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物語tips:針部隊
正式名は第3師団 第67可変戦闘車連隊 ソリドンブルグ駐屯地 即応部隊
小隊長がヨシギ・コウ大尉。その他、隊員は特務少尉(徴兵年齢以下のため、財団に所属する可変戦闘車の操縦士という身分)
敵前線に穴を開けるというコンセプトで作られた攻勢部隊。もっぱら連邦南東部に出没する巨獣へ緊急発進し対応する役割が多い。
連戦連勝であり赤ヘル部隊にも対抗できる第3師団の精鋭中の精鋭。このブレーメンの混血部隊の運用は寿少佐に一任され、少佐はヨシギに(フラレた恨みも込めて)丸投げしている。それでも南部戦域において機動戦術に高い成果を残している。
「おおー速い速い」
フェイフェイが客車の外を過ぎ去る駅を眺める。オーゼンゼの東隣、シーウネ州の州都シーウネの中央駅。ここから南方本線に線路が切り替わる。
「私達が一番。うん、いちばんっていいね」
ニロもうんうんとうなずいた。特別ダイヤで、4人と4人の可変戦闘車と、第2師団から譲り受けた弾薬コンテナを積んで南部へ戻る。駅ではこの列車の通過を待つ一般客車が列を作っていた。往路は貨物同然の扱いだったが、帰り道は客車が連結されて、古ぼけたソファ席で一息つくことができた。
シーウネ駅が過ぎ去り、街の郊外には、燃料をかけながら燃やされる肉塊の黒煙が立ち上っていた。
「ここにも襲撃が」
ソラは白い防護服を着た兵士たちと、肉塊を載せたソリを引っ張る可変戦闘車を見た。
「ここだけじゃねぇ。あちこちだ。アレンブルグ、プーカオ=ネイン、ラーヤタイ……我が第3師団の管轄だとロータス、ケプト=シアンあとソリドンブルグ」
ヨシギが指折り数えてくれた。
「戦争が始まったんじゃ」
「だーから、いつも言ってるだろ。戦争じゃねーての」
「じゃ、アーシャは無事ですか」
「アヤカも忘れてやるなよ。あいつ、お前に懐いてるんだから」
「僕は……いやもちろんアヤカも心配ですけど」
すぐ頭上でニヨニヨ笑うニロとフェイフェイの顔があった。ソラがそちらを向くとケラケラ笑いながら貨車の方へ走って行ってしまった。
「ニュースじゃ、民間人にも死傷者は出ているが。ま、所詮一発勝負の片道切符。戦略もクソもあったもんじゃねぇ。馬鹿な巨獣ってあざ笑うところだが青い肌のヒトなんだろ、もともとは。かわいそうだよな。こんな作戦に命をかけるなんて」
「転送装置らしいです。量子のゆらぎを通じて」
「あん? 金玉だって?」
声調の違いを使ったつまらないオヤジギャク。
「わかって言ってるでしょ」
「俺はわからないし何も聞いていない。上にはそう伝える」
なるほど=寿少佐か。すでにヨシギは面倒くさそうにアタッシュケースを抱えている。丸1日、第2師団の事務方と額を突き合わせて書き込んだ今回の顛末書の束だった。機体修理と使用した弾薬の請求書を第2師団に送り、その代金として弾薬と可変戦闘車の予備部品をオーゼンゼ基地からかっさらった。そういった書類の束が入っている。
特別ダイヤといっても、ソリドンブルグ駐屯地に到着したのは深夜近くになってからだった。駐屯地内への引込線で列車が停止し、あちこち傷だらけの4台の可変戦闘車がクレーンで吊られて降ろされる。
ソラの機体はひときわボロボロで、専属調整員のルナに文句を言われるかとも思ったが、2言3言、言葉を交わしただけですぐ格納庫に機体とともに消えた。
「むぅ、ソラおかえりなさい」
懐かしいアーシャの声。暗闇から豹のように現れて、アーシャはソラに背後から抱きついた。
「ただいま、アーシャ。無事だった?」
「むぅ、ソラ。わたしを誰だと思ってるの? わたしね、わたしね。空がばーんって割れてすぐ兵舎を飛び出したの。窓から飛び出して空中で変身。それでね。10人に囲まれながら、わたしひとりで勝っちゃった」
「すごいね、アーシャ」
「あたりまえ。もっと褒めて」
ぐいぐいと頬をつねられる。
「あんたたち、色ボケすぎ」
アヤカの顔が駐屯地外周のライトに照らされる。
「あ、お疲れ様」
「ええ、ええ疲れたわよ。この3日間警戒待機。歩兵と違ってね。電線から電源を取りながら3日間、機体の中に缶詰。全く嫌になるわ」
「被害はなかった?」
「ええ、ソリドンブルグは、ね。連中、古い地図を使って仕掛けてきたみたいだから」
「古い?」
「そ。500年前の。この街、戦後復興ですこしズレた場所で再建されたの。だから連中が雷の中から現れたのは荒野のど真ん中、駐屯地のど真ん前。アーシャが大立ち回りをしている間に反撃の準備ができた」
「量子のゆらぎを使った転送──」
しかしアヤカはギュッと眉をひそめて、怪訝な顔をするとヨシギの方へ歩き去ってしまった。
「金玉? ばかにしてるの?」
自分の連邦共通語の発音、間違えたつもりはないのだが。
ソラはアーシャの羽交い締めから逃れると、はだけた衣服を整えた。
「ね、ソラ。わたし、認められた。褒めて!」
「ふうん」
「司令と、寿少佐に言われたの。わたしが頑張って戦って駐屯地が守れたって。だからね。わたしも小隊の1人なんだよ!」
「へぇ、そいつはすごい。よくがんばったね」
「むぅ。頭を撫でるの。こういうとき」
そういうものなのか。ヨシギの方をみると、ニロとフェイフェイもアヤカから手短に報告を受けているようだった。
「だからね、わたし、ソラの可変戦闘車に乗って一緒に出撃するからね」
アーシャの肩ではポポが緑の半透明の体を揺らして一緒に喜んでいる。
「そっか。心強い」
「むぅ、心強い。脱いだ服を置いておけるから」
「脱ぐの?」
「むぅ。当たり前。変身したら服が破けちゃうでしょ。戦いが終わるまで、ソラが持つ」
そういう役回りか。
他の小隊のメンバーも集まってきた。ニロは開口一番、
「ソラくん、操縦室でいちゃいちゃしちゃだめだよ。遠隔操作でマイクもカメラも動かせるんだから」
「しないよ! そんなこと」
皆、げらげら笑っている。アヤカだけはぶすっと──普段と同じ、陰険な目をしていた。
「え、しないの?」
アーシャが目を丸くする。
「しないってば!」




