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sheath‐鞘姫‐  作者: 肇川 七二三
誘拐(DParty編)
165/225

綻び(ω) 410日目

一瞬で喜びの熱が冷めて真顔に戻る。

「そうだ、ひと目につかない場所を借りたいんだけど」

「庭じゃ駄目かい?」

「えっと…、あの…、庭が半壊してもいいんなら…」

「何する気だよ」

半眼で睨む目が痛い。

「シュトがちょっと大きくなってるみたいなんだけど、こっちに来てから一回も測定してないんだよね。記録をとってたんだけどそれもしてないからちょっと元の背格好になってもらいたいと思って」

「身体測定か、まあどの程度大きいのか僕も気になるから庭でどうぞ。壊しちゃっても僕がまた作り直せばいいし」

「澄幸!裏切ったな!」

シュトが罵るも澄幸はすげない。

僕はシュトに懐柔された記憶はないし裏切りようもないんだけど。

再びじったばったと暴れ出すシュトの拳をぽかすか受けながらトリシアは涼しい顔で庭に降りた。

裸足で芝を歩くと雫が冷たくて足の裏がチクチクするけど涼しくてなかなかいい。

なるべく花壇を避けた場所を選んでシュトを下ろす。

頬をぷっくりと膨らませた金魚のような顔が不機嫌だと一目瞭然だ。

「シュト、好き勝手飛び回りたいんなら大人しく体見せなさい」

「だってえ!」

「はい、文句は言わない!せーの!」

澄幸はマジックショーで煙や紙吹雪と一緒にボフン!と音を立てて鳩が飛び出すようにシュトが変身するのを想像していたが、実際は瞬きした隙に子どもの姿が消えて光を放つ翼を持った神々しい姿になりかわっていた。

思わず感嘆の声を漏らす。

四肢に力を入れて猫が背伸びをするように大地を踏みしめる。

翼を衛星アンテナのように色々な方向に傾けてその度にきらきらと光が眩く瞬く。

何かの拍子に「べきょ」っという鈍い音がして鉱物の結晶のような角のついた頭を振り返った。

「あああああっ!」

悲鳴を上げたのはシュトだった。

「どうしよう!木折っちゃった!うわっ、気をつけてたのに!」

「やっぱり思ってたより体大きくなってるんだ?」

「体が鈍い、なんか窮屈」

「大きくなったのに窮屈?」

首が縦に小さく振られたのでトリシアは肯定したものとみなしたようだ。

澄幸はまだ目の前にいる未知の生命に心を奪われている。

呆けたままの澄幸を心配して声をかける。

「居心地悪い?それともあの木やっぱり大事だった?」

はっと我に返って、慌てて首を振る。

「いや全然、小さいのも気に入ってたけど、こっちはもっといい」

トリシアはシュトのつま先から足の付け根、角、鼻面から尾、左翼から右翼の端を丹念に触りメジャーで測る。

「ああ、やっぱ大きくなってるね予測よりずっと」

「そう?」

首をかしげる仕草もシュトが普段の人の姿でするようなものと違わない。

背中によじ登るのにも鱗に足をタラップの要領で引っ掛けないと自分の背が足りない。

胴周りを測るためによじ登ったのだが、トリシアは背にひびが入っていることに気付いた。

小さな亀裂を指先でなぞると半透明な固いフィルムがシュトの体を覆っているような気がした。

「シュト、最近何か食べた?」

「えっ?ええっと珠姫のご飯、あと朝早起きして朝露食べるのが…好きで…野苺とか、山桃とか」

「人間と同じ食生活が発育に影響を出した…?」

背中の上で立ち上がりブツブツひとり言を言っているのが気味悪い。

怒っているのか、お説教の前触れなのかよく分からない。

「シュト、ちょっと光ってみて」

「え?どのくらい?」

「気分がいい時にピカーっとするくらい」

澄幸に少し離れてもらって、シュトはピカーッと光った。このくらいはちみっちゃくなっている時にも光っているので違和感はない。

「…どう?」

トリシアは厳しい顔つきで腕組して亀裂に注いでいた視線を上げた。

「澄幸、ちょっとこっち来て」

「え、僕?」

彼女は急かしも茶化しもしなかったが強い眼差しには有無を言わさぬものがあった。彼女に倣ってシュトの背によじ登るとその顔の厳しさの原因とはち合わせた。

「澄幸は魔法を使わないけど、龍の姿になる事はある?」

「…意図的になることは一般的にあると言ってもいいだろうね。ただ龍の体主体ではない」

「じゃあ、これはあなた達には当てはまらないっていうことかしら」

小さく首を振るとトリシアは短くため息をついて頭が痛そうに眉間に寄ったしわをもんだ。

「…トリシアぁ」

不安げな声には何も返せない。

亀裂をそっとなぞって、下した判断を頭で何度も反芻し、そして論理的にあり得るかどうかを思案する。

「シュト、まあ差し当たってあなたが病気ではない事は保障してあげるから、その情けない顔と声をしゃっきりさせなさい」

「ほんとう?」

その背中から身軽に飛び降りてトリシアは「大丈夫」と安心させた。

「本当はもう少し、大きくなると思ってて反抗したんでしょう?」

しおしおとした顔で頷く。

「今思ったよりも大きくならなくて、ちょっと窮屈でおかしいなあって思ったんじゃない?」

もう一度頷く。

「私も初めてだからびっくりしたんだけど」

そのシュトの鼻面を肩口に引きよせて撫でてやる。

自信がない、本当は不安、それらすべてを悟らせないように、おそれで声が震えないように逆鱗を握り締めて自分を奮い立たせた。

「シュトはたぶん、もっと大きくなるために脱皮をしなくちゃいけないんだわ」



さてさて今話は予約掲載機能を使っての更新です


久々にαωでの連続更新ですね!

タイトルの「綻び」は何の事か読んでくださった方にはなんとなーく

お分かりいただけたのではないのでしょうか

最近引っ込み気味だったシュトの話です

この「綻び」をめぐってシュトとトリシアがばんばん活躍する予定なので

目を離さず見守っていただきたいです


では今回も読んでくださってありがとうございます!

更新予定は金曜日を目指しておりますがちょっとどうなるか分かりません;;

次話も乞うご期待

そしてみなさん良いお年を!

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