第8話 スサノオ、英雄になる
怪物を討ち果たし、今や新しい神剣を手にしているその姿は、ただの旅神などではなく世界を救った本物の英雄そのものであり、村神たちは畏怖のあまりすでにその場へ膝をついていた。
だが、当の本人はそんな周囲の反応にまだ全く気づいていない。
ただ静かに暗い空を見上げながら、スサノオはぽつりと小さく呟いた。
「……姉上なら、今度こそ褒めてくれるかな」
その声だけはさっきまで山を揺らしていた荒神のものとは思えないほど、少しだけ小さく、そしてどこか優しかった。
◇
歓声の沸き起こるその中心で、スサノオは少し困惑していた。
「……何これ」
気づけば村神たちに厚く囲まれていた。
「英雄様だ!!」「命の恩人です!!」「酒を持ってこい!!」「宴だ、ご馳走を準備しろ!!」
あまりの熱量の凄さと距離の近さでめちゃくちゃに感謝されていたが、高天原では「またお前か」と言われるのが基本だったスサノオは、こんな状況に全く対応できない。
「……いや」
少し後ずさりながら「別にそこまで……」と戸惑うものの、アシナヅチが泣きながら「娘が助かったんです!!」と何度も頭を下げ、老婆もまた「何とお礼をすれば……!」と涙を流していた。
怒られるのには慣れているが感謝されることにはとことん慣れていないスサノオは、もの凄く困って頭を掻きながら目を逸らし、妙に落ち着かない気分になっていた。
その時、ふいに袖をちょんと引かれて振り向くと、そこにはもう櫛から元の姿に戻ったクシナダヒメが、さっきよりも少しだけ近い距離で佇んでいた。
「……ありがとう、ございます」
小さな声ではあったが、彼女はちゃんと笑っていた。
それは諦めを捨て去った「生きてる顔」であり、初めて見るその表情がスサノオにとっては少し嬉しかった。
「……おう」
短く答えたもののなんだか妙に照れてしまい、女相手は苦手だからこれなら戦っている方がよっぽど楽だと思わずにはいられない。
「約束、守ってくれましたね」
クシナダヒメの言葉にスサノオの動きが止まる。
そういえば勢いで「泣くな」「死にそうな顔は嫌いなんだよ」などと言ってしまったのを急に思い出し、だいぶ恥ずかしくなってきた。
「……まぁ、俺、強ぇし」
目を逸らしながらまたしても雑に返したが、クシナダヒメはそんな彼を見て「はい」と少し嬉しそうに微笑んだ。




