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sheath‐鞘姫‐  作者: 肇川 七二三
Only Stage(ドラゴニスタ総会編)
141/225

眠りに落ちたのは日付がとうに変わって夜明け前の頃だったと思う。

ドラゴンの「踊る」はけっこうスリリングで、背面飛行された時には生きた心地がしなかった。というか半分お花畑に足を踏み入れていたと思う。

そう言いながらも、あげていたのは悲鳴ではなく歓声だったのだからどっちもどっちと思わなくもないけれど。

ぎゅんぎゅんと風を切って、重力に逆らい、重力に従い、笑っているのが人間の姿をしていなくても分かった。

おかげで眠気は吹っ飛んでしまって、夜遊びに浸ってしまったのだから責任は彼に取ってもらわねば。

だけど、行儀のよさのない飛び方が好みだと言ったらまたギアに叱られてしまうかもしれない。

化粧だけを落としてベットに倒れ込んで泥のように眠った。

たった一人身を起し、窓の外は朝焼けに色づく山々がそびえて、体力を使い果たしたギアが隣で寝息を立てていた。

クスリと笑みが漏れる。

ベットの端に身を寄せて、トリシアを布団でぐるぐる巻きにしているところが律儀というかなんというか。

不思議な景色が部屋に広がっていた。

開け放った窓から朝靄が部屋に流れ込み、床が見えない。

まるでこの部屋が雲の一部になったようだ。

眠いのだが、目が冴えてしまった。

時計は見当たらないが、精々見積もって4時間程しか眠っていないだろう。

「魔法かな?」

朝靄を掻き回すと手に絡みつくようにせり上ってきた。

寝付けなかった理由は分かっている。

実質的に今日でドラゴニスタ総会が終わる。

『龍墨四霊の議』が執り行われて、それを以って閉会が知らされるのだ。

桂林にいられるのも、あと3日がいいとこだろう。

たくさん出会った。

人にもドラゴンにも。

そして、これが終わると散り散りに離れて行ってしまうのだ。

それを考えると、身を引き裂かれるような痛みが胸に疼いた。

自分の物じゃない。

みんな、自分の人生を歩いて行くだけだ。

それでも、寂しいと思ってしまうのは悪いことだろうか…?



