笑顔が見たい作戦 新人歓迎会
「デミトリ、今日はアランの部屋に集合っていうことでまわしといて」
「了解~」
買いだめしておいたスナック菓子とジュースとアルコール類を適当に見繕う。
ビニール袋を提げて、各々の部屋に声をかけてまわる。
マーティとグラハスの部屋の前で少し立ち止まって悩む。
が、声はかけずにアランの部屋へ入った。
「おーお疲れ―」
「他の奴らはまだか」
「今日は集まり悪いかもね」
部屋にはアランとシンが行儀よく座っていた。
数日前の、マーティとトリシアのケンカ以来久しぶりの飲みの集まりなので、前回のように楽しく飲めるかというと望みは薄い。
10分、15分待っても他のメンバーが集まる気配がないので飲み始めることにした。
初めは、なんてことの無い授業の話だとか、普段教室でしているようなくだらない話をしていた。
が、誰からともなく
「…トリシアとマーティって、仲いいよな」
という話になった。
あんなに派手にケンカして、というかおもいきり対立していたのに、不思議と日常会話が成立しているのだ。どういうことだ。
普通なら金輪際くちなんてきかないと言う方が自然のような気がする。
特に女の子なら。
シンがぽつぽつとしゃべる。
「この前、トリシーが廊下でマーティと向かい合って立ってたの。またケンカか?!って思ったらさ」
どうしたのかと興味がひかれる。
「トリシーがマーティに簡単なCQC教えてもらってた」
「「CQC?!」」
突拍子もない単語が出てきたものだから思わず二人仲良く反すうした。
「仲いいんだよね、何でか、特別仲がいいわけじゃないよ?でもさー…」
笑顔が見たい作戦サイドからしたら、不甲斐ないよね………
やっと見られた感情的な彼女の姿が泣き顔だったというのも重い沈黙に輪をかけた。
怒声が沈黙を破る。
「おれは参加しないっつってんだろ!!!!離せ!!!!」
ドアの向こうが騒がしい。
なんだなんだと扉を開けるとチェキとグラハスに羽交い締めにされたレイが喚いていた。
「…どうしたんですか」
「まあまあ、レイをとりあえず拘束して、ガムテープかなんかで縛ってもいい」
穏やかじゃないなあ。
と、言いつつアランがガムテープを出してくる。
「どうします、先生ガムテープで拘束されるのと、自主的に座るのと選んでもらって構わないですよ」
「…参加します」
チェキはグラハスと何か話している。
「おれは構わないけど、あいつはどうかなあ…」
「まあまあ、かけるだけ声かけといて」
そんなやり取りがわずかに耳に入ってきただけで、なんの話をしているのかは全く分からなかった。
おとなしく座っているレイを見てチェキがつまらなそうな顔をしている。
「なんだ、拘束されてないんだ。だったら初めから意地を張らずに大人しくついてきて欲しかったなあ」
「これは何の集まりだ」
「笑顔が見たい作戦、に決まってるでしょう」
満面の笑みでチェキが答える。
「なんか、辛気臭い空気だけど、本当にみんな飲んでる?どんちゃんやってる?」
アルコールの缶のプルタブがひとつも開いていないのを見てため息をついた。
「今日は新人歓迎会なんだから、ぱぁーーーーっとやってもらわなくちゃ困るよ」
「新人歓迎会?」
彼は頷く。
「読みが正しければあと15分で来る。ささ、飲んで飲んで」
促されるままプルタブを開ける。
大抵、大抵の場合なにか企んでいるときのチェキは頭の回転が速く口もうまい。
その口のうまい彼に乗せられて、いわゆる出来あがった状態になるのだ。
盛り上がってきたころ、チェキは腕時計を頻繁に確認するしぐさを見せる。
「どうした?」
「いやあ、そろそろだと思うんだけどなあ…」
「新人?」
「いやあ、多分来ると思うんだけど…」
バーンという派手な音がした。
何かがぶつかる派手な音。
続いて怒声。
「くっそ!お前謀りやがったな!ぜってー行かねえ!!!」
「本当はみんなとしゃべりたいんだろ?くだらない意地なんて張るな」
「うっせえ!」
チェキが嬉しげにドアの方向を指さす。
「お出迎えしてあげて」
シンがドアを開らく。
「いやあ、遅くなった。思ったより手間取った」
朗らかに笑うグラハスに荷物担ぎされているのはマーティだった。
服の上からガムテープで腕と足が拘束されている。
「では、改めまして。笑顔が見たい作戦の新人歓迎会の主役グラハスとマーティです」
「おい、聞いてないぞ!マーティが入るなんて!」
