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七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
11/55

【11】愛の在り方・壱(不知火琳、京奈千冬)

「市花、ちょっといい?」

「な、何でしょうか、不知火さん···?」

 突然険しい顔で琳に睨まれた市花は驚き、掠れた声で返す。

「市花、この前遅くなってごめん、何でも言うこと聞くから、と言ったよね?」

「な、何のこと···でしょう、かね?」

 覚えているとも。あの時市花は禁じられた言葉「何でも言うこと聞くから」を発動していた。琳の目付きがもう少し和んでいたらそう言えた。

「そう、市花が覚えていなくとも、私が覚えているから別にいいけど」

 やはり無理だった。市花はいま一度、自分が何をやらかしたかを振り返る。が、覚えがない。自分が何をして、琳に怒られるようなことをしただろう。

「あ、あの、不知火さん?私が、その、不知火さんが怒るようなこと、何かしましたっけ?」

 市花は自分が酷い仕打ちを受けることを覚悟の上で、琳に訊いた。

「···別に、特に市花がした訳じゃない、ただ···」

 琳は言い終えると、顔を赤くしてもじもじと体揺らし始めた。

「ただ?」

 そんな琳を無視するかのように、市花は訊く。

「今度の土曜日、一緒に、えっと···遊園地に、行きたいの」

 なぜ琳は照れているのか、それは初めてだからだ。誰かを遊びに誘うこと、誰かと休日に笑うこと、琳はそれらをやったことがない。

「ん?それ、だけ?」

「え?」

 緊張した琳が間違っているような、そんな雰囲気になった。

「え、いや、遊園地···だよ?」

「うん、遊園地に行きたいんでしょ?」

 ぎこちない空気、琳は市花が理解できず、市花は琳が理解できない。

「市花、もしかして私、考えすぎた?」

 琳は表情1つ見せずに首を傾げたが、手汗の量が半端ではなく、足も小刻みに震え、涙を堪えているようにも見えなくはない。

「あ···えっと、遊園地、約束、ね」

 耳を赤くした琳は、早く会話を切りたいのか、早口で簡潔だ。

「う、うん。約束···」

***

「んっ、はぁ···。アリス、食べさせ合いはもうやめない?」

 呆れた顔をした千冬を横に、アリスは昼食の小魚を一口サイズに細かく別ける。

「別にいいじゃん。千冬だって、最初は乗り気だったんだし」

 アリスは細切れになった小魚の一部を笑顔で千冬に向ける。千冬はアリスか小魚か、どちらを見ればいいのか悩んだあと、アリスを見ることにした。

「···恥ずかしい」

「今さら何を言ってるの?」

 千冬自身でもそう思う。食べさせ合いは今に始まったことじゃないし、千冬も嫌々やってるわけじゃない。

「···うぅ···ッ!」

「え?」

 千冬はうめき声を上げ、何かを決心したかのように、アリスの左手を掴み、自分の胸にアリスの手を当てた。

「アリスに食べさせてもらうと、凄く恥ずかしいし、緊張する。でも、その、嬉しくて!心臓がバクバクして、止まらない···だから私はイヤなの、心臓が張り裂けそう···」

 千冬が顔を赤くしながら話す、その全てに間違っている点はない。いい終えると、また鼓動が激しくなった気がする。

「千冬···」

 千冬の言葉と鼓動で、アリスは何を思っただろうか。千冬には考える余裕さえなかった。

「分かった、やめる。でも――」

「え?――んふっ!?」

 アリスは千冬の警戒が緩くなったその瞬間を逃さず、千冬にキスをした。今回のキスはいつものとは違い、異様に舌を絡ませてくる。それに、千冬の口内に異物が入ってきた。

「ハァ、ハァ。これ、は?」

 千冬はアリスが口の奥に流し込んでくるものだから、その異物を飲み込んでしまった。

「口移しだよ?」

 アリスの無邪気な声は聞き慣れた、天然なのか、そうでないのか、千冬には分からない。

「え?く、口移···し?」

 少しの間をおいて、千冬の顔は真っ赤になった。

「あ、千冬鼓動が激しくなってる!」

「あ、あ、アリスの、バカァ!!」

***

 五時間目、美術、クラスの大半の生徒が美術室に向かった中、市花は1人、前の席を眺めていた。

「市花、移動教室。早く行かないと遅刻する」

 冷めた声の琳が、市花の見つめる先、憂の席の前に立つ。

「あ、そっか···」

 市花は急いで美術の用意をする。

「行こ、不知火さん」

 その時の市花の笑みは、自分は悲しくないよ、と琳に訴えるような、無理をした笑みだった。

「えぇ、行きましょう。遅刻したら先生に怒られる、から」

 途中、琳の言葉に間ができた。だが、特に市花は気づかなかった。

「市花、先に行ってて、先生には遅れるって伝えといて!」

「え、ちょっ、不知火さ、ん···」

市花の返事を待たずに、琳は美術室と反対にある階段を下り、そのまま走っていった。

***

「来てたのね、憂」

 陽成中学で、最も高い木と言われると、校庭にある大きな桜の木だろう。憂は桜の木の陰で、琳を待っていたかのように、琳を見つめる。

「うん、ちょっとね。不知火さんに会いたくなったんだ」

「···どうして私?」

 琳は、憂が市花に会いたくなったと言い出すと思っていた。自分の名前が出て、琳は疑問に思う。

「単刀直入に訊く。不知火さんって、市花のことが好きなの?」

 風が(なび)き、桜の木の葉っぱがいくつか地面に落ちた。

「別に、好きってわけじゃない。ただ、」

「ただ?」

 琳は下を向き、不快そうな顔をする。

「市花は誰にでも優しくて、皆に愛想を振り撒く人だから···愛してもらえる人を失った私を、愛してくれると思ったから。私はただ、市花に愛してもらいたいだけ」

「···そっか。不知火さんってやっぱ色々あるんだね」

 異様な反応、憂が別人のように見えた。琳の話を聞く前より、暖かな表情になっていた。

「···ごめん、憂」

「どうして謝るの?」

 分からない、何だか切なくなって、悲しくなって、今の自分が言えることを探した結果、憂に謝ること、それだけだった。

「憂は市花のことが好きなのに、私が市花に愛してほしいとか言って、ごめん。でも、今言ったことは嘘じゃない、誰かに愛してほしい、それが私の望み」

 カミングアウトした気分はどうだろう、凄く心が締め付けられて、憂がいなかったら今頃、座り込んで泣いているだろう。

「···そう言われると心配になってくる」

 憂は何かを企んだかのようにニヤついて、琳のそばに寄る。

「憂、どうしたの?」

 琳が足を引いて訊くと、憂は、笑顔で言った。

「私が、不知火さんを愛すよ」

「え?」

 何を言っているのか分からない、予想もしなかった憂の言葉に、琳は言葉を呑み込むしかできなかった。

「とはいえ、不知火さんは私の親友。これでどう?」

「···ありがと、憂」

 もしこれが嘘だったとしても、私に笑顔を見せてくれる人、その人がそばにいるだけで無性に安心感を得られる。

「じゃあ、私は不知火さんのことを琳って呼ぶね!」

 その後は2人で親友としての会話をした。凄く長い時間だった、悲しくも、寂しくもない、そんな時間だった。

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