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七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
17/55

【17】youを探す(アリス、天野永梨)

 何を話したらいいのか分からない。ただ横でこちらを見つめる千冬を見ながら食事をとる。じろじろと見つめられ食べる気がおきない。

「···なんでこっち見てるの?」

「···見たいから?」

「なにそれ、意味わかんない···」

 アリスはムスッとしてから食べ物に手をつける。そんなアリスを千冬はずっと見つめる。やめてよ、そう言おうとしたが、喋ったら千冬の思うつぼのような気がする。

 アリスは自分正しいと思っている。生徒会長ほでではないが、自分は昔から正論しか言わないのだと、言えないのだと、ずっと信じてきた。アリスの述べる正論に反論はない、そんな世界で育ったからだろう。

「···昼食、食べないの?」

 箸をつけていない千冬の昼食を見ながら小さく言う。決して千冬とは目を合わせないように、

「えーっとね、アリスが食べさせてくれたら、かな」

 不安定な千冬の言葉にアリスは嫌気がさす。千冬の昼食を見て思う、食べさせたら自分にメリットはあるのだろうか、そう考えるとなぜか胸が熱くなる。

「···」

 アリスが千冬を無視する。正確には無視したフリだ。鬱陶しい、今は1人にしてほしい、私に構わないで、でも――。自分は何を考えただろう、自分が嫌になった。

「食べないなら···私が食べるから」

 千冬の前に置いてある昼食を取り、口に入れる。それを悔し気に千冬は見つめる。アリスは箸を止めて千冬を横目で見る。やめてよ、そう訴えかけるアリスを千冬はずっと見ている。

「こっち見ないで···食欲なくなる」

「アリスは私に見られたくないの?」

 千冬の言葉にイラッときた。見られたくないかなんて訊くもんじゃないでしょ、そう怒鳴ってやりたかった。アリスは唾を呑み込み落ち着く。

「···そっか、私もう容赦しないからねッ!」

 ――不注意だった、アリスが椅子から立ち上がろうとした時には手を掴まれていた。振りほどこうとすると、次の一手、腰を掴まれ、そして二手、顔を掴まれ、最後、唇と唇が当たる。

「ッ!」

 やられた、そう確信した時には既に遅く、1秒、2秒、3秒―――41秒、42秒――。アリスが千冬を突き飛ばした。よろめきながらも千冬はアリスから目を離さない。

「ハァ、ハッ、ハァ···何、すんのさ!やっぱり朝から千冬おかしいよ!」

 我慢の限界、アリスは自分の思ったこと、感じたことを千冬にぶつけた。

「違う···おかしいのはアリスの方だよ!」

「え?」

 意味が分からない、全身が麻痺する自分の体、目に涙を浮かべる千冬、自分は他とは違う世界にいるようだった。それが少し怖くて、全身が麻痺してたんだと思う。

「昨日の夜、話がしたくてアリスの部屋に行ったらさ、アリス···寝ながら泣いてたんだよ?!」

 分からなかった、千冬の言動がじゃない、自分が泣いていたことだ。必死な表情の千冬を見ていると涙が溢れてくる。

「···だから···手を繋いでいてくれたの?」

「···うん···アリスの手、温かくてつい寝ちゃった······」

 悲しかった、千冬を心配させた自分が哀れだ。そして嬉しかった。ありがとう、微かにそう思う。

「ね、どんな夢を見てたの?」

 涙を流し声が所々高くなる千冬はアリスから目を離さない。両肩をしっかりと掴み、涙を恥じずアリス見つめる。

「···朝起きたら千冬がいなくて、広い屋敷の中で孤独を味わった。キッチンに行くと···千冬が――」

 抱きしめた、抱きしめられた。千冬の胸の中は温かくて、背中に手を添えて頭を撫でてくれている。アリスは千冬の背中に手を添えて思う、ずっと一緒にいてください。

***

 昼間ということもあり、夜よりセミの鳴き声で騒がしい。その分物足りなさもある。

「こんにちは、エルス」

「天野永梨さん···天野市花さんの件ですよね?」

 永梨を見るなりエルスは切なそうな顔になる。それを見ている永梨も同じ、気まずくなってしまう。

「···うん、あなたなら市花の居場所が分かっていると思うから、一緒に来てほしい」

 琳の件では無理だった、だが市花の居場所までついてきて、というのは良いだろう、そう考えた。

「···天野市花さんはいま、宛もなく浅野憂さんを探しています」

「浅野憂···って憂ちゃんのこと?憂ちゃんがどうかしたの?」

 市花が小学生の頃、唯一家に遊びにきていたのが憂だった。永梨は憂を3人目の娘のように振る舞っていたから良く知っている。永梨がイーズランドに行く数日前、憂に花束をもらったことを覚えている。

「両親が同じ時間、違う場所で事故に遭い亡くなりました。浅野憂さんは祖父母さまの家にいます」

 浅野憂に起こった悲劇、それは不自然なものだ。同じ時間、違う場所で人が死ぬのはおかしなことではない。永梨とエルスが話してる今も、そんなことは起こっている。だが憂の両親という観点で見ると、不自然なものだ。

「同じ時間、違う場所ってそれもケルベリタ爆発事件の影響なの?」

「おそらくは――。これも浅野憂さんが呪詛者に選ばれたことが原因かと」

「ッ!憂ちゃんが呪詛者だなんて私知らない!憂ちゃんにも呪力があるってこと?!」

 憂に呪力がある、そんなこと知らない。本人も知らなかっただろう。

「···私って、ほんと何も知らない···これじゃあ大切なものも護れないよね···」

 悔しい、無知な自分が嫌になった。涙を堪える永梨を前にして、エルスは目をそらす。

「行きましょう、天野市花さんの所まで案内します。そして浅野憂さんにあなたの想いをぶつけるのです」

 エルスが永梨の横を通りすぎた、早く行こう、そういう意味だろう。

「うん···霙ちゃん···ッ!」

「ッ!」

 不意に溢れた霙という名前、河東霙のことだろう。なぜエルスを霙と間違えたのか、永梨にも分からなかった。

「私の名前はエルスです。河東霙では···」

 エルスは言い切らなかった。何かを隠し、それに悩んでいるような反応。永梨は自分がまるで元の自分ではないような、そんな感じがした。

「ごめん···なさい···」

***

「不知火さん待ってよ!早いって!」

 ここはどこだろう、見たことのない森の中、市花と琳はただひたすら前に進むだけだ。

「市花遅い。早く会わないと···ダメな気がする」

 疲れている市花を見ながら琳は小さい岩の上に立つ。そこで琳は振り返って思う、自分が憂を探すのに、何の得があるのだろうか。そう考えると頭が痛くなる。自分はバカだ、エルスの言う大切なものも見つけられない。体が重くなる、涙が込み上げてきて、鼻の上が痛くなる。そのまま操られたように、琳はその場で倒れた。

「ッ!?不知火さん!」

 市花が足の痛みを堪えながら琳の元へ走る。

「不知火さん!ッ凄い···熱、不知火さん、汗でびっしょりだよ···」

 琳の荒い呼吸が市花を不安にさせる。琳は熱が出ている、市花はどうしたら良いのか分からなくなった。

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