8.スナックでの再会
午後になりすっかり快調になったオレは、一時的な気の迷いもすっかり晴れていた。
まったくなにを考えちまったのかわからねえが、有能な探偵たるものいつも沈着冷静でいるべき。目の前の出来事ひとつで心惑わされちゃあいけねえ。
「調子はどう? ホントにもう良くなった? なんかいつもより口数少ないね」
「意味もねえのにベラベラ話すことなんざねえだろ。まあでも仕事前は多少緊張位するものさ。それにいつもは一人だから面喰ってるのは確かだな」
「なんか変なの。何かを調べたりするのに緊張なんてするんだね。尾行が見つかっちゃうかもしれないから?」
「それもあるが、他人の領域に踏み込むことがいいか悪いか考えちまったり、成果が得られなかったらどうしようかなんて思ったりすることもあらあ。お前さんだって学生のころにテストで良い点取れなかったらなんて考えて緊張することあったろ?」
「うーん、わかったようなわからないような。意外と考えながらやってるんだねえ。その場の思いつきで行動してるのかと思ってたらちょっと意外」
「おいおい、オレはこう見えても知性派だぜ? もちろん直感も大切だけどな」
オレとルナは、待ち合わせ場所であるスナックの裏口でママを待っていた。どうやらちょっと早く来すぎたようだ。
こうして二十分ほど話し込んでいるとようやくママが現れた。隣には中年野郎が一人ついてきている。
つまり”アレ”が昨日行っていた生活安全課のポリだろう―― が!?
「っめえ! こないだはよくもやってくれたな! まったくヒデエ目にあわせやがって」
「おっ、なんだ委員長の知り合いってコイツだったのか。今度はパクられないようにうまくやんなさいな」
「あらマー君と探偵さんは知り合いだったの? それなら話は早いわね。こちら所轄の生活安全課所属の真栄田のぼる君よ」
「ふざけやがってよ、ママの知り合いならすぐ釈放してくれりゃ良かったじゃねえか。電話すらさせねえのはアレだ…… ええっと…… 人権侵害だろ」
「そう言われても委員長の名前を出したわけでもないし、身分証すら何もないんだから簡単に釈放できるはずがないだろう? そちらのお嬢さんがいなかったら今も入ったままかもしれんよ?」
「ちくしょう、なんでオレはこう信用がねえんだ…… こんな好青年そういないと思うんだがな?」
「あのさ探偵さん? もうそろそろ自分は中年だって認めたほうがいいと思うよ?」
「それはまた別の話だ!」
とにかくママが連れてきたデカは先日オレのことを署まで引っ張っていったポリだった。
「それにしても委員長ってのはなんだ? ママのあだ名にしては色気がねえなあ」
「おい探偵、委員長のことをおかしな目で見たら逮捕してやるからな? 重々注意しろよな」
「マー君はだまってろ。オレはママに聞いてるんだぜ? いい歳こいてマー君だってよ。笑っちまうぜ、へへ」
「いい歳こいて身分すら証明できないほうがどうかと思うがね。大人として恥ずかしくないのか?」
「なんだとコノヤロー!」
「やるかコラ!」
『パコンパコン!』
「まったく二人とも子供なんだから。なんで男ってこう成長しないのか知らねえ。マー君は小学生のころからこんななのよ? でも探偵さんも初めて会った時からあまり変わってないもの、どっちもどっちね」
「ちぇっ、手厳しいや。これでわかったろ? 小学生のころの学校委員長だったんだよ。ママが六年生の時、自分が二年生でな」
「それを今でも引きずってるってわけか。かー、かなわぬ恋だか何だか知らねえがけなげなこった」
「そんなんじゃねえんだよ! 委員長はずっと頼れる存在なんだ! 現にお前さんだってこうして頼ってるじゃないか」
「うーん、まあそう言うことで手打ちにしてやらあ」
こんなところで立ち話していても仕方ない。オレは『大人』だから自分から引き下がってやり、ママの知り合いだというデカに花を持たせてやった。
その後ろでママとルナが呆れて肩をすくめていることは見て見ぬふりをする。これも立派な大人の対応と言えるだろう。
オレは口角をわずかにあげながら勝ち誇っていた。




