私がここに来た理由
「トリシア、ちょっと話したい事があるんだ。シュトも一緒に」
ローリエがキッチンに顔をのぞかせて手招き二人を呼んだ。
彼女がこういう風に人を呼ぶのは珍しいし、大抵いつも大切なことしか言わない。言うに値しないことは本当に彼女にとって価値がないことなのだろう。
松葉づえの生活はトリシアにはもう馴染んでいた。足も痛まないし、操るコツもつかんだ。
「ローリエさんどうしました?」
「うん、そろそろ大事なことを言おうと思って。もともとこのために来たんだ」
ローリエがトリシアの座りやすいようにソファを整えて、ギアのベットに腰掛けた。
トリシアがちゃんと座って話が出来る体勢になったのを確認して彼女は口を開いた。
「ドラゴニスタが不定期に開催する総会が開かれることになって、君に招待状が届いてる」
「…総会ですか、規模が大きそうですね?」
招待状は素人が見ても高級そうな紙がつかわれていて、金の箔押しがあった。
封をしている蝋の色は紫。
触れる事さえ躊躇われるような繊細な手触りだった。
相変わらず蝋の色の違いがよく分からないが、たしかレイはこの色の蝋で封をされた手紙を見て顔色が変わった気がする。
「規模がまたでかいんだなあ、この世界にいる全てのドラゴンが集まるし、ドラゴンに関わっている人間もたいそうな数が集まる。偉そうな人間もたくさん集まる」
「…ドラゴンの総会なのに人間にでかい顔されると腹が立ちますよね」
まったくだ、と彼女は頷いた。
「この総会は不定期で、オリンピックみたいに何年に1度とかそういうのは決まっていない。今回は6052回目の総会なんだけど確か80か90年ぶりの開催なんだ。封を開けてごらん?」
空恐ろしい歳月を身近に感じ硬直した。
そう言われて恐々招待状の封を開けた。中にもまた高そうな紙に高そうなインクで招待の旨がつづられている。
なぜだか、紙の厚みが半端ない。何枚あるんだろう。
小学生が音読をするようにトリシアは読みあげた。
「…トリシア・F・ルルー様(一等保護飼育士・保護飼育4級)このたびは新たなるドラゴンのご誕生とトリシア様のご昇進を心からお祝い申し上げます。つきましては、龍墨四霊の議を執り行いますのでドラゴンと共に参られたく存じます…。~すみませんこれは古典の勉強をしなさいと暗に言っているんでしょうか?」
「ああ、頭のかったい連中が書いた手紙だからなあ…。要約するとドラゴニスタ総会があるので招待したいけど、どうする?っていうことだな…場所は…」
ローリエは文字を読み辿って「なんだって!?」と叫んだ。
「ど、どうしました?」
彼女は感動に身を震わせてとっても嬉しそうな表情で手紙から視線を移した。
「開催地が…桂林だあっ!!!!」
「姉さんそれ本当っ?!」
やったーーーーーーーーーーーーー!と突然立ち上がり両手を天に振りかざしローリエは拳をぐっと握り締めた。
彼女が我を忘れて喜んで手放した手紙が紙吹雪のようにバラバラと宙を舞った。慌ててトリシアが拾ってまわる。
「桂林!夢にまで見た桂林!前回はハワイ前々回がノルウェー、日本、ドイツ、チベット、モンゴル、香港、スイス、イタリア、台湾、カナダ、パラオ、ハイチ、ブラジル…長かった!ずっと雑務をこなしてきたけど今度は違う!私も正式に御呼ばれされる!それが桂林…っ!」
よく分からないが尋常でない喜びようだ。
きっとローリエはずっとその間がんばっていたのだろう。感無量、という言葉が今の彼女の表情や感情を表すにふさわしい言葉だと思う。しばらくそっとしてあげよう。
「…あのう、桂林ってどこなの?」
ギアに尋ねるとギアも喜びに身を震わせていた。うっすら目がうるんでいる。
彼は涙を指で拭ってトリシアの質問に答えた。
「中国の広西チワン自治区の世界的な観光地だよ。私たちの間では龍の楽園とも呼んでいる…まさか、まさかこの歳で桂林に行けるなんて思ってなかった…!」
記憶違いでなければ彼は1万歳…、その年齢で行ける事が速いのか遅いのかよく分からないが二人ともよっぽど嬉しいんだろう。
トリシアとシュトはぽかんとそれを見ていた。
「あの、龍墨四霊の議って何のことですか?総会の別名ですか?」
「…龍墨四霊とは、古来言葉を表すことのできた墨によって龍をこの世のものとし、四霊つまり麒麟、鳳凰、霊亀、竜を以って龍とするという古臭い儀式のことだと聞いている。実際は龍の語らう議会で、四霊に化けていた龍が集まるのを見た人間がつけた名前だろう。そんなことより、大事なのは君が招待されたって言うことだ」
ローリエはびしっとトリシアを指差した。
「え?普通招待するものでしょう、これは私宛てではなくシュト宛ての招待状じゃないんですか?」
ちっちっちっと舌打ちをする。
「シュト宛て、と見せかけているだけさ。シュトひとりで総会に出席するわけがないだろう?これは自分の血統にうぬぼれている馬鹿なドラゴンと偉そうな人間が君を値踏みするためにわざわざ設けたものだろう。トリシア、君は無知な小娘だと周りの連中に軽んじられてるんだぞ?」
心底憎々しげにトリシアの拾い集めた手紙をひっ掴んでばっさばっさとふってみた。
「本当に頭の切れる奴はシュトラーフがどういうドラゴンか品定めにかかってくるだろう。トリシアは全力でそれをサポートするんだ」
トリシアは自分の認識の甘さを突きつけられた気がした。
ローリエは破顔してみせた。
「心配するな、このために私がわざわざスケジュールを取ってジャックに本部を任せてきた。君が怖気づくようなことではないし、無知な小娘だと高をくくっている連中にひと泡吹かせてやろうではないか」
小説紹介の文章と、小説キーワードを書き足しました!
今日から7月という事なのですが、全くもって実感がありませんが
外に出ると、空が夏の空でした
濃い青と夏特有のもくもくとした雲
…夏か!
今回はあまりシリアスムードではありませんでしたね笑
はしゃぐローリエはどことなく幼く見えますが
彼女もやはり数万年生きたドラゴンなのだけども
私のイメージするドラゴンは賢く温厚で、ちょっぴり子どもです
今回も読んでくれてありがとう!
次話も乞うご期待☆




