バレンタイン閑話:IFリィンといっしょ
走って探していたのだろう。上気した顔はその空のような髪や海のような眼の色との対比でなんとも可愛らしく見える。いや、実際に美少女なのだ、可愛いのも当然なんだろう。むしろ別の意味で上気していないか心配するレベルだ。
幸いと言うべきか、リィンは別に自宅に居なかったことを怒っている訳では無いようだった。彼女が頬が赤くなるまで走るのにどの位時間が必要かという逆算はこの際しないことにする。好かれてるなぁははは。あ、日の出がきれいだなぁ。
テンプレートなツンデレ幼馴染の如く、つまりはデレ期というよりは誰も居なければデレる昔ながらのツンデレ幼馴染の攻撃力というものであるが、正直昨今の幼馴染のように照れ隠し暴力が無ければ最早殺人的な破壊力であることは説明するまでも無いだろう。
対面した以上、逃げ場は無い。逆に聞きたいんだけど、赤みの刺した頬と潤んだ瞳で、若干の上目遣いとともに今日は一緒に居てくれないと聞かれて、逃げ出せる奴とか居るのだろうか? 正直私には無理だった。理性的な判断理由もある。
豊穣の日、女性の誘いを断るという事は貴女に対して好意を抱いていませんという事に他ならない。むしろ嫌いだから二度と話しかけるなまである。何処のどいつだよそんな風潮を生み出した屑は。この場合逃げようとする人間が屑という事は忘れておく。
年貢の納め時、という単語が頭を過る。ま、まだだ! 智慧を絞れ、考えろ、イベントなんぞに屈してたまるものか! 諦めなければ、必ず活路はあるはずだ! 馬鹿野郎俺は勝つぞお前!
考えている内に、するりと腕を組まれている。感じる感触と心音はこちらにも緊張を強いるもので、それを向こうも感じたのかふと表情が強張る。嫌われてた、のかな、なんて、そんな、一言が、呟かれて。そんな顔をさせたいわけじゃ無くて。
どうしてそんなにも好かれているのか、物語だとか、強制力だとか、そうやって言い訳をして逃げるのも、いつかきっと胸を張って受け入れるだとか上から目線で、そんな自分への怒りもあったのだろう。気が付けば、リィンの肩を掴んでいた。
何を口走ったのか、ほぼ無意識に垂れ流した本音は、上気どころか完全に真っ赤にすることに成功していた。心音がうるさい。多分私の顔も同じくらい赤いのではないだろうか。おい、なぜ喉を鳴らす? 顔を近づける? まてまてまt
ほんの、唇が触れるだけの。それでも、想いは痛いほど伝わるような。一瞬だったのかもしれないし、感じた時間通りにどこまでも長い間だったのかもしれない。感じた衝撃は何処までも大きくて、ぶるりと、身体が震える感触。
うぬぼれでなければ嬉しさで頬を伝う涙と、同時に別の場所から流れ出ている乙女の涙。混乱や恥ずかしさ、その他感情が混ざりすぎてグルグルと渦巻く瞳からは若干正気が欠けていると判断できる。誰だ、こんな属性を付けたのは。
文字通りに炎を吹き出しながら凄まじい勢いで去っていくリィンを見送りながら、私は冷静になって決心をするのであった。よし、埋まろう、と。
汗という可能性が考慮される以上100%確実にKENZEN




