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sheath‐鞘姫‐  作者: 肇川 七二三
Only Stage(ドラゴニスタ総会編)
140/225

ドラゴニスタ 総会(4)

外には案外簡単に抜け出すことが出来た。

誰かにばれるんじゃないかと始終びくびくしていたのがあほらしくなってしまう。

「ドレスの裾がちょっと邪魔かなあ…」

粗雑な手つきでたくしあげようとするのをギアはやんわりと、しかしきっぱりと制する。

「何言ってるのさ、その後ろに伸びるレースの裾、とっても好みだったのに」

「…ぎ、ギアの好みなんて知らないもん…」

ここで少し意固地になるところが幼いのだが、幼いと言えるのは人間の寿命を少なくとも10回くらいは全うしないと意固地な言動が「可愛らしい」には直結しない。

はっきり言ってなぜ「ムカつく」と思わずに「可愛い」とおもえるのか、年齢の問題ではなくただ単に「恋は盲目」の所為だと第三者はしっかり保障をつけてくれるかもしれない。

「裾を気にしていると両手が塞がっちゃうし、ほら」

夜闇にぼんやりと浮かぶ男女のシルエットを指差す。

両手いっぱいに浮上する天燈を抱きしめてはしゃいでいる。小さな蝋燭の放つオレンジの柔らかな明かりは嬉しそうにはにかむ女の顔を包んでいた。

「あれやりたい!」

駆け出したその顔は子どものように無邪気で。

ふわふわとドレスの裾が舞い上がり足に絡まる。ヒールの靴、千鳥足。

予想を裏切らず彼女の足取りは急激に失速し勢いよく転倒した。

柔らかい芝生の上に倒れ込んであちこち痛い。でも、すんと吸い込んだ空気が青い草の匂いがして酔いが和らぐ気がした。

「トリシア重い~」

ん~っ!とトリシアの腕の中からシュトが這い出そうとする。

「シュト~」

「よっぱらいだなあ、もおー!」

シュトの抗議の声は途中から歓声に変わった。

「トリシア!見て!上見て!ねえってば!」

うつ伏せになったままのトリシアをシュトを揺す振って、仰向かせる。

つぶっていたまぶたをそろそろと持ちあげると、絶景が広がっていた。

「うっわあっ」

星、満天の星と見まがうほどの天燈、小さな天体がすぐ目の前、手の届く所に散らばって広がって揺れ踊っている。

本物の星は見えない、翼を広げる巨躯が空を覆い隠すほど踊るように飛んでいる。

その下に灯した天燈が無数に。

時速数十キロの速さでゾクゾクと鳥肌が駆け抜けた。

天燈の美しさ、それを覆い隠す闇にうごめく無数の影が、世界で一番愛しい生き物のものだと思うと、体の芯が溶けるような熱を帯びていく。

すぐ隣にゆっくりと、躊躇いながらギアが腰をおろして、彼女と同じように芝の上に寝転がった。

「綺麗だね」

「うん、とっても」

「泣いてる?」

「ううん」

突然無口になったトリシアの方に首を傾けると、かぶりを振ってちがうちがうと否定する。でも言葉とは裏腹にその頬は濡れて夜空を埋め尽くす淡いオレンジの光に反射する。

「空が、きれいだね」

震える声を律して、涙を追いかけて手の甲で拭って、その頬には笑みを浮かべて。

全てがあべこべ。

「あのね、海神にはズバッと言ってやったから」

「そうかい」

「ズバッといったからね」

「傷ついているように見えるけど?」

その一言でかろうじて踏みとどまっていた全てが決壊してしまった。

大粒の涙が手の甲で拭っても追いつかない速さで頬を横切っていった。

罪悪感で口の中に苦い気持ちがいっぱいになって、口を引き結ぶ。

いつもならシュトが何か言って騒いでギアを責め立てるのだけど、シュトはトリシアの腕の中でトリシアの顔を見上げるだけ。

まるで彼女の心のすべてが分かっているかのようなその眼差しは母親のそれと同じだった。

「私は飛べないし、魔法も使えないし、ドラゴンでもない」

「うん」

「だからっ、ギアの事が好きだとか、一緒にいたいとか言う資格なんてないんだ」

どうして、と訊く気はなかった。

きっと、海神のことを諦めさせた理屈で、自分を諦めさせなければいけないことに苦しんでいる事くらいは、自分にも分かる。

「…私馬鹿だ。海神に言った言葉がそっくりそのまま自分に返ってきた」

しゃくりあげて泣く姿は痛々しくて、簡単に言葉をかけてやることが出来なかった。

「…トリシア、君に拒まれてすごすごと引き下がる程度だと思われたら心外だぞ」

「分かってるよ…」

ここで「分かってる」という返答が返ってくるとは思っていなかった。

「何回だって拒まなきゃいけないから苦しいんだよ、頷けないから苦しいんだってば」

「…遠回りに『好きだ』って言ってるって気付いてるかい?」

きょとんとあどけない顔に、涙を留めた瞳がオレンジ色に光る。

なにか、物珍しい生き物か、愛らしいネコかウサギかパンダか、彼女にとって一番愛らしい生き物は目の前にまさにいるドラゴンなのだが、まじまじと見入っている。

「…わかってない…」

「ああそうでしょうね、でしょうとも」

まどろっこしい会話に辟易したようにギアは腰を上げる。

指を無造作に振り回すと手品のように天燈が現れた。

「うっわあ!ギアすごい!シュトにも教えて!」

飛んで跳ねての大騒ぎする子どもに大人げなく希望を断ち切る。

「シュトにはまだ無理、絶対無理、100%無理」

ぷくうっと頬を膨らませて怒りをあらわにするも、ふぐと瓜二つで笑ってしまいそうだ。ここで笑うとご機嫌が急降下するので絶対に笑ってはいけない。

「願い事を書くと縁起が良いらしい、トリシア、何か書こう」

まだ半べそのトリシアを立ちあがらせて新たに出現させた筆を持たせる。

「さ、何か願い事、ある?」

筆を迷わせながらも彼女は書いた。

『ずっといっしょにいられますように』

怪我をしない、病気にならない、面倒事に巻き込まれない…それら全部の願いを背負って、天燈はオレンジの光に熱を灯してふわふわと綿毛のように3人の手から離れて浮かんで行った。

その天燈が手から離れて満天の星と見紛う天燈の群れにまぎれて区別がつかなくなって、そしてようやくトリシアは見上げていた顔を戻して微笑った。

「ねえ、空飛ぶんだったよね」


天燈、天燈って良いですよね、

一度やってみたいんですよね、どこに行ったら出来るのかな!

聞くところによると台湾とかモンゴルに行くと出来るらしいのだけど

とにかく画像を検索してみてください!

天燈、いいですよ!


…天燈より、自分の小説の内容に触れるべきじゃないのかな…(笑)

甘々な展開ですが、これからどうなるんでしょうね

恋愛小説っていうタグをつけた方がいいのかな


では

今回も読んでくださってありがとうございます!

次話も乞うご期待☆

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