6.困った彼氏
「ねえ、なんで大学やめちゃったの? 黙ってるなんてひどいよ」
「うるせえな、そんなのオレの勝手だろ。のどかに相談する必要なんてない」
「付き合ってるのに大事なことを隠すなんて信じられないよ。それにウチ聞いちゃったんだから……」
「な、なにをだよ」
「警察です、みたいな電話かけてたでしょ? あれって詐欺の電話なんじゃないの? 最近大学の友達じゃない人たちと遊んでるみたいだし、やばいんじゃない?」
「そんなの知らねえよ。聞き間違いだろ? そんなに文句ばかり言うなら別れればいいじゃねえか」
「ひどいよ、ウチがなにか悪いことした? コウちゃんが悪い人たちと付き合って捕まったりしたら嫌だから止めてあげてるんじゃないの!」
「その上から目線で言うのがウザいんだよ。お前みたいな貧乏学生と付き合っててもロクに遊びに行けないしな」
「遊ぶも何も家賃だって半分ずつの約束してるのにもうずっと払ってくれないじゃない。彼女にたかってるだけのくせに偉そうなこと言わないで!」
「ああわかったよ、払えばいいんだろ! そんなのまとめて払ってやるよ。それにここからも出てくよ! なんだ金金って金の亡者かよ!」
「そんな言い方ひどい…… ひどすぎるよ…… もう絶対に別れるんだからね。荷物まとめて早めに出ていって!」
「言われなくてもそうしてやるよ。家賃は…… 金が入ったらまとめて払ってやるさ」
「そんなのいらないからおかしなことはしないで、ね? お願いだから……」
「っるせー!」
そう吐き捨てて、高津幸一は遠山のどかのマンションを飛び出して行った。のどかは一人残された部屋で静かに泣いている。
だが幸一が忘れていってしまったスマートフォンを見てのどかは泣きやみ、強く決心をするのだった。
◇◇◇
顛末を話し終えたのどかの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。よほど幸一とやらが好きとみえる。
オレにはただ落ちぶれたバカ野郎にしか思えないが、そうでないころを知っていれば印象は全く異なるだろう。
「それでスマホの履歴とトークからあのおばあさんにたどり着いたんです。警察へ? そんなこと出来ません…… 付き合ってたからでもありますけど、大学に入るときに一緒に上京してきた幼馴染なんです……」
「なるほど、どうにかして間に合ううちに逸れた道から連れ戻したいわけだ。だがなあ、今はどこにいるかもわからないんだろ? すでに別のところでなにかやらかしちまってるかもしれんぜ?」
「それは確かに…… でもまだ間に合うかもしれませんよね? 一応出入りしていた飲み屋さんはわかってるんですけど怖くていけなくて……」
「そりゃ正解だ。か弱い女の子一人で行ったらなにされるかわからん。か弱くなくても乱暴を厭わない野郎どもにかかったらイチコロだろうぜ」
オレは無意識に視線をルナへと移してしまった。当然脇腹にパンチが飛んでくる。だがこんな気の強い暴力三十路であろうと野郎が二・三人いたらひとたまりもない。
「それじゃオレがその飲み屋へ乗り込んでいって全員ぶっ飛ばせれば解決ってことだな。くっくっく―― オレは腕っぷしに自信があるわけでもねえから無理な相談だぜ?」
「さすがにそれは考えてません。だから何かいいアイデアありませんか? 電話して呼び出すくらいはできると思うんですけど来てくれるかどうか……」
「ふむ、わかった。その幸一とやらがまだなにもしていないことを信じて手を貸そうじゃないか。あんたはやつを呼び出すだけでいい。あとはオレが絡んでなんとかしてやろう。だがな――」
「もちろんただで全部やってなんていいません。分割でもなんでもして払います。高過ぎなければですけど……」
「いや、金のことはもういいんだ。社長がそう言っただろ? それよりも幸一が無傷とは限らねえことだけ耐えろってことだ。数発殴るかもしれねえし、すでに手遅れでパクられるかもしれねえ」
「自分が悪いんだからある程度は仕方ないですよね。でも最近ニュースで強盗みたいな真似する大学生とかのニュースが多くて怖いんです。コウちゃんがそんな恐ろしいことしちゃう前にって思ってるだけです」
「そうだな、何とか間に合うことを願って計画を立ててみよう。それじゃまた明日、夕方以降に来られるかい?」
「はい、明日はちょうどバイトも休みですしダイジョブです!」
のどかは腹をくくったように元気よく返事をした。




