決着
以前金髪の光属性と戦った時、私は確かにビームを切り払うことが出来た。だが、あの攻撃は厳密には光線ではなかった。
確かに速度は光に近く、熱を与え、異常な重量を感じさせたのだろう。だが、それならば今放たれるこれは一体なんだというのか。同じ属性とは思えないほどに練り上げられたそれこそは正しく光砲と呼ぶべきもの。
光速無限質量無限熱量概念砲撃とでも名付けるべきそれは、命中した部分に対してその通りの現象、つまり防御など意味を成さぬ不可避の破壊を叩き付け、後には消し炭一つ残らない消滅とでもいうべき跡だけが残る正しく必殺の一撃。
同じく闇属性の極致に至るその身を守るように展開されるソレならば防ぐこともできるかもしれない。最強の矛と盾。問題なのはそのどちらもが同じ人物の手にあるということ。そこにあるのは矛盾などではなく、ただ圧倒的な蹂躙のみ。
というのが、決勝までで兄上殿を観察して手に入れた情報である。馬鹿なのだろうか。それでいて死者も怪我人も出していない辺り、流石は魔王と戦ってすらいないにも関わらず勇者ともてはやされるだけの事はある。もう一度言う、馬鹿じゃなかろうか。
対する私のスペック、無属性、以上。これがゲームであればコントローラーを投げるべきクソゲー待ったなしだ。絶対先制でカンストダメージを叩き込んでくる、すべてのダメージを0にするシールド付きの敵なんて誰が考え付くのだろうか。
闇の盾こそステラのように津波状にして使っている光景を見なかったものの、使えないではなく必要が無かっただけと見るのは当然として、それ以上の使い方とかもしてくるのではないだろうか。正直始まる前からギブアップしたい。流石推定負けイベント。
と諦めるわけにもいかないので、せめて精一杯の抵抗を、というのが数日前までの私の内心であった。傍から見れば自暴自棄に見えるほどの特訓と周囲の罵声すら始まった劣悪な環境、主人公じゃなければ折れること間違い無し。
決勝前日の夜に訪ねてきた面々は意外にもヒロインズ以外にも居たが、その全員が特訓もせずにのんびり部屋を掃除している私に驚愕していた。ついでに一本を除き全ての剣が見当たらないことにも。まあ普通なら諦めたと思える事態ではあった。
流石の私でも遂に耐え切れずになどと言われているので勝利宣言などして見せたが、逆に心配されたのは記憶に新しい。というか昨日の事だからそうでなければ危ない話である。
そして、決勝戦の幕が切って落とされる。感じるのは敵意ではなく殺気。鋭く研ぎ澄まされたそれが向けられるのは頭部、必殺の一撃が必殺の位置へと放たれる。回避は不可能、そして防御も不可能。ならば死ぬより他にない? 否。
斬撃が走る。確かに斬った。であれば生きているのは自然の道理である。刀もどきを見れば無傷。上手くいって当然。1歩前へと進む。生憎と歩法までは極める時間が足りなかった。最速で突き進んでも3歩はかかる。
散弾のようにして放たれる光砲。だが所詮は一切が同時に辿り着く訳でもなし。その間際を縫って斬り捨てる。2歩、足元に違和感。薄く展開された闇は衝撃を飲み込むだけでは足らずに捕まえて離さないとばかりに足を覆う。
動きを止めた私に好機と見たか、後ろに回り込もうとする兄上殿。だが遅い、既に足に纏わりつく闇などは斬り払った。最早邪魔をするものは無い。3歩、間合いに捉える。
苦し紛れ、ではないのだろう。驚くほどの速度でその手に握るのは光と闇で出来た剣。混ざり合い、それでいて反発せずに纏まったそれは全てを受け止め、消し飛ばし、勝利する魔法の剣なのだろう。兄上殿にしか使えない、一つの魔法の極致。
ぶつかり合う事は無い。そうなれば負けるのは私なのだから。逆に言えば、勝つのが私である以上は負けるのは兄上殿である。
まるで羨ましいというような、そんな不思議な顔を眺めることもなく意識を奪う。片刃故に峰打ちでござるといっても金属で頭や首を狙えば加減が上手くいかなければ死ぬだろうが、そこは問題ない。
かくして静寂に包まれる中、誰もが予想すらしていなかったであろう決着。物音一つ立たない中で私は、戦いのインフレが加速したら辛いだろうななどと呑気に考えていた。
――ふむ、せっかくの駒が負けたようだね――
――イレギュラーか、計画に修正が必要では?――
――勇者が負けたのは癪だが、サブプランでも問題あるまいて――
――向こうの駒にイレギュラーをぶつけよ、それで解決――
――そう単純な話でもあるまいが――
――まあいいじゃないですか、メインプランは凍結でいきましょう――
――そうだね、人間ならこちらの駒と言えるだろうしね――




