フレンドシップ
夏休み明けの簡単な授業、そして課題提出を乗り越えた幸樹。彼は友達たちに勝利報告をすべく、教室を移動しています。嬉しそうな雰囲気がどことなく溢れている様子で、軽やかな足取りで歩いています。
「おーいなかむ「待て」ッピ!?」
告白成功の自慢をすべく意気揚々と中村君を呼ぶ幸樹ですが、背後から急に肩を掴まれ「待て」と制止されました。これにはビックリ、ヘンテコな悲鳴も出ます。
「渡辺、少し待て」
「なにすんだ松本、そんならしくない真面目な顔して」
「お前が不用意に今の中村に近づくのはマズい、こっそりバレないように、ヤツの顔を覗いてみろ」
困惑する孫ですがそうまで言われては仕方ありません。教室の扉からちょっと頭を出して、座って安達君と話している中村君を見ます。
「うーーん…………? なんか、黄昏てない?」
「お前にも分かったようだな、では戻るぞ」
ひゅっと頭を二人が引っ込めて、松本君による状況説明が入ります。
「単刀直入に言うぞ、中村がフられた」
「え? アイツ彼女居たの?」
「夏休みに入った後に告られたらしい、そして夏休み終盤にフられた」
「そんな非人道的なことある?」
中村君はまたフられてしまったようです。あんなチャラチャラした顔してるのに生活感マシマシですからね彼、煌びやかな生活を夢見て近づいた女には噛み合わないでしょう。
「なんでも「思ってたのと違った」らしい。生活感があるとか堅実過ぎるとか、そんな感じだ」
「あ~~……中村は「赤身の多いひき肉が買えた」とか「半額の鰤が手に入ったんだ」とか、いつもそんな感じだもんな」
「チャラ男をイメージしてたらギャップに耐えられないよな、まあつまりいつも通りなんだが」
「やっぱ話したことも無い相手と付き合うのが間違いなんじゃ…………」
「言ってやるな、彼は純粋なんだ」
ひどい話ですよ、本当に。中村君はちょっと見た目がチャラそうなだけで、女の子に告られたら舞い上がってしまうような純粋な男の子なんですよ。学習せずに何度もオーケーして何度もフられてるのはちょっとアホですけど。
「そんなわけで、アイツの傷を抉らないように、具体的には直美ちゃんの話題は出さないようにしてくれ」
「ああ分かった、教えてくれてありがとな」
もし孫が告白成功を彼に話していれば、中村君は傷跡に岩塩を突き立てられたが如く死んでいたことでしょう。松本君ナイスですよ。
事情を知った上で適切な言葉を選び、教室に入った幸樹が彼らに声をかけます。
「やっほー中村、安達」
「よう幸樹、その様子では課題は無事出せたようだな?」
「そりゃあな、楽勝だよ楽勝」
安達君は孫の堂々とした様子を「夏休みの課題に勝利したゆえの余裕」と考えたようです、現時点では告白大成功の事実は全くバレていません。
「やあ、幸樹。元気そうだね」
「おうともよ、中村は? 宿題は終わったか?」
「もちろん、余裕を持って中盤にキッチリ終わらせておいたよ」
中村君も見た感じ大丈夫そうです。人生にメインヒロインがいるタイプの男が前に現れても平静を保てているのですから、その精神強度は中々のものです。
彼がじっ……と孫を見ます。今日の中村君はどこかぼんやりしているというか、浮世離れした印象に見えます。なにか人と違う物が見えているかのような、焦点がズレているような眼差しをしているのです。
そして何が分かったのか、軽く頷いた中村君が口を開きました。
「そうか、直美さんとは上手く行ったんだな、おめでとう」
!?
「なっ……!」「???」「どういうこと?」
はぁ!? なんでわかったんですかこの人!? 孫は自然な様子でしたし、そもそも学校に来てからそのことは一度も口にしていません。どうなってるんですか今の中村君は。
「な、なぜ分かった……?」
「見ればわかるよ。なんというか、目線とか声の高さとか、そういうのが「上手く行った」って感じだったから…………まあつまり勘だよ、勘」
なんか変な境地に達しつつありませんかこの人、ちょっと人外じみてますよ……?
「中村……お前、大丈夫なのか……?」
松本君が並外れた直感を発揮した友人を心配しますね、その眼差しにはどこか畏怖のような色も見え隠れしています。そりゃ怖いでしょ、私もビビってるわよ。
「大丈夫だ……いや、やっぱ辛いな…………なんで毎回こうなるんだろ、うぅぅ……」
「中村! 気を確かに持て! お前は間違いなく優良物件だ、間違いなく良い男だ。ただ……自分から告ってくる女とは、致命的に噛み合わないだけで」
「そうだぞ中村、家庭的な男は今の時代間違いなくモテる、もっと見る目のある女を選べばきっと上手くいく」
「そうだぞ、現に家庭的極まるここの渡辺は上手くいってるじゃないか、お前も自信を持て」
耐え切れなかった中村君ですがみんなの奮闘もあって何とか復活しました。全員に"彼女は選べ"って言われてるんですし、次はちゃんと良い女を射止めて欲しいですね、切実に。
「……まあとにかく。おめでとう渡辺、本当に良かったな」
「ありがとう中村、お前も上手くいくよう願ってるよ」
いやぁ、傷心でも友達を祝う心は忘れないなんて中村君は良い子ですね。次は良い女見つけられることをおばあちゃんも願ってますよ、自分からアタックなさい若人よ。
その一方で、直美ちゃんは友達と怪しげな密談をしていました。
「…………そんなわけで直美ちゃん、間違いなく最高の幸せを味わえるから、ぜひ幸樹君にやってもらいなさい」
「た、確かに間違いなくその通りだけど……本当に、そこまでしてもいいのかな……?」
友達の誘惑に屈しつつも、未だ決意は固まりません。
「大丈夫よ、好感度が足りてれば十分イケるわ。そしてアンタらの好感度で足りてないなら誰も出来ないわよ」
「それは、そうなんだけど」
「大丈夫よ、私の授けた秘策があれば絶対に上手くいく。男は"アレ"に絶対勝てないんだから」
その"アレ"とやらが余程強力なのか、そう言われた直美ちゃんも腹を括って頷きます。
「うん……うん! そうだね! 明美ちゃん、私頑張るよ!」
「そうよその意気よ! 直美ちゃん、アンタならきっとやり遂げられるわ!!」
パァン!っとハイタッチの音が響き、二人が教室の外に歩み出します。果たしてその"秘策"とは、そして孫は何をさせられることになるのか。こうご期待。




