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sheath‐鞘姫‐  作者: 肇川 七二三
誘拐(DParty編)
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綻び(α) 410日目

全てが二度目の景色だった。

色鮮やかに燃える木々の色も、刺さるような日差しと雑木林を駆けた冷めた風も、落ち葉が腐る甘い匂いも。

二度目なのに初めて見る景色のようでもあった。

それは、ここに来たばかりで周りの景色を見る余裕が無かったせいだとシュトは言うかもしれない。

「トリシア、見て!四つ葉のクローバー!」

シュトの濃く淹れた紅茶のような艶やかな髪は伸びてトリシアが結わうのが毎朝の日課になった。

驚くことにシュトの背丈は伸びて6、7才くらいの見た目になった。

それでもまだ小さな子どもで、本人はまだ満足のいく域まで成長していないのかやや不満足そうにしている事が多いのだけど。

私は、走って跳びはねて転んでひざ小僧と絆創膏が仲良しこよしでこれ以上動き回られると心臓に負担がかかるのでたまらない。今の格好で十分じゃないかと思うんだけどどうなのよ。

「トリシア、珠姫に頼んで押し花にしてもらおう!」

縁側に座って本を読みふける私をシュトは度々こうやって澄幸たちのところを順繰りに連れ回す。

「トリシア~?」

「…シュト、ギアは待ってくれてると思う?」

シュトはピンと耳を張ったウサギのように敏感に言葉に反応した。

そしてゆっくり縁側に座り込んだままのトリシアの正面にまわりこんで、膝の上に頭をのせた。

「心配?」

トリシアの気持ちの種類や意味や優劣はシュトには分からないが、タマゴの殻を通じて大抵の事が分かったように、かつてよりもたやすく、より直接的に感情を知ることができる。

テレパスのようであり、双子の意志疎通のようでもある。

「…ローリエは働き過ぎてないかな、塾のみんなはもう塾を出てっちゃったのかな、エルフォには乗り手が見つかっただろうか、レイは、ギアはどうしてるかな…」

思わずしゅんと項垂れた頭を、未練を断ち切るように震って明るい顔に切り替える。

「ウジウジ考えたってしょうがないね。私が留まる事を決めたんだもん。澄幸たちに申し訳ないし」

「しょうがなくないと思う」

明るい顔のままその一言で喉の奥が熱く締め付けられた。

「シュトは、しょうがなくないと思う」

トリシアはシュトの頭を撫でて上向かせないようにした。こんなちみっ子になんて泣いているところを見せたくはないのだ。

撫でつける手の甲に、紅茶色の髪に雨が降る。

「…珠姫のとこには、もうちょっと後でいこっか」

甘いシュトの声に嗚咽交じりに頷いた。

「トリシアってば、本音を言うの遅すぎだって」

頭を撫でる手をするりとかわして膝立ちにトリシアの頭を抱きすくめる。

「もっと早く言ってくれたら、シュトが確かめに飛んで行ってあげれたのに」

「飛んで行ってくれたの?」

「…最近、翼を広げる感覚が鈍ってきちゃったんだよね~、ごめんね~」

「なにそれ、まずいじゃないの。なんで黙ってたのよ!」

噛みつき気味に抱きすくめる小さな頭をふりかえる。

きっと見開いた目から涙が弾けたがトリシアの湿っぽい気分は吹っ飛んでしまってたので頓着はしない。

「だってえ、ここのお庭壊すの申し訳ないし、ちみっこい格好ばっかりで飛んでたら今の自分がどのくらい大きくなったかちょっと…」

「何よ!急成長してるってこと?!」

そういうことだねえ~、とシュトはへらへらと笑っている。

「駄目じゃないの!定期的に私が記録取ってるって知ってたくせに!」

「う~、う、うるさい!」

忘れてしまっていたので「ごめんね!」としか言いようがない。

抱きすくめられたままの状態でトリシアが立ち上がる。シュトは軽々抱きかかえられて「うっわあ!」と悲鳴を上げた。

「シュト、ちょっと澄幸んとこ行って庭借りる約束取り付けてくるよ!」

「えっ?やだよ!?絶対やだってば!」

「聞く耳持ちませ~ん」

そこらへんのぬいぐるみと変わらない重さのシュトにじったばったと抵抗されても痛くも痒くもない。

瞳に残っていた雫をかるく拭ってトリシアは足取り軽く日当たりのいい窓辺を駆けて行った。



「お、ちょうどいいとこに来た」

「何よ、こっちも用があったんだけど。ちょっと用事が立て込んでるの?」

澄幸はトリシアの顔に涙の跡を目聡く見つけて、ちょっと顔をしかめた。

自分の知らないところで泣いているのかと思うと腹が立つ、鈍くて気の利かない自分に。

自分に出来る事は気付かないふりをするだけなので平然とした顔で続ける。

「日本国内にいる『龍』たちに過去に人間と世帯を持った経験があるか、もしくは龍との間に子どもを産んだことがあるかアンケートを出そうと思ってたところなんだ」

「唐突じゃない、何かあったの?」

「…残念ながら君のためにするわけじゃないんだが、これを機に『龍』のコミュニティ意識を共有してはどうだろうかと思ってね」

「それって人手がかかるんじゃない?」

「かかるね、今朝方から珠姫にも基彦にも暉臣にも近くの知り合いのところに行ってもらってる。何しろ信仰さえあればどこにでもいるからな、ちょっと把握しきれてないんだよ」

「…珠姫たちにも会いにくくなる?」

不安げに眉根を寄せた彼女に安心させるように微笑んだ。

「逆だよ。珠姫も基彦も暉臣も年上の括りに入るから、この際年下をこき使ってやる腹積もりだろう。新米どもがここに出入りするんじゃないかな?」

案の定嬉しそうに、シュトを抱きかかえていない方の手がそわそわと動きはじめる。

なんとなくぱたぱたした仕草はペンギンのようだ。

「会える?!」

「会わさずには済ませられないんじゃない?」

やった!と小さく跳ねて喜ぶ姿が微笑ましいが抱きかかえられたままのシュトが不安定さに「ちょっと!」などと不満の声を上げる。

「ト~リ~シ~ア~?!」

「うわごめん、軽過ぎて忘れてた」

「あのさ、君たちにも用事があったんじゃないかい?」



→綻び(ω)410日目に続く!

 すみやかに読み進めることをおススメしております!→

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