衝突(2)
授業が終わり、レイは比較的軽くない頭痛に襲われた。
眉間によったしわをもみほぐすように指でつまむ。
教室の空気はワースト1と言っても過言ではないくらい悪かった。
どうしたものか…。
見つめた先のトリシアは何事もなかったかのように資料と本を片付けて教室を出て行く。
ドアに手をかける前に、彼女は回れ右して教室にいる人間全員にはっきりと言った。
「今日の事を今後一切口にしないで。中学生じゃないんだから、誰かを卑怯な手で攻撃したり、孤立させたりなんかしないでちょうだい。もしそう言うことがあったら…私は軽蔑する」
一息でそう言い切り、乱暴にドアを開け放って飛び出した。
「…トリシアに免じて、許してやる」
アランが短く吐き捨てた。
トリシアの言う「誰か」とはほぼ個人特定されているも同然で、その「誰か」を守る事はトリシア以外には出来ない事だった。
マーティの頭は混乱する。
自分は彼女を傷つけた、なのに何故彼女は自分を守るような事をするのだろうか?
何故、そんなことができるのだろうか。
「マーティ、彼女はお前を守ったんじゃない、お前の志を守ったんだ。お前の持つ志を自分で汚すようなことすんなよ」
グラハスが彼の肩を軽く叩き、そう言い残した。
ポツリポツリと人がはけて行く。
彼は教室を出られなかった。
今教室の外に出たら、もう二度と、教室には入れないような気がした。
「トリシア、どうしたの。馬場にも弓場にも行ってないじゃないか」
「うーーーん」
無言で玄関を開けてタマゴの坊やにも何も言わずに部屋にこもる。
十中八九、何かあったとみて、ギアは追いかけるように部屋をノックする。
「…目、赤いね」
「弓場には行ったから」
トリシアは布団の中にもぐりこんだ。
否が応でも話さないつもりか。
幸か不幸かギアは定期連絡でこの頃忙しくあちこちを飛び回っていた。
一番肝心な時に自分がいなかったことに心の中で舌打ちをする。
「塾は、辛い?」
もぞもぞと布団の中身が動く。
声に出して答えてくれなくては、何も伝わらないのだが…。
ベットの脇に腰かける。
「君が傷つくくらいなら有資格者であることはそれほど重要ではないと思うんだけど」
これは、ギアの本心だった。
知識は確かに必要かもしれない。でもギア、ドラゴンにとっては所詮は微々たるものだった。
「ねえ、トリシアは人を頼ることがとっても苦手だよね。いつも自分で何とかしようとするよね」
一度言葉を切る。
「私は、トリシアに頼ってほしい。私が傍にいるのは、そのためなのに」
そっと、かぶった布団をはがす。
丸まって泣いているトリシアを抱き起す。
「……肩、貸そうか?」
無言で首に腕をからめた。ギアが背中に手をまわして抱きしめても彼女は拒まなかった。
せっけんの香りが、香った。
「トリシア、私以外にこういうことをしてはいけないからね」
腕の中で彼女が少し震える。笑っているのだ。
「ギアなら、いいの?」
「私には少なくとも理性がある。この距離だとそこらへんの男の理性なんて簡単に切れちゃうんだからね」
安全性の問題だと彼は何かの説明書でも読むように言った。
しばらく、そのまま肩を借りていた。
「待ってましたよ、レイ」
「はいお久しぶりです」
一方レイを呼び出したのはマチコ先生だった。
「トリシアの様子が普段と違ったので、あなたに聞こうと思ったの」
苦い顔をした。
「具体的に、どの辺がおかしかったですか?」
そうですねえ、と彼女は少し考え込むふりをするが、考えるまでもなく様子がおかしかったのは明白だった。
そして、彼女が指さしたのは弓の刺さった的。
「今日は一本も外しませんでしたね」
「…それのどこがおかしいと?」
矢が当たらないという話はよく聞くが、外さないと言うのはいまいちピンとこなかった。
「あの子、嫌なことがあると一本も矢を外さないのよね。いつも外しても2,3本だけだけど。一本も外さないっていう事はよっぽどのことがあった日なの」
彼女の目が鋭く光る。
矢の刃を首元に付きたてられたような気分だ。
観念して今日の出来事を全て白状した。
「それはあなたの指導力不足、というか教育者として不甲斐ない限りよね」
ズバンと一刀両断されて、しおしおとうなだれる。
「あの子、いつも戦ってるの。戦わなくてもいい場所にするのはあなたの仕事じゃない?」
「おっしゃる通りです…」
マチコ先生が弓を二つ持ってくる。
「精神鍛錬が出来てませんね。弛んでます。久しぶりに、付き合ってもらいますからね。…覚悟なさい」
一も二もなく従う。
自分でもそうやって誰かにしごいてもらった方が気が楽だった。
翌日、
弓場に顔を出すと、先客がいた。
「どうしてここにいるの…?」
黄金色の髪が揺らぐ。青い瞳で見つめているのはマーティだった。
「グラハスに、聞いた。この時間にいつもいるって」
お互い気まずかった。
「悪、かった。ごめん。おれは、ホントは仲良くしたいけど、口が悪いし思ってもない事言ってトラブル起こしてばっかりで…」
謝罪の言葉が最初に出てきたことに驚いた。
「お前の事、女だって見下してた。一番年下なのに有能な事も気に食わなかったから、八つ当たりして、ホントにみっともないことした」
頭を下げる。
「ごめん」
「…謝るの勇気がいったでしょう」
「え?」
思いもよらない言葉だったのか、彼は下げていた頭を上げた。
「私も、あなたの事苦手だなって思ってた。塾に居る時はみんなが敵に見えた。心を許してなかったの私」
だから、ばちがあたったのかなあと言うと彼はあっけにとられた顔をしていた。
そんなキョトンとした彼の顔がおかしくて笑ってしまった。
「ねえ、CQC得意なんでしょ?今度教えてよ」
「お前、変な奴だなあ」
手を差し出す。
「仲直りっていうことで、握手しましょう」
彼はおずおずと手を差し出した。
まめたこだらけな手を握って彼が笑った。
「今の格好もそうだけど、男みたいな手だなあ」
相変わらずの減らず口を聞いて、性格が変わったんじゃない事に変に安心した。
いろいろ、決着と言うかなんというか
そういうことを書きたかった
かけているでしょうか?
筆者は不安でいっぱいです(((・・;)))
伸び悩んでます。
次話も乞うご期待☆




