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sheath‐鞘姫‐  作者: 肇川 七二三
誘拐(DParty編)
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誘拐された女の子(2)

「トリシアはどこにいるんだ!」

震え慄き、両手をわなわなと情けなく彷徨わせる姿は組織のトップとは思えない非常に情けないものだった。

「今は、お会いになりたくないそうです」

「珠姫っ!君は会ってるからそんなことが言えるんだろうっ!」

「ええ、会ってますよ?」

当たり前すぎる事を聞かないで欲しいという面倒くさそうな顔をしている。

「僕はトリシアに会えないと気が狂ってしまいそうなんだ!居るんだろう、今この館の中に!」

「どうせなら、本当に狂ってしまわれた方が私は助かるのですが…」

ほとほと嫌気がさしたように口を開いた彼女は、まんざらでもなさそうな態度だ。

基彦と暉臣は腕を組んでその様子を眺めていた。

「おい、やっぱり気丈に振る舞ってはいたが、やはりあの年頃の娘には辛いことが多いのだろうか」

「たぶんな」

澄幸の占いは、尋常でない確率で確実に当たる。

その占い通りに基彦と暉臣は計画を練って実行したのだが、ここ数日のあの娘の様子を見るだに罪悪感しか沸かないというのはどういうことだろうか。

我々は、あくまで澄幸の配下であり、澄幸さえ幸せなら良いとさえ思っているのに。

「ですから、勝手に館の部屋を片っ端から検めてやろうなんていう、下賎な目論見は思いとどまってくださいまし」

「……むう…」

どうやら小学生がピンポンダッシュをするがごとく部屋の扉を開け閉めするという凶行…いや強硬手段に及ぼうとしていたらしい。

毎度毎度、珠姫の勘の良さは脱帽物だ。

「親方ぁ、そう情けない顔しないでくださいよ。当分、居てくれるって言ってたじゃありませんか」

「そうだけど、いろいろ楽しい毎日が送れるはずだったんだ」

「それも、占いで?」

無言を返したのを基彦と暉臣が顔を見合わせて肩をすくめた。

「占いは、当たることを前提に考えるもんじゃありませんぜ」

「それは分かってる、心得ているつもりだけど、あの娘が来てからからっきしだ。ひとつもまともに当たりやしない」

「ひとつも、ですか…」

それは少し、彼らにとって病いじみた言葉だった。

「もしかしたら、彼女は思っているよりも早く手元から離れるような気がしてしまう。占いに依存しすぎているとは思うが、僕は不安だ」

「親方、その占いが今か、明日か、明後日か、明々後日か何時当たるか確証もないんじゃあするだけ無駄だし、自分の望む日々を送るために常人は占いじゃなく自分の行動を頼りにするんじゃないですか」

それらしいことを言って慰めるが、彼らの主の顔は晴れない。

ちょっと、常日頃から甘やかしすぎたかなと反省している。

これじゃあ子どもの相手をしているようなものだ。

澄幸は目を閉じて、深く息を吐く。

くつろいでいる風の彼の顔は一瞬で十歳くらいの年齢のぼやかしがかかる。

中年のおやじにも見えるし、青年にもみえるが、幼い少年にも見える。

「珠姫、トリシアは体のどこか、悪いのか」

「どう答えるのが正解でしょうね…つきのさわり、とお答えすればよろしいでしょうか?」

「そうか、なら、いい。ゆっくり休ませてあげなさい」

目を開いて、珠姫にようやっとそう言うと、澄幸の顔には情けなさも取り乱した後も残っていなかった。

いつもの、懐深く、ゆったりと構えた主の姿だ。

「けれど、せめて明日の夕食頃に少しでも顔を見せてもらえると僕は安心する」

「かしこまりまして」

あの主絶対主義の珠姫が主よりもあの娘の方を大切にするのは澄幸にとっても嬉しい誤算だったが、それはそれで不便だし、寂しい。

そんなことを知る由もなく、おそらく彼女自身無意識にトリシアの方を優先させているのだろうが、珠姫はいそいそと部屋を出て行った。



「タマキ!おかえり、スミユキは黙って納得してくれた?やっぱり難しいかな」

「いいえ?やかましかったですが、生理で弱っておられるとなるべく遠まわしに伝えると、納得していただけましたよ」

「…う、うん、そう、ね。嘘じゃないし、やっぱりちゃんと言わなきゃ駄目よね」

トリシアは若干、どれだけ遠まわしに伝えたと言っていても珠姫がオブラートに包んだ物の言い方ができないことはここ数日で学習していたので、内心がっくり来ている。一応、乙女だから。

