第六話 再会と新たな挑戦
エリュシオン大陸へと向かう巨大な魔導船の甲板。強風が吹き荒れる中、俺は潮風を胸いっぱいに吸い込んで水平線を眺めていた。過酷だったアーナルト大陸での日々を思い返していると、ふいに背後から信じられない声が鼓膜を震わせた。
「……嘘、ヘンリー……?」
振り返ると、そこには見間違えるはずもない美しい金髪が風に揺れていた。以前よりもずっと大人びて、研ぎ澄まされた鋭い剣気を纏う美少女――マリアだ。
「マリア……! どうしてこんな所に……!」
「ああ、神様! ヘンリー!!」
マリアは床に剣を放り出し、弾かれたように俺の胸に飛び込んできた。俺も力いっぱい彼女の細い背中を抱きしめる。聞けば、彼女は俺を探すために世界中の港を巡り、この船に乗り込んでいたらしい。
奇跡のような再会に言葉はもう必要なかった。俺たちはすぐに船室へと駆け込み、鍵を下ろした。何年もの空白と絶望を埋め合わせるように、俺たちは涙を流しながら激しく唇を重ねた。互いの生存を喜び、深く愛を確かめ合うように肌を重ねる。前世の孤独な引きこもりだった俺を、ここまで狂おしく求めてくれる存在。その喜びを噛み締めながら、俺たちは長い時間をかけて愛の営みに没頭した。
一ヶ月の航海を経て、俺たちは無事に懐かしきエリュシオン大陸の土を踏んだ。
二人の目的地は、かつて暮らしたグレイ=ゲイツ領だ。道中、俺たちを阻もうと様々な魔物が群れをなして襲いかかってきたが、今の俺たちの敵ではなかった。
「ふっ!」
マリアが一歩踏み込み、目にも留まらぬ神速の抜刀術を放つと、巨大なオーガの群れが一瞬にして細切れにされる。彼女は俺と離れていた数年間、血を吐くような修行の末に、世界に数人しかいないとされる『剣帝』の称号を得るほどの高みへと到達していたのだ。
「流石だな、マリア。俺も後れを取るわけにはいかない。――『氷結粉砕』!」
俺が無詠唱で王級魔法を放つと、残った魔物たちは瞬時に凍りつき、風と共に砕け散った。
剣帝と王級魔法使い。最強のコンビとなった俺たちは、野営を続けながら領地へと進んだ。道中、生死をかけた戦いの反動からか、俺たちは週に4回は同じテントで激しく肌を重ね合った。互いの温もりを感じるその時間は、荒んだ世界を旅する俺たちにとって、何よりも大切な心の拠り所だった。
しかし、数週間後に辿り着いたグレイ=ゲイツの領都で、俺たちを待っていたのは残酷すぎる現実だった。
かつて壮麗だった伯爵邸は荒れ果て、別の貴族の旗が翻っている。町で情報を集めると、祖父ギデオンは魔力災害の責任を問われすでに処刑され、両親は紛争地帯に飛ばされて凄惨な最期を遂げたという絶望的な事実が判明したのだ。
「お父様……お母様……お祖父様……」
崩れ落ち、声にならない悲鳴を上げて泣き崩れるマリア。俺はかける言葉も見つからず、ただ彼女の震える肩を強く抱きしめることしかできなかった。
数日後、涙を枯らしたマリアは静かに、しかし強い決意を秘めた瞳で俺に告げた。
「ヘンリー。私、一人で旅に出るわ」
「……行くのか」
「ええ。両親の本当の最期を知りたい。それに、奪われたこの家を再興するには、今の私ではまだ足りないの。……必ず、またあなたの元へ帰るから」
俺は引き留めなかった。彼女の背負った悲しみと覚悟の重さが、痛いほど分かったからだ。熱い口づけを交わし、俺はただ一人歩き出す彼女の背中を見送った。
その後、俺は実家であるグレイ=クロス村へ帰還した。幸運にも村は災害から免れており、父エリオット、母セシリア、そして成長した妹のリリィとルナと涙の再会を果たした。俺が立派な大人になり、王級魔法まで習得したことに家族は驚愕し、そして心から喜んでくれた。
だが、この小さな村で平穏に暮らすつもりは俺にはない。マリアの力になるため、そして自分自身の力をより確固たる地位にするため、俺は王都にある『ノルマ魔法学院』への入学を決意した。
数週間後、王都ノルマへ向かうため、俺は路銀稼ぎも兼ねて乗合馬車の護衛兼乗客として旅に出た。
その道中の中継地点、大きな宿場町で夜を明かすことになった時のことだ。
「あら? どこかで見た顔だと思ったら……私の可愛い弟子じゃない」
宿屋の食堂で背後から艶やかな声をかけられ、俺は思わず振り返った。そこには、青いローブを纏い、妖艶な微笑みを浮かべる師匠・ニキシーの姿があった。
「ニキシー!? なんでこんな所に!」
「ちょっとした気まぐれよ。まさかこんな所で再会するなんて、運命かしらね?」
その夜、俺たちは当然のように同じ部屋へ入った。師匠との久々の再会に酒も進み、積もる話を終えると、夜が更けるまでベッドの上で激しくも懐かしい魔力の交わりと愛の営みを楽しんだ。
翌朝、どこかスッキリした表情のニキシーと別れ、俺は再び馬車に揺られた。
やがて目の前に、巨大な城壁に囲まれた王都ノルマの壮大な街並みが見えてくる。期待と少しの緊張を胸に、俺は魔法学院での新たな生活へと足を踏み入れた。




