ブライヴフロムペアレンツ!?
一時間かけた直美ちゃんの栄養補給が終わり、直美ちゃん含む渡辺一家が机を囲んでいます、家族会議タイムですね。とは言っても別に物々しい話題とか「息子さんをください!」とかそういう感じではありません、家族旅行のような毎年の恒例行事が他にももう一つありまして、それについてのお話をするための場なのです。
「さて幸樹、ママたちは来週いつものように二人で旅行に行ってくる、今年は四泊五日な」
「はいはい、いつものねー、何かいつもより二日多いけど。で、今年の袖の下は一体?」
はい、何のことか分からないでしょうから、順を追って説明しましょう。
まず第一にパパとママは、毎年三日間夫婦旅行に行きます、こうやって一緒に過ごせるのも八月いっぱいですからね、子供には見せられないようなイチャコラ欲を旅先で存分に満たすのです。
そして第二に袖の下とはどういうことか、これは家族で過ごせる貴重な八月、その三日間を幸樹一人にすることへの埋め合わせです。幸樹は良い子なのでそこらへんちゃんと理解してくれますがそれはそれ、ちゃんと誠意を見せることで後ろめたさの無い、円滑なハネムーン(毎年恒例)を行うことが出来るのです。
しかし今年の賄賂は、例年とは一味違いました。
「ふふん、今年のゴールデン饅頭はこれ! ホテルの二泊三日宿泊券じゃい! もちろんレジャーとか充実してるヤツね」
「えっ幸樹毎年そんなの貰ってんの? すご」
「いや、いつもは水族館とか遊園地のチケットだよ。どうしたのママそんな気合の入った物をくれるなんて、実は六泊七日予定だったり?」
「それは俺が説明しよう」
「小学二年生からママと付き合ってたパパだ」「尊厳切り売りされたパパだな」
「あんまイジるなよ、泣くぞ」
かわいそうなパパ……直美ちゃんにまで不憫枠として認識されてしまったのですね……まあそういう遊びなんで大丈夫ですけど。パパとママは仲良しなので、これくらいはじゃれ合いの範疇なのです。
それはそれとして宿泊券ですか、一気に額が跳ね上がりましたね。今まで幸樹に渡していた袖の下は映画やライブのチケット、優待で貰った遊園地のパスポートなどの二万円はしないくらいの物でした。ちなみにパスポートだった年はおばあちゃん引率の元、直美ちゃんと幸樹と三人で遊びに行きましたよ、幼い二人の体力に配慮した結果あまりアトラクションは巡れませんでしたが、それでも孫たちと行く遊園地は普段とは違う楽しさがありました。
話を戻しましょう、不憫枠のパパがこの妙に気合の入った黄金の饅頭について解説してくれるそうです。
「まあそれは置いといて。これはだな、高校に入ってもちゃんと勉強してたり、おばあちゃんが大往生した後も家事を頑張って生活してたり、そういうこの一年で頑張った幸樹へのご褒美なんだよ。おばあちゃんが死んで家に一人になって、高校に入って環境が変わってもお前は頑張って、非行にも走らず生活してただろ? だからこれはそのご褒美だ、遠慮なく受け取るが良い」
「そっか、うん……それなら、遠慮なくもらうよ」
ほほうそういうことでしたか、我が息子ながら中々粋な真似をするものです。親に褒められた幸樹も嬉しそうですね、感動的な家族愛です、隣で聞いてる直美ちゃんも「良い話だなぁ」としみじみしています。
しかしここで何か言いたそうにうずうずしている人間が一人、そう、ミス自由人こと幸樹のママである渡辺香織ちゃんです、一体何をするつもりなのでしょうか。そもそもママとパパはこの好き放題喋っているおばあちゃんの子たちなんですよ、それがこんな、無難で道徳的なだけの行動をするハズがありません、きっと何かしらの企みがあるのでしょう。いったい何をするつもりなのでしょうか。
