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第五話 冒険と鍛錬

スヘンド族の村での生活は、俺の体に「戦士としての生存本能」を徹底的に叩き込んだ。

「ゼノビア、色々と世話になったな」

「ふん、死ぬんじゃないぞ、ひ弱な人間」

見送りに来たゼノビアと拳を合わせ、俺は魔族の大陸アーナルトの奥地に位置するという人間の居住区、マルロ都市へと歩みを進めた。

荒野の旅は過酷を極めた。エリュシオン大陸の魔物とは比べ物にならないほど凶暴な獣たちが、次々と襲い掛かってくる。俺はマリアから贈られた杖を構え、無詠唱の『ウォーターカッター』や『ウォーターバレット』を駆使して血路を開いていった。剣王マレーのしごきのおかげで、魔法を放ちながらの近接回避も板についている。

だが、都市まであと少しという谷間で、俺は絶望的な巨体と遭遇した。

「……冗談だろ」

全長十メートルはあろうかという双頭の炎竜ツインヘッド・フレイムドラゴン。中級魔法では鱗一枚傷つけられないほどの圧倒的な魔力を放っている。俺が死を覚悟し、全魔力を注いだ魔法を撃とうとしたその時だった。

「あら、若い芽が摘まれるのは忍びないわね。——『水神の息吹リヴァイアサン・ブレス』」

透き通るような女の声が響いた瞬間、周囲の気温が急激に下がり、大気中の水分が一瞬にして巨大な氷の濁流へと変貌した。その濁流は炎竜を飲み込み、悲鳴を上げる間もなく一瞬で氷の彫像へと変えてしまったのだ。

「す、げえ……」

唖然とする俺の前に降り立ったのは、深い青色のローブを纏い、水面のように揺らめく長い蒼髪を持つ絶世の美女だった。

「私はニキシー。しがない『王級魔法使い』よ。あなた、中級魔法を無詠唱で連発していたわね。なかなか面白い魔力操作の癖をしているわ」

王級魔法使い! 俺は迷わずその場に膝をつき、頭を下げた。

「お願いします! 俺を弟子にしてください!」

強くなければ、あの海を越えてマリアたちの元へは帰れない。ニキシーは面白そうに目を細め、「いいわよ。暇潰しにはなりそうね」と微笑んだ。

マルロ都市での修行と濃密な夜

魔族と人間が入り混じる混沌とした巨大街、マルロ都市。俺はニキシーの住まう塔に転がり込み、そこから地獄のような、そして至福の修行の日々が始まった。

ニキシーの指導は、母セシリアの優しい教えとは次元が違った。

「魔法とは世界の理を騙すこと。中級までは魔力による『事象の再現』だけど、王級は『事象の創造と支配』よ」

彼女は俺の無詠唱の才能を高く評価し、さらに魔力の純度を高めるための過酷な瞑想と、極限状態での魔法構築を徹底的に叩き込んだ。

そして、厳しい修行の合間、同じ屋根の下で暮らす二人の距離が縮まるのに時間はかからなかった。

夜の静寂に包まれる塔の最上階。ニキシーは昼間の厳しい師匠としての顔を崩し、大人の女性としての艶やかな魅力で俺を導いた。

「魔力は心と体の状態に深く結びついているの。あなたの全てを、私に見せなさい……」

薄暗いランプの灯りの中、俺たちは肌と肌を重ね合わせた。互いの吐息が混ざり合い、体内の魔力が共鳴して熱を帯びていく。彼女との行為は、単なる快楽の追求ではなく、互いの魂と魔力の奥深くまで触れ合うような、濃密で神秘的な儀式でもあった。

前世で孤独だった俺の心を満たし、同時に魔力の器を限界まで押し広げていく。彼女の滑らかな肌に触れ、甘い声に耳を傾けながら、俺は魔法の真髄を文字通り「体」で学んでいった。

王級到達、そして海路へ

マルロ都市に来てから三年が経過していた。

俺の体はすっかり大人の男の骨格に成長し、前世の面影はどこにもない。

ある日、都市の外れにある荒野で、俺は静かに杖を構えた。

体内の魔力は、かつての数十倍に膨れ上がっている。周囲の水分だけでなく、大気そのものの温度を支配するイメージ。

「……『絶対零度のコキュートス・プリズン』」

無詠唱で放たれたその魔法は、前方数百メートルの空間を瞬時に凍結させ、巨大な氷の要塞を創り出した。空気さえも凍りつく、まごうことなき王級魔法の顕現だ。

「……見事ね、ヘンリー。もう私から教えることは何もないわ」

後ろで見守っていたニキシーが、どこか寂しげに、しかし誇らしげに微笑んだ。

「ニキシー……あんたのおかげだ」

「立派な王級魔法使いになったわね。……さあ、行きなさい。あなたには、帰るべき場所と、待っている人がいるんでしょう?」

彼女は俺の事情をすべて知っていた。俺の心の中に、常にマリアという少女がいることも。それでも彼女は、俺を全力で育て上げてくれたのだ。

数日後。

俺はマルロ都市の港に立ち、エリュシオン大陸へ向かう巨大な魔導船の甲板にいた。

「ニキシー! 元気でな! 絶対に恩は忘れない!」

岸壁で見送る青い髪の魔女に向かって大きく手を振る。彼女は小さく手を振り返し、やがて群衆の中に消えていった。

海風が俺の頬を撫でる。

(待っててくれ、マリア。父さん、母さん、リリィにルナ。必ず生きて再会する)

俺は腰に差した杖を強く握りしめた。王級魔法と、実戦で鍛え抜かれた剣術。

過酷なアーナルト大陸で生き抜き、力を得た俺の次なる目的は、エリュシオン大陸への帰還、そして奪われたグレイ=ゲイツの領地と家族を取り戻すことだ。

波しぶきを上げ、魔導船がゆっくりと進み始める。

未知なる海原の向こうに待つ運命へ向かって、俺の航海が始まった。

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