第8話 おでんで人は癒される
あの時、妹は茶釜さんの中にはたしていたのか。
疑問は残るが、今はアグリコさんに次の場所を指定してもらわないと動けない。
魔王城下でも魔道具ホイホイを使ったら、40個もの魔道具が回収できた。
それらはせっかくの脱走の機会を得ていながら、過去の所属も曖昧で、行くあてのない魔道具たちだった。
行くところがないから、倉庫の近辺を彷徨する。
とりあえずの自己主張として倉庫や魔王城の窓ガラスを割ったり、食堂に潜り込んで皿を割ったり、あちこちの壁に落書きして回っていたのが、とても切ない。
同情を込めた目で、何個か抵抗する道具を殴り倒し、無事回収していく。
ルカも気の毒そうな顔でフォークを振るう。
◇◇◇◇
残りの魔道具は17個。
私たちは魔王城下の赤提灯のおでん屋で、夕飯を食べていた。
「はい、たまごね」
カウンターにアグリコさん、ルカ、私、駐在さんと並び、店主の赤鬼のおっちゃんに私はたまごを所望した。
ほくほくのたまごに、ちょっぴりカラシを付けて口に入れる。
懐かしいカツオダシが黄身によく染み込んで、実においしい。
ほっぺたをつい押さえてしまう。
鬼のおっちゃんは、大昔にお里から迷い込んだ人らしい。だから味がお里風だ。
妖狐のところのダシはカツオとコンブの合わせダシだったが、これはカツオにトビウオを加えている実に濃い風味だ。
ルカも駐在さんも珍しそうにはんぺんやがんもどき突っついている。
ふふふ。練り物に最初から行くとは邪道な。
真の猛者はダシのうまみを味わえる、大根から食すべきだろう・・・・・・!
私の勝ち誇った笑みを見たアグリコさんが、元気になったようでござるなとにこにこしている。
明日の行き先は、魔国の魔女の家になった。
残り全部の魔道具がそこに集結しているらしい。
夕方、今まで捕まえた魔道具を倉庫に放り込んだ後、アグリコさんは茶釜さんの次の行方をお釜師匠から聞いた。
しかしアグリコさんはうーむと難しそうに腕を組む。
「シンシアは大丈夫なの?」
「茶釜の中はある意味異空間でござる。確か魔王様が死ぬほど貢いでいたお菓子や食べ物が時間凍結で保管してあるはず」
だからその辺は問題ないのでござるが・・・・・・。
駐在さんは不思議そうにアグリコさんを見た。
「どうした。次はそんなに厄介な場所なのか」
「厄介と言うか少々苦手なのでござる。
ヤムは魔国の魔女でも指折りの猛者でござるが、本当に面倒な女ゆえ」
「魔国の魔女!」
「お釜さんが行っていた本場の魔女か!」
私とルカが反応する。
師匠の言っていた魔女に会えるんだ!
コンブ巻きをかじりながら、本場の魔女に会える期待が止まらない。
アグリコさんは梅酒をチビチビ飲みながら、魔女ってそんな素敵なものじゃないでござるよと愚痴っている。
駐在さんが熱燗を抱えて訊ねた。
「カント国で魔女と言えば、殆どまじない師や民間治療者といった仕事しかしないんだが。
本来の魔女とはどういったことをしているんだ?」
「私それ知りたい! お釜師匠がこうなれって言う魔女が、おばあちゃんがやっていたことと全然違うんだもん」
「はふはふ。確かに筋肉筋肉うるさいよな、お釜さん」
ルカがもち巾着でやけどしそうになりながらつぶやく。
アグリコさんが、梅酒に氷砂糖を放り込んで溶け具合を確認する。
同時に、魔女は正直拙者等がこの世界に現れるより前にいるのでござるが、と話し始めた。
「【魔女とは理を知るもの】とは魔族にも人間の軍や上層部にはよく伝わっている話でござろう?
そもそも理とは魔法の元になるこの世界の原理であり、科学もそれをなぞって簡略化しているにすぎないでござる」
「また難しい話だな。神父あたりは喜びそうだが」
「まあそうでござろうな。その原理を探求し、自然現象や生活をコントロールするのが魔女の仕事でござった」
「研究所の科学者みたいな?」
「近いですかな。ただ、頭しか使っていないあいつらとはまた違うでござる」
空間の歪みがたくさん出現することで分かるように、この世界は歪み、かつ能動的に生きている。
魔女は世界の様々な現象や事物と直接触れ、または戦い、対話をすることで世界の本音を探るのだ。
「男がやっても構わないのでござるが、特に女性は直感が働くので優位なのでござる。
頭を使って分析するのではなく、自然や空間を全身で感じて感性と理性を総合的に働かせることが、研究の最たるものゆえ」
端的な例としては、世界が気まぐれを起こして生じさせてしまう、世界の狭間の場所を特定し、研究しつつ一般人への被害を防ぐことでござろうか。
「ほえええええ」
どうしよう、理解できない。
魔女の仕事が高度すぎて、狸には無理だと告げている気がする。
私の動揺を、周りのみんなは、生温かい目で見守ってくれた。
「まああれだ、とりあえず地味に魔法薬の材料や調理と格闘していればいいってことだな」
「・・・・・・それでいいの?」
駐在さんのフォローにアグリコさんが、にっこりと聖母のように微笑んだ。
「人にはできることとできないことがあるでござる。
フラン殿はまず出来ることを頑張るのが、魔女への近道でござる」
「アグリコさん。遠回しにお前には無理だと言ってないか?」
ルカが何かしゃべっているようだけど、とりあえず魔法薬だね。
うん、それなら出来そうだ!
「明日の魔女さんには、色々と聞きたいなあ」
「今聞いてもいいのよ?」
艶っぽい声がした。
そちらを無垢と駐在さんの横にいつの間にかいた黒いセパレートのスーツの女性。
褐色の肌に、銀色の髪。目も銀色で、今日の輝く月のよう。
体にフィットさせたスーツはきゅっとした腰と太股を見せつけるようい短く。
なんというか、ええと、ダイナマイトボディ? を際だたせていた。
そして、胸を見た。
「すごい・・・・・・おばちゃんよりも大きい」
「褒めてくれてありがとう」
お姉さんが、にっこりと笑う。
ふうわりと彼女の艶のある肌から匂い立つ何かに、女の子の私でもくらくらする。
ルカもすげえフェロモン・・・・・・と唖然としていた。
お姉さんは片手に持っていたロックのウイスキーをカラリと振ると、私たちに自己紹介をしてくれた。
「ようこそ、悪魔の支配する世界へ。
私が古来の伝統を愛する、魔女のヤムよ。あなたが私の孫弟子ちゃんね」




