10.日中のよっぱらい
表で待機していたマー君からママへと着信が入った。ということは説得は無駄に終わったってことだ。
そうなるといよいよオレの出番ってわけで、意気揚々とスナックを出る。すると斜向かいにある喫茶店の前で、ターゲットである高津とのどかが押し問答をしているのが見えた。
「おいおいご両人、昼間っから痴話げんかか? 妬けるねえ。だが女の子を泣かせちゃいけねえぜ?」
「何だよコイツ、絡んでくるんじゃねえよ。自分がモテないからって人に八つ当たりするなんて。昼間から呑んでるようなヤツはこれだから――」
「呑んで何が悪りいんだ? 大人にはお坊ちゃんにはわからねえことがあるんだぜ? どうせ親から仕送りしてもらって遊んでるだけの大学生あたりだろうに」
「ふ、ふざけんな! おれだってちゃんとバイトとかしてるんだよ! 人の苦労なんてなにもしらないのに偉そうに絡んでくるなよ、この酔っぱらい!」
「酔っぱらってなんてねえってんだよ。甘ちゃんだから説教してやってるんだろ? ありがたく聞けっつーんだ、こら逃げんじゃねえ」
「コラ離せ、のどか、なんとかしろよ。なんでこんな変なところに連れてきやがったんだ!」
オレが”演技で”酔っぱらったふりをしながら高津へ絡んでいると、予定通りデカのマー君がやってきた。
「こらこら、昼間っからケンカとは穏やかじゃないな。ちょっと話を聞かせてもらおうか」
「け、警察!? この酔っぱらいが一方的に絡んできて困ってるんだ。何とかしてくださいよ」
「なにかトラブルでもあったんじゃないのか? まずは双方に話を聞いてみないとな。キミはこの二人の知り合いかね?」
「い、いいえ、こっちの彼の―― 元彼女です……」
「ではキミも一緒に来てもらおうか。なあに、形式的に話を聞くだけだから心配はいらない。状況がわかったらすぐに帰っていいからね」
けっ、マー君の野郎のどかには甘々なこと言ってやがる。どうでもいいから早く何とかしろとのど元まで出かかっているが、グルだとばれるわけにはいかない。
オレはバカバカしくなりながらも、高津がその場から逃げてしまわないようシャツをつかんでいるままだ。
その時――
『バッチン!』
突如オレの頬に痛みが走った。コンチクショウ、オレを殴りやがった。大人しく調書取られてりゃいいものを、これじゃ下手すりゃ傷害がついちまう。
だがまあガキに一発喰らったくらいじゃどうってことは無い。オレは反撃をする振りをしながら高津を締めあげるように拘束した。
「こらこら二人とも興奮するんじゃない。とりあえず離れて。よし、二人ともこっちへ来るんだ。逃げたら手配しなきゃならんからおとなしく言うこと聞いてくれよ?」
手配と聴いた瞬間、高津は観念した様子で力を抜いた。その態度を受けてオレも素直に手を放すしたのだが――
その瞬間、マー君の背後にいた制服のお巡りが走り寄ってきてオレを羽交い絞めにする。さすがにワッパはかけられなかったが、そのままパンダにのせられてしまった。
かたや高津はと言えば、マー君に連れられて別のパンダへと向かっている。これで計画通りなのだが、オレまでパクられているのは予定にはない。
「さて、これで万事オッケーだな? それじゃオレは引き上げるから降ろしてくれ」
「何を言っているんだ? お前は酔っぱらって絡んでいた張本人じゃないか。交番でってわけにはいかないから署まで来てもらうぞ」
「ちょっ、まて、待ってください。マー君は? あいつに聞いてくれよ」
「真栄田部長はもう一人の事情聴取で忙しいから後でな。よしいけ」
走り出すと同時に聞こえてきたサイレンに、オレは絶望と憤りを感じるのだった。




