7.作戦決行の朝
のどかを帰した後オレとルナは作戦を練り、とりあえずうまくいくだろうということにはなった。だが自信はあっても多少の不安が残るので、客観的な意見を聞きにスナックへ行くとママはそりゃもうノリノリでいっちょ噛みさせろとせがんできた。
「だってそうでしょう? こんな刺激的な体験そうそうできないもの。それにアタシの後輩に生活安全課の子がいるのよ? 役に立つと思わない?」
「だができれば逮捕は避けてやりてえんだ。後輩とは言えお巡りを噛ませるとそうはいかねえだろ?」
「まあ任せておきなさいって。そこはうまくやるよう相談してみるから。ここならお向かいに喫茶店もあるしちょうどいいわ」
「今どきの若者が待ち合わせするのに純喫茶か? 普通にチェーンのとこが無難じゃねえのか?」
「最後にもう一度話がしたいって呼び出すんだもの。ちょっと特別感のあるお店がいいってものよ? まったく女心がわかってないんだから。それにどこかに隠れて待つよりうちのお店で一杯やっていたほうがいいでしょ?」
「のった! もちろんおごりだな?」
「中瓶一本ってとこね。それ以上だともし暴れることになったときに酔いが回ってしまうものね」
「おいおい、オレみたいないい大人が暴れたりするもんかよ。まったく人をなんだと思ってヤがる? まあでも逃げたら追いかけて走るかもしれねえし、前祝いはほどほどに、だな」
オレはそう言ってロックのグラスを煽った。カランといい音が鳴るともう一杯いきたくなるが、明日に差し支えると困るのでやめておくことにする。
これが大人のたしなみってもんだ。単純に酔えばいいと安酒をハイペースで浴びるのは二十代まで、それ以降は安酒でも味わって飲むようにしていた。決していつも懐具合が寂しいからではない。
◇◇◇
翌日オレは重い頭でふらふらと起き上った。どうやら安酒にやられたらしい。なんでこういう日に限ってあの野郎、景気よくでけえの当ててきやがったんだ。オレはここ最近さっぱりだってのに。
適度に呑んで引き上げようとしたところへやってきた競艇仲間が、三万舟券を取ったからと大盤振る舞いだったのだ。
せっかくのおごり酒、断る道理はねえ。なんせ一人一本ボトルが振る舞われたんだから調子に乗って呑み過ぎちまうってもんだ。
それでも二軒目は断って帰ってきたんだからオレの自制心ってやつはなかなかやるもんだ。と下らねえ自画自賛をしながら顔を洗う。
その瞬間、少し遠くでガシャンとデカい金属音が鳴る。どうやらやつは朝っぱらから平常営業のようだ。
「探偵さん探偵さん、もう起きてる? 今日は頑張ろうね!」
「起きてるし頑張るからもっとちいせえ声でしゃべってくれ。どうも体調がすぐれねえんだ」
「二日酔いは体調不良って言わないんだけど? なんで今日は大切な仕事があるのに深酒したのよ。昨日はボートにも行ってなかったじゃないの」
「行くのも当てるのもオレじゃねえ時があるもんさ。景気のいい酒を断るんなんざ博徒の恥だからな」
「相変わらず意味わからないんだから…… それで? 午後には大丈夫なんでしょうね?」
「こんなもん起きて少しすれば抜けちまうよ。とりあえず蕎麦でも食ってくるわ」
「駅蕎麦? 私も一緒に行こうかな。せっかく一緒に食べようと思っておにぎり作ってきたんだけどお蕎麦も魅力的だもん」
「なんだと!? お前さんがオレに飯を作ってきた、だと!? それを先に言えってんだ。ありがたく馳走になるぜ。オレはおごりの気持ちを大切にする男なんだ」
「ようは食費の節約になれば何でもいいってことでしょ? 冷たいお茶も淹れて来たから今用意するね」
そう言うとルナは鼻歌交じりで飯の準備を始めた。用意がいいことで皿や湯飲みまで持ってきている。
まるで押しかけ女房だななんて言いたくもなるが、口は災いの元なのでここは黙っているに限る。
ふと結婚生活ってのはこういうもんなのかもしれねえ、なんて現実的じゃねえ考えが頭に浮かんだ。だが知らないことに対する好奇心として持っているが、あくまで好奇心のみだ。
まさかこんな十も離れた小娘と結婚するなんざありえない話だし向こうにも失礼なこと。オレは頭を振って気を確かに持てと自分を制した。
「どうしたの? やっぱり頭が痛いのかしら? 頭痛薬持ってこようか?」
「いや、そこまでは必要ねえさ。もっかい顔洗ってくる……」
今日のルナはやけにまぶしくて直視できそうにない。これも二日酔いのせいなのかもしれねえと思いながら、オレは蛇口をひねった。




