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sheath‐鞘姫‐  作者: 肇川 七二三
めぐるきせつ
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めぐるきせつ

この土地は、四季の変化があまり鮮やかではない。

強烈な夏と冬に翻弄されて、春と秋がうすぼんやりと姿を現す。

勉強と鍛錬に明け暮れて、季節は今までにない速さで巡った。

ドラゴニスタの存在を知ったのが春の初め、そして夏になり秋になり、もすぐ冬になる。

 

「トリシア、そろそろストーブ出そうか」

「うん、早いうちに出しといた方がいいかも、ここ結構標高も高いし雪が積もるかもね」

立ちあがろうとした私の肩に手を置きギアがおしとどめ、カーディガンを羽織らせる。

「君はもうちょっと自分の体を気にした方がいい。体を冷やさないように」

最近、こういうことが多くなった気がする。

私は出来るだけ坊やから離れないようになって、ギアの私の扱い方はますます優しくなった。

甘やかしすぎだと、私は思うのだけど。

私の腕の中でまどろんでいる坊やはだんだんタマゴの中が窮屈になっているようで、もうタマゴの中で回転出来なくなっていた。

意志の疎通はこの子の発する声が頼り。

声、といっても龍の母語だから傍から見るとなにか獣がうなっているようにしか聞こえないと思うけど。

私は龍の母語を使うと喉が潰れてしまうから、返事は人語でしている。坊やも人語と龍の母語の違いは分かっているようだし、私が龍の母語を使って話すようにと教え込んだ。

もっとも龍の母語を私が全く使わないと言う事は無い。

子どもを甘やかす時の声は、それほど喉の負担にならないので多用している。

使えば使うほどドラゴンに近い声になっている、とギアはいう。

龍の母語を使うと坊やは身じろぎをする。

外に出たいからなのか、嬉しくなるとくるくる回る癖が抜けないのかは分からない。

けれど、ミシリと殻が音を立てる事もある。

今も、私の声に反応して殻が軋んでいる。

「もう、生まれてくる日が近いんだね…」

そのくらいの事は、ギアに言われなくても分かる。

「どうせなら、早く生まれてきなさい。外の世界はきっとあなたの好みよ」

けしかけると、また殻が軋んだ。

「ふふふ」

「何笑ってるの、最近一人でにまにましてる事多くない?」

「ギアには教えなーい」

ソファの上で丸まっていると、ギアが真横に座った。

「その坊やが何か言ったりやったりしてるんだったら、ちゃんと私に言ってくれないと困るよ。孵化する時は予測できないし、それ相応のリスクだってある。トリシアの気付いた事や感じた事を頼りに大まかな予測をしていくしかないんだ」

真面目モードのギアは多分とても優秀なドラゴニスタの精鋭なんだと改めて思わされる。

彼の言っている事は正論だし、私が注意を怠っていた。

「ごめんなさい」

「何か、あったんだね」

もう断定されている。

「この子がタマゴの中で窮屈そうにしてるって言ったよね…」

「うん、それは知ってる」

「ときどき、殻が軋むの、まだひびは入ってないけど…たぶんその気になったら出来ると思う」

彼は、予想以上の情報だったのか深くため息をついた。

とても申し訳ない。

彼は唐突に立ちあがった。

「トリシア、ちょっとタマゴの重さ測ってみよう」

「測れるの?」

お風呂場の体重計のところまで彼についていく。

「前、こっそり黙ってやってみたら出来たし私にもまだ持ち運べた。55㌔くらいだった」

彼の言葉にはあえて何も言わない。誰だって好奇心があるものだ。

スリングごと坊やを体から離してそっと体重計に乗せる。

私がタマゴに触れたままだと、1gも変動は無い。

「重さってそんなに大切?」

「大切大切、いいから手を離して」

手をタマゴから離した瞬間プラスチック素材の体重計が悲鳴を上げた。

無残にもひびが入っている。

一応、針がどの数字を指しているか確認するが振り切って0を指していた。

いつもこんな重さの物を抱きかかえているのだと考えるとちょっと怖い。

その横でギアは頭を抱えている。

「もっとこまめに測っとくんだった!ああ!どうしよう!上司に怒られる!!」

上司なんていたんだ…

変なところに関心する。

「で、今の状況ってまずい?」

ギアは呻きながら頷く。

「生まれるの?」

「分かんないけど…」

何の躊躇いもなく体重計を粉砕したタマゴを抱えるトリシアを見て少し笑った。

「本当に面白いね君は。怖くないの?」

「怖いけど、それほどじゃない。あなたこそこの子と上司どっちが怖い?」

彼は、少し躊躇って小声で「上司」と言った。

「どっちもどっちね、レイならまず間違いなく私から危険だって言ってこの子と距離を取るように言うし、上司の事なんか頭をかすめもしないんじゃない?」

「トリシアはあの人に会った事がないからそんなこと言えるんだ…」

よく分からないが彼の上司は相当怖いらしい。

「…この坊やはおそらくタマゴの中の養分を吸収しつくしている。でも空腹を感じないのはどこかしらかにエネルギー源があるからで…、それはおそらくトリシア、君だ」

いつもの冷静な彼の思考にもどった、どうやら立ち直ったようだが心なしかふらふらして見える。

「トリシアはいつもよりご飯を食べる量が多くなったのに、運動量は変わってない、のに太ってない」

ちなみに体重は?と聞かれたけれど「大きな変化はない」と言い留めておいた。

女性に体重を聞くのは失礼なことである。

でも、もしもタマゴの坊やが女の子だったら、この子もタマゴの中で憤慨しているに違いない。

「人間みたいに口とかへその緒からとか栄養を摂取する場所は決まってないし、その必要はないから自由にエネルギーや栄養を獲得できる。だからこんなに大きくなってたんだ、うわあ、もうとことん駄目だ。私のデスク無くなってたらどうしよう!」

ギアは順調にとことん駄目な人になり下がっている。絶賛株暴落中だ。

「ギア、今からでも遅くないし一回本部に戻ったら?今すぐ生まれるってわけでもないんでしょ?」

優しく声をかけると彼は嬉しいようなけれど恐怖に震えているような微妙な表情で頷いた。

「お言葉に甘えて、今からちょっと行ってくる。明日には帰れるようにする…」

「そんなに早く行き来できるの?」

「私を誰だと思ってるんだい。人に化けてはいてもドラゴンなんだから飛行機に乗らなくても飛んでいけばいい」

えへんと胸を張ってみせる姿も虚勢だと分かる。

よっぽどまずいんだな…。

彼はすぐに身支度をはじめて玄関を出て行った。

「いってらっしゃい」

手を振って見送る。

冬はまだ来ていない。

寒さが別の気配を連れて足元からトリシアに忍び寄ってくる。

彼女はカーディガンを羽織りなおしてドアを閉めた。

こんにちはこんばんはお疲れ様です

今回の章はこの1話、多くても次の話で終わりになります

次からはまた新しい章になります

なんだか「予感」がするっていう感じにしてみようと思いまして!

 

ですので次の展開は目が離せないものになるでしょうね!

どうだか!←

 

読んでくださってありがとうございました

では次話・次章も乞うご期待☆

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