2.送り主
ちくしょう、よくよく考えてみりゃ電気屋の娘であるルナがそんなこと知らないはずがなかったんだ。それをなんでオレはマヌケなオッサンよろしくぬか喜びしていたのか。
調査の結果、ファックスに印字されていた発信元番号は、当然のようにどこから送られてきたものかを示した。そしてそれは少し離れた場所のコンビニである。
つまりは匿名と同じ。警察の捜査であれば防犯カメラのチェックをするんだろうが、大手チェーンのコンビニがたかが探偵に録画映像を開示するはずもない。
「さてと、行き詰っちまった時の対処ってもんは一つと相場は決まってるぜ」
オレは一人でぼそりとつぶやくと、口の中へ飴玉を放り込んだ。禁煙を始めてからもう二か月にはなるからすっかり慣れて吸いたくもならねえ。
それどころか他人が当たり構わずぶちまける紫煙の匂いが不快に感じて気分が悪くなるほどである。まったく人間とは身勝手なものだ。
そんなことを考えながら少し小さくなった飴玉をガリッとかじる。その音を合図にオレは事務所を出て現場へと向かった。
刑事用語で現場百遍なんて言葉があるように、まずは手がかりを集めるために現場へ出向くのが基本中の基本だ。
そうは言ってもノープランでばあさんに会っても仕方あるめえと考えたオレは、とりあえず周辺状況の把握から始めることにした。
ばあさんの家は国道にはさまれた住宅街で夜は人通りも少なく外灯も多くない。つまり犯罪者にとっては狙いやすい地区と言えなくもない。
だが家と家の間が狭く大きなマンションも少ない下町特有の立地なのは不幸中の幸いである。防犯意識が高いわけでなくとも、古くから向こう三軒両隣なんて言葉が当たり前な地域なのだ。
もしどこか近所の家で異変があればすぐに気が付くだろう。若いやつらはおせっかいが過ぎるだとかプライバシーがとかで嫌いがちでも、年寄連中にしてみれば住み心地は悪くない。
「だから説明してるでしょ? 嘘なんかじゃねえんだってば。とりあえず電話させてくれよ。信頼できるやつを呼んで説明させるからさ」
「そんなこと言って証拠隠滅を図ったり仲間を逃がしたりするつもりじゃないのか? とりあえずは署まで来てもらおうか。話はそこでゆっくり聞かせてもらう」
「わかったわかった、もうなんとでもしてくれ。その代りこの野次馬どもを何とかしてくれよ。まったく商売あがったりだぜ……」
どうやら近所の誰かから通報があったらしく、不審者としてお巡りを呼ばれちまった。もちろん調査対象のばあさんも表に出てきてしまったので、今後は秘密裏に動くのは難しいだろう。
◇◇◇
「もう、探偵さんったら。すぐに呼んでくれたら家にいたのにさあ。今日は夕方からヨガの日だったからジムに行っちゃってたんだよ?」
「そんなもん知るかよ。ポリが署まで行ってからじゃねえと電話させねえって言いやがったから仕方ねえだろう。まったくヒデエ目にあったぜ」
「まあ私に責任はないけどかわいそうだったから夕飯くらいおごってあげる。運動の後でお腹空いてるのに急に呼び出されちゃったからね。言っとくけどおごるのはご飯だけよ?」
「なんだよ、ビールの一杯でもつけてくれてもいいだろうに、と言いたいところだが今晩は行きてえところがあるんだ。一人じゃ気まずかったから丁度良かったぜ」
「一人で行きづらいところって…… こっちから誘ったからってへんなとこ連れ込む気じゃないでしょうね!?」
「バカ言うんじゃねえよ。おめえさんに手を出したら親父さんにこっぴどく叱られて事務所畳むことになりかねん」
「またそういうこと言うんだから。パパはやさしいからいくら探偵さん相手だって乱暴なんてしませんよーだ」
「アレがやさしい? ま、今日はそう言うことにしとくぜ。んでよ、オレが行きてえのは駅前のバーガーショップだ。オレみてえなの一人だとちと気まずいだろ?」
「別にそんなことないと思うけど? でもハンバーガー食べたいなんて珍しいね」
「食べたかねえが確認してえことがあるのさ。しかも二人で行くほうが都合がいいと来た。こりゃ案外あっさりと片付くかもしれねえ」
オレは警察署まで迎えに来てくれたルナへ向かってニヤリと笑いかけ、飴玉を口へと放り込んだ。