「それはこっちのセリフだ!何だ笑顔が見たい作戦て!!中学生かお前ら!!」
良い具合に盛り上がってきたので、チェキは満足げにそん光景を眺めている。
レイがそっと耳打ちする。
「どういうつもりだ?」
「どうもこうも、全員でやった方が効率良いと思っただけですって」
チェキから少し身を離す。
とんでもない奴だとレイの顔に書いてある。
アランがベリベリと二の腕と胴体を拘束しているガムテープを剥がしはじめた。
「マーティ、酒の席だし楽しく飲もうぜ!」
「お前既に酔ってないか?」
「全然、素面だけど」
マーティはほとほと嫌気のさした顔でおとなしく座る。
向かいに座るレイを見て、少し気まずそうな顔をした。
「その、この前は………すみません…でした」
頭を突き出すように下げた。
ぶっきらぼうな仕草でも、謝罪の言葉は周囲の人間を驚かせた。
ただ一人グラハスだけが朗らかに笑っている。
「よかったなマーティ。謝りたかったのにタイミングがつかめないって悩んでたもんな」
「んの野郎っ!!グラハスてめぇ!!!余計な事を言うな!!!」
「え、何かまずい事言ったか?」
「くっそ…っ!!!」
マーティのグラハスと二人だけでいる時の思っているよりも素直で良い奴な部分が垣間見えた。
缶ビールをマーティの前に突き出される。
デミトリの手だった。
「新人歓迎会だ!飲もう!」
それをおとなしく受け取ったがひとこと。
「…でも『笑顔が見たい作戦』はねぇよ。ネーミングセンス、どうにかしろよな」
「減らず口が!!」
笑いながらデミトリがヘッドロックをしかける。
「うおおおおお!?缶にまだビール入ってるからな!手加減しろよ!?」
「お前は追跡者の希代のエースなんだろ?手加減なんて、なあ?」
酒も回って出来あがった頃…
「マーティ、お前って良い奴だよなあ、もっと素直になれよ。そしたらさトリシーだって…」
「うっせえな、余計なお世話だつうの!トリシートリシーってお前らどうした?!」
無口なグラハスに空いた缶ビールを取り替えてもっと飲むように勧める。
「いやあ、おれは分からなくはない。妹分的になら可愛いと思うよ」
「おれはむしろ弟だと思うけど」
ちびりとビールを煽ったマーティに視線が集中する。
「どういう事?!どの辺が?!」
「本人の前で絶対言うなよ!女性らしさがないなんて滅多なこと言うんじゃないぞ!」
クラスメイト総がかりで突っ込みを入れられるがどこ吹く風。
「遅えよ、もう言っちゃたし」
なぜか全員が頭を抱える。
「…マーティお前って奴はどうしてそうも無神経なことが…!」
「別に女性らしさがないなんて一言も言ってない。袴姿が凛々しかったし男前だと思っただけ」
「袴姿?!」
なあ、グラハスと同意を求める。
ずっとにこにこ笑っているだけだったグラハスが「ああそうだな」という。
「弓場で鍛錬しているときの姿は男前だな。一瞬ちっさい男の子にみえたからなあ…」
訂正を入れておきたいが、ちっさいという表現は体格のいいグラハスにしか使えない。
男子は袴姿と言う言葉に釘づけになっていた。
「トリシアの袴姿…」
「レイは見た事あるの?」
首を横に振る、全く持って初耳である。
「とことん駄目だな!あんた保護者だろ?!」
「いや、おれは別に保護者じゃなくて監督者なんだけども…」
しりすぼみになる語尾に呆れかえる。
「あのさ、ところでこの、笑顔を見たい作戦って具体的に何してるわけ?」
「え?」
「え?」
沈黙が下りる。
「何の計画もないの?」
「い、いやその、えっとだな…実はまだ2回しかやってないし、笑顔が見たいって言っても何すればいいかわかんなくて…」
「奥手か、お前らは中学生か!」
この時、その部屋にいた人間全員が作戦への行き詰まりを感じたのは必至であった。
どうなる迷走する若者たち!
どうする行き詰った『笑顔が見たい』作戦!
迷走する男たちその2です
学園生活っていうことにいまいちピンとこないまま進めています
あの、ね箸休め的な感じで読んでください『笑顔が見たい作戦』シリーズ
(シリーズ化するの?)
それから申し訳ありませんが、ゴールデンウィーク中は更新が停滞する予想です。
期待せず待ってください。
読んでくださっている皆さんも素敵なゴールデンウィークをお過ごしください^^
インドア派としては家でまったりするのも支持されて良いと思うんだけどなあ
では次話も乞うご期待☆