「トリシア、ちょっと寝床に入れてくれ」

「どうしたの、そのひどい顔」

「いや、挨拶回りも終わって、でも羽目だって外したいからブラムスとアポロンを連れ回してたら夜が明けてしまった…年甲斐もなくはしゃぎすぎてしまった」

「ああ、うん、憧れの桂林だったものね」

朝靄をかき分けてベットに向かって来たローリエは目の下にクマをつくってやつれて見えたけど肌はつやつやとしていて健康的な血色だった。

念願の桂林を思う存分満喫できたのだから、思い残すこともないという達成感に満ち満ちた顔だった。

夢心地というような顔でベットにぼふんと倒れ込んでまどろみをむさぼる。

シュトは宙を漂って眠っている。

いつもながら思うのだけど、器用なことをする子だ。

実質的にトリシアひとり分のベットだったからローリエはやってきたのだろうけど、計算違いが一つある。

不愉快そうにローリエが声を上げた。

「何でここにお前がいるんだ!気持ちよさそうに寝こけやがって!」

思い切り蹴飛ばしてベットの端で慎ましく眠っている弟を床にたたき落とす。

「トリシア!何もされてないか?!」

「何もされてません」

「そうか!」と半ば投げやりな返答が返ってきたが、ただ単に弟に妬いているだけなのは分かっていたので苦笑いする。

なんだかんだいって弟の事を信頼している部分があることを自覚しているだろうか。

しばらく沈黙が降りたので眠ったかな、と判断を下す寸前でローリエがぱふぱふと柔らかい枕を叩いた。

「トリシア、こっち来て添い寝してくれ」

シーツ越しでくぐもった声、隠れた顔はどんな表情をしているのかうかがい知れなかったが、寂しそうにしてくれていればいいなと思いながらローリエの腕の中にもぐりこんだ。

「ちょっとオヤジっぽいよ」

「最近よく言われるから気にしない」



「姫さま、そろそろ御召し変えをいたしましょう」

「ああ」

ローリエの腕の中でも結局眠ることが出来なかった。

フラルに手をひかれて浴室へ向かう。

ドレスを留めているのはチャックではなく編み上げられたリボン。それを丁寧に解いてもらいやっと締め付けられた体が解放される。

深呼吸を何度か繰り返すと体の中の空気が全て新しくなったような気がした。

湯を張った湯船につかると更にカチコチに固まった体が柔らかくなって芯まで温まるのが心地よかった。

「…今日で姫さまのお世話をするのも最後になってしまいますね」

「そうだね」

名残惜しそうな言葉の後に沈黙が返ってきたので、なんだかトリシアはばつの悪さを感じてしまった。無口なフラルには慣れていない。

「フラルはひょっとして寂しいの…?」

髪を梳く手が震えて小さく波だった。

「さびしくなんかっ、ありません…!」

上向くと唇を引き結び目を真っ赤にした子どもが必死に堪えていた。

湯船から白く細い腕を伸ばしてよしよしとフラルのあたまを撫でてやる。体をフラルの方に向き直して撫でると小さな手でしがみついてきた。

「白い髪を梳るのも、身の周りをお世話するのに走りまわるのも、追いかけ回すのも、宮から抜け出すのも、ぜんぶ、ぜんぶ、たのしゅうございました!」

「フラルには心配ばっかりかけちゃったもんね、ごめんね」

「姫さまがしわしわのおばあちゃんになってもフラルは姫さまが大好きですっ!」

「ローリエより?」

「姉さまより、です!」

泣き笑いの顔でフラルは破顔した。

「また会いに行くから、フラルは私より長生きしてね」

「それはこっちのセリフですよ、姫さま?」



入浴時間はいつもより長くなってしまったが、それでもまだ朝食を取る時間が余ってしまうのだから早起きするとなんだか1日が長く感じる。

着替えや身支度をしなければいけないのでギアは早々に追い出されてしまった。

ローリエに聞く。

「今日は私の好きな服を着ていいの?」

「いいよ。そのまま帰れるくらいの気軽さでいいよ」

「なんだかすごい儀式の前とは思えないなあ…」

『儀式』と口走ったトリシアにローリエが訂正を加える。

「『龍墨四霊の議』の『ぎ』は『儀式』の『ぎ』じゃない。『議会』の『ぎ』だ。何か大層な魔法を使っていわゆる魔術的なことは一切しない。かわりに今後おおよそ100年誰がどこで何をするか、ということを大まかに話し合って決め合うんだ」

「たとえば?」

「うーん、噛み砕いて言うと、森林が失われたところに雨を降らして日を照らして森林を育てる手助けをする、とか?」

「そんなことをシュトにもさせるの?」

「させるんじゃない?」

あんまりにアバウトな回答に眉間を抑えるようにして天を仰いだ。

誰か、誰か助けてくれ。

…誰かって誰だ?

「シャルロッテはもともと『風』を司っていたようだし、大役ではあるけど…。ようは風をうまい具合に吹かせてりゃあ何とかなるってことじゃないのかな」

気楽にローリエが続けて言うのでそう構えておくようなことでもないように思えてきた。

「じゃ、そろそろ行こうか」

時計の針が指し示しているのはぴったり9時。寸分の狂いもない時間感覚には感嘆するしかない。あのひと、8万年は生きているんだからぼけぼけになってもよさそうなのになあ。

「トリシア、君いま少し失礼なことを考えてなかったかい?」

「全然、まったく、微塵も」

考えている事を先読みされるのも、驚かされることだけど、それは私の顔に全部書いてあると口を揃えてみんなが言うので、最近本当に書いてあるような気がする。



今までになくつづら折りになっている階段を下へ下へと降りていく。

幅広だった階段は少しずつ狭く古くなって行きこれ以上下へ降りるとどうなってしまうのか心配になるくらいだった。苔むした岩が突き出し木の根が絡みついている石畳を慎重に降りていくその脚は微塵も不安定さを感じさせない。

もともと山育ちなので山の歩き方は心得ているし、馬術の鍛錬のおかげで足腰は強い。

逆に危なっかしいのはシュトとローリエの方だ。

ギアは何度かトリシアの家のある山を行き来しているのでそれほどではないが。

「シュト、抱っこしようか?」

「やだ」

何度か同じ会話をやり取りしていたのだけど、何度めだろう。

ひたすら下った階段の数ももうわからない。

「…トリシア、抱っこして」

根負けしたのはひたすら下へ下へ続く階段の数が減り岩に張り付くように急斜がかかったのを見てからだろう。

これは私でも怖い。

その階段を最奥まで降りきると平らな地面が待っていた。

そしてゆうに10メートルは超える大きな扉が。

「あれだよ」

無言で頷く。

あの扉を隔てていても分かる、大きな気配。

はたしてどうしたらあの扉が開くのか分からなかったが、ローリエが軽く押すと重苦しい軋みをあげながらいとも簡単に開いた。

「私たちも今日は呼ばわれているから、中に入ってしまうけど、トリシアは人間だから立ち入ることは許されない」

「うん」

シュトを抱きおろして、髪を撫で梳いてやる。

「シュト、私がいなくてもできるね?」

「…トリシアは本当に入れないの?」

頼りなさそうにローリエを見上げた瞳は不安を隠しきれない。

優しく抱きしめてやる。

「私はこの扉の前でずっと待ってるから。たった扉1枚しかないんだからそんなに離れてないでしょう?ね?」

ぐずつく前に手放して背中を軽く押してやると、シュトは背筋を伸ばして扉の中へ進んで行った。

「じゃあ、いってらっしゃい」

ギアとローリエも扉の奥の闇に呑まれると、とたんに扉が音を立てて閉まった。



―――それから日が沈んで月がてっぺんに上るまで、夜闇の帳の中で扉を背に待ち続けた。愛しい彼女のドラゴンを――――。


お久しぶりです

更新が停滞しているにもかかわらず閲覧してくださっている方が要る事に

本当に救われます


あー、この話書いたらドラゴニスタ総会終わるなー、と考えつつの更新

ホントにね、次の展開どうなるのかね、

とりあえずローリエとアポロンとフラルがログアウト状態になるのが

結構な痛手です

あの人たちあくが強いもん(笑)


でもでも

筆者にはまだまだ手を考えてありますので次話も乞うご期待☆

今回も読んでくださってありがとうございます!

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