ルノアを想えば、恋を知る。-テオ視点-
「ここですね、ハーラヴァ令嬢が後宮烏に物を盗られた場所。」
「ハーラヴァ男爵令嬢…。ユンダヴィ男爵の一人娘、か。」
手元にあるのは、《フェリアネット被害者一覧》と書かれた分厚い紙の冊子。
「特に付近には何も落ちていないですね。一旦、休憩にしましょうか。」
「ああ。」
◇
「ところで、テオはルノアと婚姻されているのですか?」
「こっ、婚姻!?」
予想外の言葉に、俺は思わず飲んでいたお茶にむせる。
「すみません…。でも、聞いてみたくて。私、文学に興味ありまして…。同じ生徒会内にそのような関係があればとても面白そうだなと。」
「俺とルノアは至ってそういう関係じゃないから!!」
次期女王にそんな関係を持たせてたまるか。
もし、仮にそんな関係を持ったら、俺の家はどうなるか…。
(考えたくもないな、)
「そうですよね…。ルノアに聞く前に、テオに聞いてよかったです。」
「ところでさ、ミレイユ。」
「はい?」
「“恋”ってなんだと思う?」
「恋…ですか?特定の相手を強く求め、離れていても心が引かれる状態、と本には書いてありましたが…。」
「それは、“愛”とは違うものなの?」
「そうですね、愛とは一般的に相手の存在を受け入れ、見返りを求めずに支えたり慈しんだりする持続的で安定した感情、と公的にされていますし。」
そういってミレイユは考え込む。
「今は、親による政略結婚が過去よりも減ってきている状態ではあります。ですが、セレナさんみたいにまだ許嫁関係を持っていらっしゃる方々もいます。恐らくはルノアも許嫁を持っていると思います。なので——」
「ちょっと待ってよ、ルノアって許嫁いるの?」
「『恐らく』です。本人から何も聞いたことも、どこかの書類に書いてあったわけでもありません。あくまで、私の見解です。」
「…だよね。」
「でも、居てもおかしくないと思いますよ?」
ミレイユは当然のことのように澄まし顔でいった。
「ルノアは、綺麗よりも可愛らしいという言葉が身にあう言葉ですし、何よりも、誰にでも気軽に平等に接してくれる優しさがあります。」
綺麗よりも可愛らしい…。
(あれが?)
普段、家では無頓着な格好をして、セラフィナやギルバートと関わっている図太いやつだ。
その上、リリアとは来て一瞬で仲良くなって…。
(まあ、声は荒げるが。)
「そっか。テオはルノアのことがお好きなんですね?」
「…は?別に好きじゃないけど。」
「わかります、ルノアはとても優しいですもんね。テオにも心を開いていますし。第一学年次からこの学園に居たといってもおかしくないぐらい、溶け込んでいますし。」
「なんだよ、それ。だから好きじゃないって。」
「じゃあお気に入り?」
「それでもない。」
「特別な人?」
「そうじゃない。」
「じゃあ——、『幸せになって欲しい人』。」
(幸せ、か。)
「それかもな。」
「じゃあ、恋ですね!」
「はぁ??」
「恋とは、別の文書では、自分のそばにいてほしいという執着を手放し、相手の存在そのものの幸せを願う心とも記されています。」
——幸せ。
ルノアが笑ってくれればそれでいい。
ルノアが元気で居てくれたらそれでいい。
ルノアが楽しく日々を過ごせていたらそれでいい。
(もうこの気持ちから逃げるのはやめよう。)
好きなんだ、俺。
「もういいよ、そういうことにしてあげる。」
でもやっぱり、まだ口にはできない。
だからそういっておどける。
いつか口に出せるその日まで。
「本当ですか!?恋なんですね!?」
「はいはい、休憩終わり!次行くよ!」
「え〜!」
もし本当に、この気持ちが恋なんだったとしたら、
俺は、ルノアを想えば、恋を知ることができるのだろうか。
——一方その頃、ある場所では。
「ルノア・ノレヴェイン。お前の初めては、俺が貰った。」
そう呟く、黒ずくめの一人が居た。
次回、新キャラ登場予定です!!




