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第四話 始まり

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白い光が収まったとき、俺を包んでいたのは暴力的なまでの熱気と、鼻を突く硫黄の臭いだった。

そこは、人間が住む「エリュシオン大陸」から遠く離れた、魔族の闊歩するアーナルト大陸。

「……最悪だ。本当に一人ぼっちになっちまった」

前世の引きこもり時代、部屋に一人でいるのは平気だった。だが、この異世界の荒野で独りきりというのは、死と隣り合わせの絶望を意味する。

俺を襲ってきたのは、皮膚が岩のように硬い「アイアン・ライノ」の群れだった。俺はマリアからもらった杖を握りしめ、必死に魔力を練った。

「来いよ……俺は、もう逃げないって決めたんだ!」

無詠唱の『ウォーターバレット』を連射し、魔物の眼球を正確に撃ち抜く。剣王マレーに叩き込まれた身のこなしで突進をかわし、至近距離から最大火力の魔法を叩き込む。

数日間の彷徨の末、俺はスヘンド族という魔族の集落に辿り着いた。彼らは角を持つ屈強な戦闘民族だったが、俺が魔物を仕留める実力を見せると、意外にも「客人」として受け入れてくれた。

村の戦士長である女性、ゼノビアは、褐色の肌に野性味溢れる肉体を持つ美女だった。

「お前、人間にしてはいい動きをするな。気に入った」

スヘンド族は強さを尊ぶ。俺は彼女と共に魔物狩りに精を出し、背中を預け合う仲になった。そして夜には、野性的な本能のままに肌を重ねることもあった。それは、マリアとの甘美な愛とは違う、明日をも知れぬ戦士同士の激しい生のぶつかり合いだった。

だが、その熱狂の最中でも、俺の脳裏にはいつもマリアの寂しげな笑顔が浮かんでいた。

その頃、俺たちがいたグレイ=ゲイツ領は地獄と化していた。

魔力災害は単なる自然現象では終わらなかった。空間の歪みは、伯爵家の人々を無慈悲に各地へ弾き飛ばしたのだ。

マリアの両親――アルバートとエリスが飛ばされたのは、絶え間ない内戦が続く隣国の紛争地帯だった。

運悪く敵軍の陣地近くに現れたアルバートは、その高貴な身なりからスパイの疑いをかけられた。

「待て! 私は隣国の貴族だ、話を聞け!」

その叫びも虚しく、騎士としての矜持を見せる暇もなく、彼は兵士たちの槍に貫かれ、命を落とした。

残された妻のエリスもまた、同じくスパイ容疑で拘束された。しかし、彼女を待っていたのは死よりも過酷な運命だった。

「この女、いい体してやがる。尋問の前に、たっぷり楽しませてもらおうぜ」

狂気に満ちた兵士たち。一人、また一人と、彼女の尊厳を蹂躙していく。数日にわたる凌辱の末、エリスの心は完全に壊れた。虚ろな瞳で空を眺めるだけの人形となった彼女は、その後、戦利品としてある王族の元へと送られていった。

一方、領都に残っていた祖父ギデオン。彼は領民を守れなかった責任、そして災害を防げなかった失態を敵対派閥に突かれ、弁明の機会も与えられぬまま処刑台へと送られた。

「グレイ」の名を持つ家系は大きく四つ。

本家のゲイツ、そしてフィル、ベン、そしてメイル。

伯爵位と広大な領地は、この機を逃さず動いたベン侯爵によって一時的に接収されることとなった。

幸いなことに、俺の実家であるグレイ=クロス村は災害の中心地から離れており、父エリオットや母セシリア、妹のリリィとルナは無事だった。しかし、彼らもまた、長男である俺が消えた悲しみに暮れていた。

一人、ゲイツの屋敷に残されたマリアは、絶望の淵にいた。

両親の悲報、祖父の処刑、奪われた領地。そして、何より愛するヘンリーの消失。

普通なら精神が崩壊してもおかしくない状況だったが、彼女の瞳にはまだ光が宿っていた。

「ヘンリーは生きてる。あの人が、私を置いて死ぬはずがない」

彼女は夜な夜な、ヘンリーとの記憶をなぞるように自らの体を慰めた。指先でなぞる感触の中に彼の温もりを探し、溢れる涙を堪えながら、募る想いを力に変えた。

「今の私じゃ、彼を助けに行けない。もっと、もっと強くならなきゃ」

マリアは、マレー師匠の紹介で、世界に数人しかいないとされる**「剣帝」の一人、バルカス**に弟子入りを志願した。

「娘よ、地獄を見るぞ」

「望むところです」

ヘンリーに贈った杖。彼がそれを使ってどこかで戦っていると信じて。

マリアは、かつてないほど鋭い剣気を放ちながら、血の滲むような修行に身を投じていく。

アーナルト大陸とエリュシオン大陸。

引き裂かれた二人の道が再び交わるまで、まだ長い時間が必要だった。

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