「まあネット予約だからチケットの現物は無いんだけどねー。あと今回は直美ちゃんの分も取ってあるから、一緒に行ってらっしゃい」
「え!?」「……なんて?」
前者が油断していた直美ちゃん、後者が耳を疑った幸樹です。何の脈絡もない急展開に二人共とても驚いてます、良い反応しますね。しかしホテルの宿泊券というチョイスには最初驚きましたが、そういうことでしたか。パパとママは幸樹が早く告るよう発破をかけるつもりのようです、流石はおばあちゃんの子供達、思い切りが良く容赦がありませんね。今まではプレッシャーにならないようちゃんと自制していましたが、ここまで来れば遠慮する必要も無いという判断でしょう。いいぞいいぞ、おばあちゃんの分もガンガン背中押しまくってやるがよい。
「フハハハハ! このママとパパがあんな殊勝で道徳的な理由だけで動くとでも思ったかァ! 一年頑張ったで賞はサブ目標……真の目的は貴様らの告白の舞台を整えることだったのだよ! ハーッハッハッハ!!」
「それはそれとして、頑張ったで賞も本当のことだからそこは心配しないでね。せっかく新婚期間なのに、パパたちが旅行で三日間も幸樹のこと借りただろ? その埋め合わせだと思ってくれれば」
「えっちょっ、幸樹これ受け取っちゃっていいの? 気軽に受け取るには中々ヘビィな気がするけど」
「厚意は受け取るのが礼儀だぜ直美」
イエスイエス、受け取ったれ受け取ったれ。
「気になるなら今度コーヒーでも淹れてやればいいさ、あとパパ別に新婚じゃないから、言いたいことは分かるけど」
「伝わるなら良いじゃないかー。まあ直美ちゃんそういうわけだから、安心して受け取るが良い」
「そういうことなら、うん。ありがとうパパとママ、ありがたく頂戴する」
よっし良くやった我が子たち! それでこそ渡辺の一族よ! やっぱ仲間がいるっていいですね、同じ孫たちの応援団であるパパとママがいるだけでこんなにも話が進みやすくなる、死して尚我々の絆は不滅です。あと幸樹万が一ここでチキったら許さんからな、大丈夫だとは思ってますけど、そんなことになったら毎週一回タンスの角に足の小指をぶつける呪いをかけますからね! ほらっパパとママもちゃんと釘を刺しなさい!
「さて幸樹……分かってるとは思うが、お前これでチキったら許さんからな? キッチリ決めて来いよ?」
「パパの言う通りだ幸樹、もしこの機を逃したら直美ちゃんが泣きながらNTRされるおばあちゃん憤死モノの展開が確定すると思え」
「分かってる、安心して」
うむ、決戦の時である、天王山であるな。
「……なんか楽しみになってきた……期待してるよ? 幸樹」
「が、頑張る」
よし、おばあちゃんの分もキッチリ釘を刺してくれましたね、これで私も一安心です。これで二人が旅先の部屋で良い感じのゴールインを決めることは確定したも同然……! ここから先は勝ち確ウィニングラン状態です。
……ただ、騒ぎすぎるとフラグになりそうな気もしますね、この辺でやめておきましょう。おばあちゃんもそろそろ帰っておじいちゃんの打ったそばをいただくとします、そうそう、おじいちゃんは死んでからそば打ちにハマったんですよ、これが中々においしくてですね、いつかパパとママがこっちに来た時振る舞うのが楽しみです、まあ来るのが遅いに越したことは無いんですけど。
追記:どうも、未来のおばあちゃんです。期待させておいて申し訳ないのですが『二泊三日のホテル旅行編』は本作に掲載されません、本当にすまない。理由として、本作は旅行に行く前に決着が着いてしまうのです、丁度良い文字数に収めるために、そして私が旅行話を全然上手に書けないことを隠すためにも、旅行編が書かれることは無いのです、本当に申し訳ありません。