「あー、早く部屋の外に出たいなあ」

「ようやくその気になられたんですね、嬉しいです」

「えっとねー、まずスミユキを質問攻めにするでしょ?それから事と次第によってはドラゴニスタとがっつり話し合いをさせるために動き回るでしょ?あ!日本語教えてもらっとこうかな!」

「たいへん、楽しそうな計画を練っておいでですね」

「うん。シュトには出来る限りの事をしてあげときたいから、ここでスミユキを逃すと後々後悔すると思うの」

「そうですか?別に後々でも構わないような気がしますけど」

珠姫は本気で言っているようなので、トリシアは身を乗り出して否定しておく。

「スミユキもタマキも、ドラゴンじゃなくて龍なんでしょ?龍とのパイプって貴重なんだから、繋いでおかないと」

「…ええ、」

「みーんな長生きだからって、ちょっと悠長なのよね」

穏やかな口調に少し驚く。

そして少しの沈黙の後。

「…龍って、何なの?」

珠姫はゆっくりと瞬いて、刺すような鋭い目で見つめ返した。

苛烈、というよりは凍りつくような冷え冷えとした視線だ。

トリシアは視線が離せないまま、ばつが悪そうに後頭部を掻いた。

「…やっぱり、スミユキ以外の人に訊くのはルール違反だったかな」

珠姫が視線を動かす。

珠姫の視線は澄幸や基彦たちにも「殺されそう」と言わしめるのだが、彼女は最後まで外さなかったことに少しだけ驚く。

一方のトリシアは視線から逃れた瞬間、玉のような汗が噴き出てひど気疲弊していた。

「…龍がなんなのか、私にもよく分かりません」

「そっか」

「そう言えば、シュトが見当たらないのですが?」

「ふふーん、実はね」

トリシアが仰ぎ見た先に自然と珠姫の視線が誘導される。

高い天井を何か小鳥のようなものがぱたぱたと羽音をたてて飛んでいた。

「あれは…?」

「シュトでーす」

確かに、たしかによく見ると小鳥ではなかった。

内側から光を放つ宝石みたいな、もの。

「シュトー?あんまり楽しいからってはしゃぎすぎないでよー」

「トリシア!これならたくさん飛べるよトリシアが閉じこもってても!」

それが軽やかに弧を描いてトリシアの手の甲に口づけるように降り立った。

にわかには信じられないように、でもとても感激したように珠姫が息を飲んだ。

「今は魔法を使ってもらって小さくなっているけど、シュトの本当の姿です。…ほら挨拶して」

「タマキ、こんにちは。シュトラーフです」

「まあ!」

珠姫にはあまり親しみのない西洋風の、ドラゴンの出で立ちは新鮮で。何しろその大きさが掌に収まるほどの可愛らしいものだったから、彼女の顔もほころぶ。

「どうしても飛んでまわりたいって駄々こねるから、意地悪して『シュトが小さくなればいいじゃない』って言ってやったの。まさか本当に出来ちゃうとは…」

「本当に可愛らしくてお小さい。わがままも言いたい盛りですものね」

シュトの体は通常のドラゴンと比べて成長のスピードが早い。比例するように魔法を扱う力も大きい。その割には精神年齢がやや低い。

トリシアは3才くらいの子どもを相手にしている気分なのだが、自分で動き回ってもらう分には今の4、5才くらいの姿がちょうどいい。

たぶん、無意識に体型や体重を操作するように、魔法を操っているのだと思う。

だとするならば、こうして極端に小さくなるように魔法を使えるのも不可能ではないはずだったのだ。

トリシアの見立てよりも、シュトの成長は著しく早いのだと認識を改める。

「シュトがこうやって飛び回ってても迷惑じゃない?」

「いいえ、この程度の大きさならまったく問題ありません。主には私から言っておきましょう。シュト、部屋から出てみますか?」

珠姫は少し舞い上がり気味に提案した。

相好を崩してシュトを見つめる目はいっそうなごむ。

しかし、シュトは首を振った。

「シュトは、トリシアが一緒じゃないならでかけないでおく」

「本当に、しっかりした御子ですね」

「タマキ、ちょっとシュトに甘くない?」

彼女はちょっとかしこまって姿勢を正した。そして堪えきれなかったように吐息が漏れてくすくすと肩が揺れる。

「きっと、気のせいでしょう」


シュトがずっと子どもの格好でいるのがなんだかかわいそうだなー

まだ生後1年も経ってないからね、

のびのびさせたいけどなあ…っと考えを巡らせた結果

こうなりました(笑)


今回も読んでくださってありがとうございます!

では次回の更新は金曜日の予定です!

次話も乞うご期待☆

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