塾生ライフ!
教室の前でもうどれだけ胸に手を当てたまま立ちつくしているだろう。
心拍数はいつもの二倍速。
今日のどこがいつもと違うかと言うと、私の服装が違う。
ギアもレイも、今朝弓場ではマチコ先生にも「その方が似合ってる」と言ってもらえた。
けれど、どうしても一歩踏み出せない。
ピーチオレンジのキュロットスカート、レギンスは基本装備だ。
キュロットはぎりぎりズボンに入るから、と意味の分からな言い訳を頭の中で何度も反すうする。
スカートにはまだ抵抗がある。
髪の毛も、少しだけいつもより女の子らしくしてみた。
化粧は邪魔になるから、ウォータープルーフのマスカラを少しだけ。
ホントに少しだけ。
ああでも、“少しだけ”が重なってすっごい大きな変化に思えてきた。
どうしよう、やっぱり着替えてこようかな…。
心がくじけて引き返そうとした私の肩を誰かがぐっと引き寄せた。
「ちょ、ちょっと!!」
開け放たれる教室のドアの前で頭が混乱してどうする事も出来なかった。
「おはよう!」
「……アラン、どういうつもりよ!わた、わたしやっぱり着替えてくるっ!」
キッと睨みつけて腕から逃れようともがく。
肩を抱いたままのアランは睨まれたくらいでは痛くも痒くもないとういう顔だ。
逃がさないように私を捕まえる手も手加減されている。
「あのね、15分ずっと見てたけどいいかげん教室入ろうよ。あんなふうに立ちつくされてたら後から来たおれたち気まずくて入れないってば」
「見てたの?!」
その言葉はほぼ悲鳴のそれに近い。
「…アラン、つかぬ事を聞くがそいつはトリシアなのか?」
沈黙を守っていた教室からおずおずとチェキが質問する。
「もちろん。この教室にこんなに可愛くて女装趣味の野郎っていた?いないでしょ?」
まるで猫をひっつまむように脇から私を持ちあげて自由にする。
「…まだ心の準備が出来てなかったのに!アランのバカ!!」
「馬鹿とでも阿呆とでも罵りたまえ。ささ、席に座って」
いつものパンツスタイルの男の子っぽい格好よりも、華奢な手足や体つきが一層引き立てられる。
「なあ、トリシー。もしかして服のことずっと気にしてたのか?」
デミトリがイスを近づけて寄ってくる。
「…」
黙っていることが答えているのと同意義だ。
ため息をつく。
「あのな、服くらいで誰も差別したりしないし、性別がお前の弱みになったりもしない。というかさせない。この教室で一番トリシアの事を差別している人間がいるならそれはトリシアお前自身だとおれは思う」
「…うん」
あんまりしょんぼりして見えたのか、珍しくマーティが近寄ってくる。
「…そんなに身の危険を感じるんなら、女向けの護身術教えてやっからな」
グラハスが笑っている。
マーティなりの気づかいの言葉なのだろう。本当に不器用な人だ。
「てめえ、どういう意味だよ!おれたちがトリシーにヘンなことするわけないだろ!?」
「どうだか、あんまりべったりだと警戒されるぞ」
「…くっ」
いつもの教室の雰囲気に強張っていた表情筋がほころぶ。
「あ…」
生徒たちの視線がトリシアに集まる。
「え?何どうかした?」
「いや、なんでもないから」
トリシアの頬には柔らかな笑みが浮かんでいた。
「トリシー、言い忘れてたけど今日はとっても可愛いよ」
「ありがとう」
笑みは一層鮮やかになった。
「おい、授業始めるぞ」
教室に入って早々、一人の生徒に目を奪われる。
見知った娘が行儀よく教壇の上に視線を向けて背筋を伸ばしている。
あまり目立たないように口の端で笑った。
やっと一皮むけたか。
「じゃあ、ドラゴニスタの教材、宗教学の7章から読んでもらおう。トリシア」
「はい」
凛とした声も、なかなか様になっていた。
トリシア、成長してます
筆者のご都合主義で、このあと新しい章になります。
季節とかもご都合主義でチェンジします。
お話も(たぶん、たぶんね)大きな展開になるとおもうので
応援よろしくお願いします
今日はちょっと短めになったけど、
次からもこんな短さになるかも
そのかわり話数は増えちゃうかも
まあ、みんな心が広いし大丈夫だよね!
では次話・次章も乞うご期待☆




