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七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
10/55

【10】愛情に溢れた日(呪詛者)

「···」

 アホ面をした市花がいる。普通の寝顔とは思えないほど、笑顔で寝ている。

「市花、起きて」

 琳はいつもより力を入れて、市花を激しく揺する。が、起きない。

 起こすのも悪いと思い、琳が市花から手を離すと、市花の手が琳の腕を掴み、引っ張った。

「え、ちょっ?!」

 不意をつかれ、琳は豪快に転んだ。ベッドがあり、あまり痛くはなかったが、琳は寝ている市花に抱き締められていた。

「ヒッ···。市花、顔が近い。その···ちょっとだけ恥ずかしい···」

 あまり感情を表さない琳が、初めて市花の前で顔を赤く染めた。市花は寝ていて気づいてないようで、自分の赤面を見られなかったことに、琳は少しホッとした。

「それにしても、いつもの数倍は力が強かったわね···」

 何度か琳は市花を引っ張ってきたが、それほど力は強くなかったハズだ。多分、市花は寝ている時に覚醒、または変身する。

「···イヤじゃないから、もう少しだけこうしとこうかしらね」

 琳は抵抗をやめて、力を抜く。誰かに抱かれるのは3年前、母に抱かれたきっりだ。琳の母親はもういない、2年前に死んだと知らされた。

「市花に抱かれると、そこにお母さんがいるみたい」

 イーズランドに行く途中の飛行機でトラブルが起こり墜落、と聞かされている。

「···市花は私を愛してくれる?」

 寝ている市花には聞こえていない、そんなこと分かっている。寝ているからこそ、このような言葉が言える。

 愛してほしい、琳はただ誰かに愛してほしいのだけだ。琳の父は母の死を知ってから、まったく心を開かなくなった。琳の父も、琳と同じで悲しかったのだ。大切なものを喪ったことが、何もかもの終わりのようだったから。

「私は、あなたに愛してほしい···」

 そう呟いた琳の目には、涙が滴っていた。

***

「あの···アリスさん、この広い屋敷にはあなた1人で住んでいるのですか?」

 無駄と言えばいいのだろうか。この屋敷はアリスが1人で住んでいるには広すぎる、まるで家族と一緒に住んでいたかのようだ。だが、アリスの家族らしき人物はどこにもいない。

「私1人だよ、両親は2年前に自殺、妹は半狂乱になって取り乱して···」

 妹がどうなったかは、言わない、言えない、言いたくない。数々の答えが脳内を過る。分かることは、アリスが悲しんだことだけだ。

「そっか、アリスさんもなんだね」

「···?千冬、それはどういうこと?」

 千冬の口振りは、まるで自分も両親を喪ったかのようだ、いや、喪っているのだ。

「私の両親は家にいる時間が凄く少ないような人たちでね、2ヶ月に1回のペースで帰ってきてた。私とお姉ちゃんは両親が帰ってくることを楽しみに待ってたの。でも、ある日6ヶ月経っても帰ってこなかった」

 千冬は涙を堪えているようだった、そんな無理をしている千冬を前に、アリスは感情を見せずにはいられなかった。

「千冬、キスしよう」

「え?」

 アリスは千冬の返事を待たずに、千冬の頬を軽く掴み、強引にキスをした。

「――んっ、プハァ。アリスさん、ハァ、どうしたの?」

 突然の事に困惑している千冬は、アリスの流す涙に気づかなかった。

「私は、千冬を1人にしない、したくない。だから、千冬が困ったり涙を流した時は、私は千冬を抱きしめる。だって――!」

 千冬は軽くアリスの服を引っ張った。離れないことを、意味しているかのようだ。

「アリスさん、その、もう一度だけ、キスしませんか?」

 涙は消え、恥ずかしさと嬉しさの混じった顔で、千冬はアリスを見る。

「···千冬ってなんで私のことアリスさんって呼ぶの?」

「それは、えっと、アリスさんは私より歳上ですから、敬語を使うのは当然かと」

 身長は同学年だが、年齢や知識、経験 等はアリスの方が歳上だ、敬語を使うのは当然。なのだが、アリスは恋人同然、恋人に敬語はおかしいだろう。

「···千冬が私のことをアリスって呼び捨てしてくれたら、キスしてあげる」

 何とも卑劣な、千冬は少しムスッとした後、一呼吸おいてからアリスを見た。

「アリス、その···もう1回、キスしてくれる?」

「千冬がいいならいつでもいいよ!」

 その言葉を待っていたと言わんばかりに即答。アリスは一歩、千冬の前に動いた。

「どうして、そこまでして私を呼び捨てにしたの?」

 次の言葉を待っている、そんな顔でこちらを見るアリスは、千冬の心を読んでいるかのようだ。

「···アリスが、好きだから」

 数秒後、2人はキスをした。初めて会った日よりより親しく、深く。この愛が『本当の愛』ならばどれほど良いのだろうか、これは呪い、千冬にかかった呪いだ。

***

「···」

 ベッドで市花と琳が寝ている、それを横目に憂は今までにない顔を見せている。

「市花が、不知火さんにだ、抱きついてる。こ、コラァッ!!」

「ふぁ?」

 何が起こったか分からない市花は、ただ気のない声をあげるだけだ。

「憂、来てたのね」

 いつの間にか市花の胸元から遠くにいた琳が真顔で憂を見つめそう言う。

「「憂、来てたのね」じゃないよ!市花は私のものなんだから!」

「···?いつから私、憂ちゃんのものになったんだっけ?」

 憂が市花の事を好きだと分かったが、決して市花は憂のものになったわけではない。憂は2人が同じベッドで抱き合って寝ているのを見て、気が動転したのだろうか。

「え、いや、その」

「そうね。憂、思い込みが激しいよ」

 初めて琳が便乗したのではないか、と言えるくらい、琳が予想外の事を言った。

「あ、でも···」

 憂は少し(うつむ)いてから、考えがまとまったかのように、憂は市花の耳元で「市花って昨日のこと覚えてる?」と囁いた。

「昨日···何かあったっけ?」

 憂にとって忘れてほしくない日だったらしい、頑張って思いだそうとしたが、やはり無理だ。

「そ、そんなぁ」

 ショックのあまり気力が抜けたのか、憂はパタリと倒れ込んだ。

「憂ちゃん!?」

 市花が倒れ込む憂に近付く。すると、憂が市花の肩を掴んで強引に顔まで運んだ。

「思い出さないなら、キスしちゃうから」

「え?んっ!」

「!」

 突然のキスで市花は驚きを隠せなかったが、一番驚いていたのは琳だった。

「ぷふぁ!憂ちゃん、な、何すんのさ!」

「市花が昨日のことを覚えてないからいけないんだよ!」

 お互い様ではないが、両者悪気はないし、全ては市花のせいなのかもしれない、記憶があやふやな市花からしては、憂が突然キスしきただけだ。

「···2人とも、互いに愛し合う行為はいいけど、私の前でやられると気の毒よ」

 琳の目は苛立ちや嫌悪に満ちていた。

「は、はい」

 その日は少しだけ雑談をしてから、サヨナラをした。憂が来た理由は会いたくなったかららしい。ただ、琳が来た理由は分からない、教えてくれなかった。

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