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バレンタイン特別閑話:プロローグ

 この世界は一度ほぼ滅亡を迎えている。人類の9割が死滅した最初の魔王の爪痕は、しかしながらそれまでの文明や文化までを滅ぼすには至らなかった。正直この世界の人類のしぶとさは前世のアレ並みでは無いだろうか。


 大陸の東西南北で四季ともいうべき環境格差があり、それに伴っているのかどうかはさっぱりわからないが農作業なども前世の知識など欠片も役に立たないのはまあ仕方のない事だろう。知識チートなど高尚な真似は出来ない。


 そんな不思議ファンタジーな世界であってなお、実にふざけたクソッタレな祭日は存在しているのはなんの冗談なのだろうか。具体的に言えばバレンタインやクリスマスを悪魔合体させたような代物である。胃が痛い。


 いつか思った事だが、この世界の作者はやはり汚物の類に違いないとなんとかして報復出来ないか考えてみるも、拙い頭で出した結論は因果律とかそんな感じのふわっとしたやつでこの世界が存在しなくなる可能性。流石にその規模で自殺などはしたくない。


 人口が足りない、だから増やそうとなるのはわかる。ベビーブームだとかそう言った概念も理解はしている。流石にこの世界の年齢ピラミッドなどは把握していないが、おそらく昔から常に三角形だったんじゃないだろうか。


 つまりまぁ、崩壊した文明とやらの残留物に時代が求めた内容を上乗せして全体の共通認識となった、なってしまったアホのような設定の産物が、今日という日の簡単な背景という訳らしい。深夜未明の時点で闇に飲まれた我が家を遠くに溜息を吐く。


 豊穣の日、などと名付けられた今日の簡単な説明をすれば、女性側が積極的に男性側に働きかける祭り兼休み兼愛を育む日と言った所だろう。前日時点で睡眠薬を盛られているのに気がつかなければ初手でチェックメイトだったのには肝が冷える。


 別に私に欲が無い訳では無いが、かと言って据え膳ならなんでもOKと言えるほど開放的な訳でも無いし、思う所がないと言えば嘘になる程度には心に後ろめたいものを感じる訳で。ブレインウォッシュとまでは言わずとも、マインドコントロール的な。


 故に自宅からは距離を取る。今日は帰らない。チョコレートを貰えない事を嘆く程度ならラブコメだが、プレゼントは私とか完全にノクターン案件である。かと言って直接拒否などすればどうなる事か。あくまで気を持たせつつ距離を保ちたい。


 節度あるお付き合いなどと言えば聞こえが良いが、結局は侍らせた女の子を弄ぶ鬼畜外道の類である。自己嫌悪で胃が痛い。これが紛い物なりにも主人公を目指した代償なのだろうか。


 物語が一段落すれば、きっと強制力だとか矯正みたいな物は無くなる筈で、そうなったらきっと正面から向き合わなくてはいけないんだなぁと、そんな投げやりな決意を固める。まあ今日は何とか逃げ切ろうと、そう思って振り返った目の前に居たのは……

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