プリーズプロミス
今は夏休み明け初日の夜。登校日を無事に乗り越えた幸樹と直美ちゃんが、机に座って夕食を食べています。
「幸樹は今日どうだったー?」
「ファミレス行って友達と飯食ってた、中村が諸事情で傷心してたから慰める会だな」
あの後幸樹たちは中村君を慰める会と称して、ファミレスで長いこと話し込んでいました。一通り騒いで彼も落ち着いたようで、後半では次のテストについての話題になっていましたよ。
「中村君? なんかあったの?」
「またフられたらしい。夏休み初めに付き合って、そして夏休み終わりにフられたそうだよ」
「そんな非人道的な」
孫と同じリアクションしてますね、やっぱ一緒に育ってきただけあって似てるんですよこの二人。
「ホントにね。まあ話したら落ち着いたみたいで、後半はテストの話になってたよ」
「夏休み明けすぐテストだもんねぇ、もうちょっとゆっくりさせてほしいものだよ」
「一か月くらいは猶予欲しいよなー」
夏休みが終わればたった二週間でテストが始まります、休みで勉強サボってた分みんな苦しむのです。孫たちもこれからテストに向けて休みボケを解消して、勉強を頑張らねばなりません、大変なのですよ。
「直美の方はどうだった?」
「そうだねぇ……勝利報告して、祝われて、カフェに行ってひたすら恋バナした、そんな感じ」
明美ちゃんと直美ちゃんによる「彼氏持ちトーク」を他二人が面白おかしく聞いているような感じでした。恋バナ大好きな仁美ちゃんが根掘り葉掘り話を聞き出して、安奈ちゃんがリアクションで話を広げて、そうやって数時間カフェで駄弁り倒していました。直美ちゃんの友達も中々キャラが濃いので、機会があれば掘り下げたいですね。
「後はやっぱりテストの話になったよ~、みんな嫌そうにしてたね」
「だよなぁ~、俺もやりたくない~……」
「テストは義務定期、まあ幸樹が一緒にサボってくれるなら歓迎だけどね?」
勉強しなくても点を取れる直美ちゃんは、放っておくとどんどん勉強をしなくなってしまいます。いつもテスト期間中に「勉強しろ~……サボると祟るぞ~~……!」と圧をかけてくる幸樹が許してくれるなら、ひたすら自堕落にサボってしまうことでしょう。
「うぐぐ…………いや、頑張るぞ。俺がしっかりしないと直美がサボってしまう」
「そんなママみたいな」
「間違っては無いでしょ。お弁当作ってるし朝起こしてるし、ママを名乗ってもギリギリ許されると思ってるぞ俺は」
そうですそうです、おばあちゃんの包容力を受け継いだ幸樹はそんじょそこらの女性を超えたママ力の持ち主なのです。直美ちゃんも孫をママと呼んで良いんですよ? 娘としてママの抱っこを求めても良いのですよ?
「まあそう……そうかな?」
「そうだよ」
「そっかぁ」
無事に直美ちゃんが洗脳……もとい、説得を受け入れました。そうして内容の無い会話を済ませたところで、再びテストの話に話題が戻ります。
「ママー、直美ちゃんテスト勉強したくなーい」
「ダメよちゃんと勉強しないと、ママも一緒に頑張るから直美もちゃんとしなさい」
「んにぇ~~…………」
脱力感に満ちた抗議の声を上げる直美ちゃんですが、学生である以上テストからは逃げられません。孫が一緒に苦しんでくれるんですから、諦めて頑張ってください。
「むぐぅ……じゃあ、ご褒美」
「ほう?」
「直美ちゃんご褒美ほしいです! テスト頑張るから、終わったらご褒美ください!!」
直美ちゃんはモチベーションを外付けしてもらうみたいです、頑張る動機が欲しいのでしょう。
「ふむ、内容によるな」
「…………甘えたい。ちょっと道徳に反したレベルの甘え方をしたい、正気を疑われるレベルで、思いっきり甘えたい、です」
「…………なるほどね?」
三十分以上自分に抱きついて離れなかった、在りし日の直美ちゃんを思い出したのでしょう。孫は「直美は自分に思いっきり甘えたくて、それには言い訳がいる」と納得して、あっさりと頷きました。
「いいぞ、直美が頑張ったら思いっきり甘やかしてやる」
「……いいの? 言質取っちゃうよ、もう断れなくしちゃうよ?」
「良いけど……そ、そんなにヤバイ内容なのか……?」
おう孫、安請け合いしてるとこ悪いが今回の甘え方はガチでヤバイわよ、明美ちゃんに入れ知恵された直美ちゃんは本当にとんでもないことをするつもりよ。覚悟の準備をしておくことね。
「それはそうだよ、だってほ…………なんでもない」
「"ほ"……?」
「ま、まあ大丈夫だよ! 私の尊厳は損なわれるけど、幸樹の尊厳はそんなに損なわれないから!」
「尊厳が損なわれるレベルかぁ、まあ直美の頼みなら聞くけども」
こうして孫は無事、直美ちゃんに言質を取られてしまったのです。テストが終わった後に何をさせられるのかも知らず安請け合いしおってからに、愛いやつよ。




