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七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
15/55

【15】大切なものを探す(天野市花、不知火琳)

 金曜日、明日は淋と遊園地に行く約束をしている。市花はそのことを考えると何だか楽しくなる。その裏面、淋がなぜ誘ったのかが分からない。

「行ってきます、お姉ちゃん、お母さん」

 姉と母にバレないようゆっくりと部屋を出る、その理由は市花自身でも分からない、ただ自分がそうしたいと思ったからそうしている。

 市花が2人に見つからないよう家を出て、左に曲がったその時、誰かが市花の左腕を強く掴んだ。

「え?」

 腕を掴んだ人物が誰かはすぐに分かった。琳だ。抵抗する隙もなく市花は学校と逆の方向へ連れていかれた。

「ちょっ、不知火さん?!何、してるの?学校に遅れちゃう···よ·····」

 琳は決して市花を向かなかった、その理由は言うまでもなく涙が地面に落ちていた。走っていると琳の涙は地面に、手に、足に、様々なところに付着した。

「不知火さん、どうして泣いてるの?」

 その涙は冷たく、走っている状況でも体に伝わる。だんだんと琳の息は荒くなり、市花の腕を掴む手も思い切り強く握っている。痛い、そう言うこともできなかった。

「どうしたの?何か変だよ、不知火さん!」

 市花の言葉を無視して琳は走る。だんだんと握力が強くなる琳の左手は、琳の感情が露になっている。

「不知火さん、どこに行くの?ねぇってば!――ってうぁわあ!?」

 琳が急に立ち止まった。勢い余って琳に激突した市花が渋々頭を上げると、取り壊されている浅野家があった。もう直すのは無理というまでに取り壊されており、市花は状況が理解できずただ目を開いて沈黙するしかなかった。

「···憂は黙ってどこかに行った。昨日の夜から町中探し回ったけど···憂は、いなかった···」

 唖然とする市花の隣で、琳は涙を拭う。市花はだんだんと荒くなる琳の呼吸を、ただ隣で聞くことしかできなかった。

 市花は自分自身でも自分が何を思い取り壊されている浅野家を見ているのか分からない。自分が悲しんでいる、それだけは分かった。

「···憂は愛を望んだ私と友達になってくれた、だから私は憂を探す···市花はどうする?」

 棒立ちする市花を下から覗くように、琳が心配気に見る。

 わけが分からない。なんだこれ、夢であってよ。違う、夢であれよ。体の震えが確認できた、気を抜くと息が荒くなる。

「···憂ちゃんは一昨日、私に言った。私がいなくなったら、第一に手がかりを見つけてほしい。そして、私を見つけ出してほしい。って···その意味が分かったよ···」

 そう言い市花は歩く。琳が不思議がっていても答えず、ただ何かを信じながら市花は小さな歩幅で歩いた。気の抜けた顔、力の入っていない腕。

「多分、家の近くにその手がかりがあるんだと思う。···私も探したい、探さないといけない気がする。黙ってどっか行っちゃうのは、おかしいよ···」

 市花の瞳は、琳に悲しみを訴えかける。そんな目で私を見ないで、笑ってよ、そんな言葉は市花の顔を見るだけで消えてしまう。

「不知火さんも···手伝ってくれる?」

「···うん、探そう。2人で憂を見つけて、それから···」

 涙が止まらない、涙で前が見づらくなって、くしゃくしゃになった顔を手で隠したり、座り込んだりして隠す。

***

 それから何時間が経っただろう、学校は無断で休み、永梨に怒られることは確定している。それでも市花は諦めなかった、制服が泥だらけになっても、指が痛くなってきても、涙を流しては拭い市花は手がかりを探した。

「もう、夕方···」

 逢魔時、黄昏時、なんといえばいいのか分からない空の色。市花の必死な姿を横目に、琳は手がかりを探す。

「不知火さん、ごめん···」

「どうして謝るの?市花は私に何かした?」

 市花の小さな声に、同情するように小さな声で返す。琳自身でもこれは違うと分かる、ただ1人で悲しんでいる市花を見ていられなかった。

「ほんとは全部嘘だったの。手がかりなんて、あるわけない···」

 市花の流す涙が電灯の光を反射する。まっすぐと琳を見つめる市花の瞳に、自分はどんな風に見えるのだろう、琳はふとそう思った。

「でも···そうだったらいいなって思ってる···勝手にどこか行っちゃうのは違う、深刻な理由があるのなら、さよならぐらい言わせてほしかった。欲張るとね、もっと一緒に···いたい···」

 市花の必死な声を聞き終えると、琳は手がかりの捜索に取りかかった。

「不知火さん?手がかりなんて、ないよ···?」

 もうやめて、市花の掠れた声がそう訴える。その訴えは直接琳の脳を痛めつける。自分は疲れているだけだ、そう自分に言い聞かせる。

「···私も市花と同じ。市花が嘘をついていたのは知ってる、顔に出てるもん。でもね、そうだったらいいなってそうだったら···嬉しいって。憂に会いたい、そう思ってる···から」

「不知火さん···」

 琳の言葉は胸にきた。ありがとう、そんな感情が湧き出てきて涙が溢れる。市花が琳の元に行こうとする。ゆっくり、ゆっくりと歩き、ありがとうを伝えようとする。

「ありがとう、不知火さ――って、うわぁっ?!」

「え、ちょっ!」

 小さな歩幅だったせいか、地面に生えている紐に気付かず転んでしまった。そのまま市花は琳の立つ方向に転けてしまい、琳を下敷きにした。

「いてて···あっ!手紙が、あった···!」

 紐に付けて土が被っていたらしく、紐を引っ張った弾みに土の中から手紙が出てきた。

「不知火さん!あった···よ···ッ!」

「いっつ···ホント?市花······ヒャッ!」

 目と目が合った、顔と顔の距離は10cmも離れていない。2人は驚き、数秒間何も出来ずただ近すぎる距離で目を大きく開けて見つめ合った。こんな近い距離で互いを見あったのは初めてだ。

「いち、か···。そろそろ、どいて···」

 琳の小さな声が市花の耳に響く。その声は市花の心に直接訴えかけているようだ。

「え···あ、ごごご、ごめん不知火さん!」

 市花は我に返って跳び跳ねる。

「···それより、早くその手紙を読みましょ、急いだ方がいい気がする」

 急いだ方がいい、その根拠は何なのか分からない。ただ思う、今も尚、憂はどこか遠くに進んでいるのではないかと。市花は頷き、手紙を開く。

《琳へ 何も言わずいなくなったことはごめん。勿論しっかりと理由はあります。15日、お父さんとお母さんが事故に遭ってしまい、亡くなりました。そのことでお爺ちゃんとお婆ちゃんに家に来ないかと誘いを受け、私は行くことになりました。ずっと黙っていたことは悪いと思う、でも、琳を悲しませたくなかったからです。本当にごめん。ありがとう。さようなら。 憂より》

 その手紙に書かれていたことは、隠していたこと、憂の気持ち、別れを告げる言葉だった。

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