ···どこ···?」

 無闇に歩きすぎたか、場所が分からなくなった。

 暗闇に道など存在しない、頼るものは己の直感と運だけだ。

「···不知火さん、大丈夫かな···」

 今さら公園のベンチで寝かせておいたことを後悔する。もし見ず知らずの男性に見つかり、その男性が友人を呼び、輪姦(まわ)されたら――。

「なんて淫乱な考えをしてるんだ私は···」

 足が痛い。歩けない。へたれていてはいけないのは分かっている。でも、弱音を吐くと期待して待っている琳に失礼だ。泣きたい気持ちを抑えてただ歩き続ける。

***

 憂が栄善山にきてどれほど歩いただろう。ここはどこか分からない、昼間なら分かる道なのに、暗いと何も分からない。

 そろそろ瞳孔が開いてきたころか、辺りが見えてきた。

「···知らないところ···かも」

 見覚えのない景色に憂は悲しくなった。誰もいない、ここで夜を過ごそうか、獣はいないだろうか、目を開けていられない。

「なんで私···呪詛者なったんだろ。呪詛者にならなかったら良かった···」

 今さら後悔しても仕方がない、そんなこと分かっている。幸せになりたい、そう心の中で願っている。

「私が呪詛者にならなかったら···琳と友達になれなかった···」

 ふとそんなことを考える。琳と友達になれたのはノロイアイがあって呪詛者に選ばれたから、琳と友達になってなかったら――いまここで琳に会いたいとは想っていないだろう。

「もう、分かんないよ···」

 深夜だから脳が活性化していないのか、憂は頭をかかえる。

***

「美恋、本当に行くの?」

「美悠には関係ないことじゃん。第一私たちは呪詛者だよ?強がってる美悠の方が異常だよ」

 時刻は2時を回った頃、美恋と美悠が小声で話す。

「···知らないよ、何があっても、私に美恋を助ける力なんてないんだから」

 しつこく注意するのには訳がある。それは美悠は美恋を喪いたくないから、愛しているからだ。そんなことも知らずに口を動かす美恋には強く言ってしまう。

「私は願いがあるの。家族がほしいというね」

「副産物みたいな家族を、美恋は心から愛せるの?」

「···行ってきます」

 美悠の問いかけに返さず、美恋は走っていった。美悠はただ、美恋の背中見つめるだけだ。

***

 もういいよね、たくさん歩いたよね。これは運命なんだよ、神さまが私たちに下した宿命なんだよ。

 出会いがあれば別れがあるっていうじゃん、そうなんだよ、憂ちゃんとの別れなんだよ。

 これが人生なら、それでも良いんじゃないかな。

 私はただの中学生だよ、神さまに抗えるほどの力なんてあるわけない。あるのは人を殺すための穢れたカードなんだよ。

「ここで息絶えた方が、マシかな」

 ネガティブでいいじゃんか、呪詛者になった時点で私の人生は終わってるんだから。

「ごめんね、憂ちゃん。ごめんね、不知火さん。ごめんね、お母さん、ごめんね、お姉ちゃん、もう、無理···」

 市花は足を踏み外した。暗くて下が見えない、落ちていって、このまま死んでしまうのかもしれない。

「それも、いいかも」

 市花はゆっくりと目を瞑る。脚を小枝で切った、指が木で摩れた。痛い、痛いけど、もうどうだっていい。

 結果は死ねなかった。身体中が痛む、後悔した。目に涙を浮かべながらゆっくりと目を開ける。

「市花···?」

 再開は突然で、目の前に目を大きく開いた憂が立っていた。

「憂ちゃん?」

 憂がこちらに歩いてくる。ふらついた足取り、疲れているのが分かった。

 あと数歩、その数歩が遠くて、2人は気絶した。嬉しかった、会えた、再開した。探していたものが目の前にある。

 もう死んでもいい。だけどこれが夢だったなんてことは望まない。浅野憂に会った、会ったけど···琳は――2人を待っている。

 数分後、人の声がした。2人いて、どちらかが市花を横抱きして、乗り物らしきものに乗せた。

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