5.新たな依頼人
事件は思いのほかあっさりと解決はせず、さらに深くややこしく進んでいく気配だ。
「すいません、デート中に話しかけたりなんかして。でももしかしたら相談するチャンスかもって思ったんです」
「いや、デートじゃねえから大丈夫だぜ? ちなみにオレが探偵だと知ったのは昼間の騒動の件でってことでいいか?」
「はい、あのおばあさんのことが気になって毎日出勤前に見に行ってるんですけど、その―― なんか怪し人がいるから少しだけ見張ってたんです」
「まさか通報したのもオマエさんじゃねえだろうな?」
「いいえ! それは絶対ウチじゃありません。何が起こったのかわからなくてビックリしました」
「やっぱりご近所さんの仕業ってことか…… んで探偵だったら何を相談しようというんだ? あのファックスはあんたの仕業ってことはわかるが、その意図がわからねえままだからな」
バーガーショップの店員が早退までしてオレを頼ってきた。それは別に気分を害することじゃねえ。しかしどう考えてもこれはややこしいことになる予感マンマンだ。
ばあさんにファックスを送った犯人が見つかって万事解決と行かないことくらいは覚悟していたが、まさかその犯人に相談されるとは考えていなかった。
しかもルナのやつまで相談のってあげなよとか言いだしやがって…… 他人事だと思って楽しんでる節がありやがる。
絶対これはタダ働きだと嫌な予感を確信しながらも、結局事務所まで連れてきてしまったわけだ。
「えっとコーヒーでいいかしら? ワックのよりはおいしいと思うけど苦手ならお茶か何か買ってくるよ?」
「オレはビールが――」
「探偵さんは水ね。それとも沸騰したあっついのがいい?」
「コーヒーをお願いします……」
「お手間取らせてすいません。ウチもコーヒーをお願いします」
事務所にはコーヒーなんてインスタントしかないため、ルナが一階にある自分の店からカップ入りのドリップコーヒーを持ってきた。
オレの城には似つかわしくない香りが充満していくとコーヒーも悪くないと思う。だが結局は面倒なのでインスタントか缶コーヒーで済ませてしまうのが常である。
正直言えば酒以外の飲み物にこだわりはないし、何なら酒も酔えればなんでもかまわない。それよりも大事なのは値段と場の雰囲気なのだ。
そんなこだわりのないオレでも水とコーヒーならコーヒーを選ぶ。水は水でも水の如しであれば話は別だがここでそんなもんが出てくるはずがなかった。
「それじゃまずお前さんの名前から、んで例のファックスについての事情と依頼内容を聞かせてもらおう」
「あの…… その前に…… 探偵さんへ依頼するのって結構高いんですよね? ウチってばあんまりお金がなくて――」
「ああ、いいのいいの、社長の私が今回は特別に無料で受けてあげるからね。きっと善意でやってくれたことなんでしょう? だから正直に全て話してほしいの」
「おい、勝手に無料とか、それに社長って――」
「一か月分でどう?」
「もちろん依頼料のことは気にしなくていいぜ。社長はお人よしだからな―― いてっ」
「一言多いんだから、もうっ!」
「お二人ってすごく仲いいですよね。目配せしてるところとか見て絶対に恋人同士だと思いました。でも違うなんて意外です」
「そう? きっと良く言うことを聞いてくれる部下だからそう見えたのかもね」
『誰が部下だってんだよ、まったく…… いてっ』
今のは声に出してないはずなのに突っ込みが入ってオレは飛び跳ねるほど驚いた。たまにこいつは人の心が読めるんじゃないかと思うことがある……
それはともかく、娘はマジメな顔になり自分のことを話し出した。
「うちの名前は遠山のどか、十九歳の大学生です。相談と言うのは彼氏―― いいえ、元彼のことなんです……」
やれやれ、また男女のもつれか何か知らんが色恋沙汰か? そう安易に考えていたオレは、話を聞きながら徐々に後悔の念を深めていくのだった。




