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七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
19/55

【19】見つけたから(浅野憂、天野永梨)

 市花は夜の町を走る。どこに行っても憂はいない、当たり前だ。世界は広いのだから。だけど市花は脚を止めない。宛はないけど、ここにいたらいいな、と思う場所だけを通る。

「ここは――さっき通ったところ···だよね」

 曖昧な記憶力とフラついた足取りで走っている。

 もうやめたいなんて思わない、まだいけるよね、自分はやらなくちゃいけないことをしてるんだよね。込み上げてくる涙を拭わず走る。

 走っていると、市花の知らない山があった。栄善山(えいぜんざん)、ここはどこなのか分からない。

 精神的に参っていたのだろうか、市花はその山へと歩いた。そこに憂がいると思ったのだろう。

***

「こんな時間なのに、まだ帰ってこない···エルス、市花はいま何をしてるの?」 

 遂に時刻は0時を過ぎた。帰ってきたら日向に電話するように言ってるが、電話がこないということはまだ帰ってきていないのだろう。

 今頃日向は、ショックで丸くなっているだろう、そう考えると胸が苦しくなる。

「栄善山をご存知ですか?風未市(かぜのみし)にある山です」

「栄善山···知らないわ。風未市なら知ってるけど」

 昔、永梨は南阿事(みなみあず)高校という高校に通っていた。電車で登校する際、風未駅を通る。毎日のように高校に行っていたため覚えてしまった。

「風未市は浅野憂さんの祖父母さまが暮らしています、そこに向かっているのでしょう」

 永梨の脳裏に様々な想いが浮かぶ。そのなかに怒りと悲しみがあった。喜びなんてどこにもなかった。溜め込みすぎだ、そう分かっているけど、気を抜くと発狂しそうで怖い。

「···ありがと、エルス」

「どういたしまして」

 緩い会話だな、エルスは思った。エルスが求めているのはこんな会話ではなく、思い出に残るような激しい出来事を永梨に望んでしまう。

 しばらく沈黙が続いた。どちらかが先に話し出さないといけないのに、こちらから話すのは気難しかった。その沈黙もすぐに終わる出来事が起こる

「···ッ!永梨さんストップしてください!」

「え、ぇ、ちょ」

 鈍い音を立てながら永梨がブレーキを強く踏んだ。何が起こったのか、エルスが近くにある公園を見つめている。永梨はエルスの目線を追うように目線をゆっくりと動かす――そこにいたのは、公園のベンチで横になっている琳だった。

「あの子、誰?どうしてこんなところで?」

「話は後です、いまは彼女を連れて行きますよ!」

 そう言いエルスは勢い良くドアを開き走って行った。永梨は訳が分からずただ理解しているエルスに付いていくだけだ。

「不知火琳さん、大丈夫ですか···ッ!熱がある···永梨さん、近くの自動販売機で冷たいものを3本ほど買ってきてください!」

 その声が近所迷惑になったことは分かる。ただそんなことを気にしている事態ではないのが確かだ。エルスは永梨が財布を取り走っていく姿を見届けると、琳を抱き車まで歩いた。

「ん···エルス、さん?ここ、どこですか?」

 琳のか弱い声が聞こえた。エルスが琳に目線を向けると、微かに琳が動いている。衰弱している、エルスは永梨の車のドアを開け、琳の重みを堪えながら琳を車の中で寝転ばす。

「ハァ、エルス、買ってきた。この子···ハァ、フー、この子誰?」

 息を切らした永梨が両腕で3本の飲み物をしっかりと掴んでいる。

「この子は···不知火芽吹の娘、不知火琳です」

 永梨の指が微かに動いた。自分が探していたもの、不知火琳が目の前にいるからだろう。

「···いまは、天野市花さんを追いましょう」

「うん···」

 永梨は凪がれるように運転席へと向かった。その姿を見てエルスは拳を握った。

***

 憂はその日、祖父母の家から逃げた。分かったのだ、自分に必要なもの、自分にとって大切なもの、それは市花と琳、この2人だ。

「ごめん、お爺ちゃん、お婆ちゃん、悪い子に育って、ごめん」

 物足りない言葉を言い憂は足を動かす。

 憂は風未市から福根市への帰り道を知っている。有言実行と書かれた壁のある所を右へ、突き当たりの少し前に薬局がある、そこを右に行き直ぐの曲がり角で左へ―――夜の暗さが憂の思考を妨害する。

「ちょっとだけ、怖いかも」

 家を出た時に見た時計が指していたのは0時36分、不安が込み上げてくる。

「これ、山越えれないかも···」

 福根市に向かうには必ず通るのが栄善山という軽い山だ。これぞといった道路はなく、草木が茂る道を通る。心の準備ができない。

「やっぱ、お爺ちゃんとお婆ちゃんに話して、車で送ってもらった方がよかったかも――でも···」

 もしも反対されたら、叔父と叔母は憂を監視することになるだろう。ますます市花と琳に会えなくなってしまう。そう考えると気が退ける。

「こんなとき2人がいたら···楽しいよね」

 怖くないとは断言できない、だから少し控えて楽しいにした。強ち間違っていないだろう、市花は遊園地のお化け屋敷を怖がって入れない、琳は···

「私、まだ琳のことあまり知らないな···」

 多分、怖がると思う。

 琳は冷静で、澄んだ瞳で見られると驚いてしまう。でもそんな琳でも中学2年生、市花や憂と同じだ。好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、怖いものは怖い、琳だって同じような感情を持っている。

「そういえば私、琳に遊園地に行くの誘われてたんだ···」

 いまになって数日前のことを思い出す。あの時、琳は憂を抱いてくれた。すごく温かくて安心する匂い、もう一度抱かれたい、甘やかしてほしい――などと考えてしまう。

「その為に私は、2人の所に帰る···待っててね、市花、琳···一緒に、夏休み過ごそう」

 いつの間にか憂の目の前に栄善山があった。

 覚悟なんてできるわけない、でもいじけていたら大切なものなんて手に入るわけない。怖くない、自分を騙すことで人は強くなれる。

***

 小さな喧嘩のあと、仲直りをしてより仲が深まったと思う。

 時刻は1時を過ぎようとしている、千冬は眠りから覚める。

「ん···アリスが増殖してる夢を見た気がする···気のせいか」

 千冬が再び寝ようとすると、千冬の左手を強く掴む手があった。

「えぇ、幽霊さん?」

 寝起きの頭を軽く掻きながら、寝ぼけた口調でその手に問いかける。すると、布団の中から嘲笑いするような声がきこえた。

「なんだ、アリスか」

「え、何で分かったの!?」

 布団の中から出てきた銀髪が綺麗な少女、一目でそれがアリスだと確信した。

「いや分かるよ···てかなんでここにいるの?部屋間違い?」

「そういうのじゃない···けど、その···これから毎日、千冬と一緒に寝たい···から」

「きゃ、きゃわひぃ···」

 照れながら話すアリス、千冬はそんなアリスに発情した。

 その日は2人で手を繋いで寝た。温もりが通じ合い、恥ずかしさと嬉しさが交わり、より深い眠りにつけた。

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