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飲んでいた水が…

 頑強なる敵陣の真っ只中を強行突破すること幾度か…遂に部隊は7月4日湖口城頭高く日の丸を掲げた。九江の防衛陣のが臨め、一同の志気益々旺盛であった。

 同地を占領すると、我々の湖口占領を察知したのか対岸から野砲の洗礼を数発受けるも損害はなし。それから間もなくだったか、わが海軍航空隊の下駄履機が遥か西方の対岸の敵陣への爆撃や機銃掃射を行っている音がしたので数人と共に小高い丘の上に駆け上がり、この海鷲の乱舞する有様に見入っていた。

 我々の居る処ろは鄱陽湖の東側台地で目下には大海の如き湖水が遠く西南に向かって広がっており、遥か南に霞がかった上空に剣峰が見える素晴らしい景色はまるで絵画のようであった。 

 私はとある民家にて部隊と共に同地付近のけいびにつき、周辺の掃討を実施する。その後の情報によれば、部隊の敵中突破の快進撃のために後方の弾薬食料部隊の追随が追いついておらず、加えて大した戦力を持たぬ補給部隊は各所において有力なる敵部隊の反撃に遭遇して損害を被ったために第一線の補給どころではなく、再度この敵部隊に対して作戦行動をせねばならなかったとかの情報を耳にする。この頃に、我が部隊にも糧秣の不足をきたし始めたのである。

 十日近くもたつとおおかたの食べ物は無くなり、種籾やかぼちゃの新芽、硬すぎて歯が立たないようなそら豆を炒ったのを齧るなどして空腹を満たしていたが、携行していた調味料や岩塩さえも舐め尽くし、飢餓感が襲ってきたのである。

 我々は薄暗い民家に小隊毎または分隊毎といった形で宿舎としてはいたがどの家も同じように不潔極まりない。藁を敷いて寝泊まりしているが、昼は大蝿が寝ている顔から鼻へと遠慮なく付き纏い、払えど払えど付きまとう。日没となるや、今度は悪性マラリア蚊の絶え間ない襲来で、数倍の敵兵からの攻撃にも音を上げない強者達も全くなす術を知らずお手上げの有り様である。

 そして我々にまた追い討ちをかけるかのような事態がまた起こる。揚子江の水は満々として濁水が流れてはいるが、これは赤いと言うか紅色と言うか濁り水であり、例えこの水を汲み取っても三日経っても四日経っても汚物が沈澱せずいつまで経っても濁り水であった。したがって飲料水には適さない。現地人はそれにミョウバンを入れたら汚物が沈澱するとは言うが我々にはそんな芸当は出来ないので、今までは1番手軽な水田の水を沸かして飲用していたのであったがどうしたことか俄かに田の水がへりはじめていたのだった。水を汲む順番を決めたりしてつないではいたがいよいよ枯れ始めたのでどこかに水源はないものかと田の中央付近に足を運ぶと私は息を止めて愕然とした。



 湖口攻略時の戦闘で傷ついた三名の敵兵が、身を隠す為伏せていたのだろうが、重傷のため動けなくなり遂に死亡したのだろう。

 その死体が腐乱状態となり、付近一帯に臭気が満ち溢れていたが、全くもって意表をつかれたため声も出なかった。鳥がたくさん集まるとこを見に行ったら遺体の屍肉を貪り食べていたのを見たことはあった。そういえばこの田からも幾度か鳥が飛び立つのを見たことがあったことを思い出した。

 湖口のこの民家に駐留してはや十数日、この期間中、この田の水を飲み、あるいは体を洗い、またこの数日は水の減少に際し競い合うようにしてこの死体の浮く水を飲んでいたのかと思うと、全て吐き出してしまいたい気持ちになるが今更悔やんでも仕方ない。この頃から隊内に下痢患者が続出することとなる。

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