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物語tips:ニロ
ゆるふわ系少女。針小隊の3番機で狙撃・観測・通信担当。特務少尉。むちむちボディの17歳。ブレーメンのクォーター。口癖は「あらまあ」。ボーイッシュな刈り上げとローポニーテールの長髪が特徴
メガネをかけているがこれは伊達で泣きぼくろに見える電子義眼を手術で埋め込んでいる。可変戦闘車の索敵カメラと直接 接続して、300°の映像を直接 脳で認識できる。
戦闘以外ではメガネをかけている。電子義眼の広すぎる視界をあえて狭めておくもの。
ニロ仕様の可変戦闘車は長砲身ライフル砲。防御力を下げた代わりに軽く、反重力機構と射出ウィンチを使ってビルの屋上にも登ることができる。射撃時の反動を吸収するアウトリガーを展開するが、あくまで射撃姿勢のためで格闘姿勢に変形しない。機体のシルエットは蜘蛛のように脚が細い。ノーズアートは花車
受け継いでいるブレーメンの因子は判断力と腕力。戦闘支援AIより索敵が速い。復興財団からの電子義眼の無償提供と引き換えに入隊したため財団には感謝している。
教育とは、教科書を読んで理解し覚えるだけではダメらしい。文学、数学、理化学、社会学などなど。先日のテストはすべてで200点。つまりは満点だった。ブレーメンの兼ね備えた記憶力と知性を用いればヒトの勉強なんて難しいことじゃない。文学の教師──ホームルームの担当教師だが──がテストを返却しパルに届いた成績表にコメントが添えられていた。「学園祭では他の生徒とよくコミュニケーションをとるように」
さすが教師だ。こちらの考えをよく見通している。彼のかけている眼鏡は生徒の心を見通す機能が付いていると言われても驚かない。
ソラがニロやフェイフェイと連れ立って学校に行くとき、毎朝 ヨシギを含め駐屯地の士官たちは忙しそうに働いていた。巨獣に動きがあったのかもしれない──かったるい2日間もある学園祭の間に、出撃かあるいは大規模な演習に招集されるのではないかと期待していたが、そんなソラにヨシギは「おまえ、もう十分に強いだろ。演習って金やら準備やらいろいろかかるんだぜ」などと、たばこを片手に返事した。
「まあまあ、リラックスしてソラくん。今日は体育祭。走って飛ぶだけでプロ選手を超えちゃうブレーメンに出番はないんだから。それにしても今日は暑いね」
体操服姿のニロがぐぐっと背伸びした。
雨季の間の晴れ間。日中はたいてい晴れているのだが、雨の後だったり雲が出ていたりするとじっとりと暑く汗が乾かない。ヒトはこの気候では体調を崩してしまうらしい。
『さあ、“土嚢超え”が始まりました! さあ、運搬組は5分間でどれだけ相手チームの進路に土嚢を積み上げられるか、そして突破組は進路上の土嚢を乗り越えてゴールを目指します!』
ジャオ委員長の声がマイク/スピーカーを通して運動場いっぱいに届く。実況役を買って出るあたり真面目に見えたがこういうイベントごとは好きなんだろうな。
ブレーメン組はひとつテントの下で見学中。ブレーメンないし混血のブレーメンからすればヒトの走って飛ぶ動作がずいぶん緩慢に見えてしまう。校庭の運動場に楕円形のトラックが敷かれ、1000人近い生徒たちが歓声を上げている。
「ニロは、体調は大丈夫?」
「あは! ソラくん、心配してくれるんだ! 嬉しいー。体調はいいんだけど、こうも暑いとあせもが気になるのよね」
ニロはそう言うとおもむろにハンドタオルを体操服の下に入れ、長い乳の下をごしごしと拭き始めた。隣でフェイフェイは目頭を抑えている。
「あはー、ちょっと楽になった。ベトベトしてて気持ち悪かったのよね」
服の裾は上がったまま、下から乳に挟まったハンドタオルがぶら下がっている。
「ちょあんた! 何してるの!」すかさずアヤカがニロの体操服の裾を引き下げ「私たち全員が変態だって思われるでしょ」
「いーじゃん、お乳なんて見られて減るもんじゃないし。でしょ? 先輩。それに誰かさんと違ってアレの直径がデカくないですし」
おもむろにニロはソラに向けてウィンクを飛ばす。一方でアヤカは顔面を真っ赤に煮えたぎらせた。
「わ、わっ! 私のはそんなに大きくないから」
「えー更衣室で見たときこんなだった。ほら、可変戦闘車の操縦服って下着を付けないじゃん? だから見れたの。もっとこんなだったっけ」
ニロが平然と両手で輪っかを作る──何の話かを理解。
「そんなに大きいのがあるわけ無いでしょ。でもヒトは、乳輪が大きい方が授乳能力が高い、と聞いたことがある」ソラはシラフな顔でアヤカをフォローし、「多産の象徴の牛や豚も──」
「それ以上言ったら、ライフル砲をあんたの機体におみまいするんだからね!」
しかしアヤカは拗ねてしまい背中を向けてしまった/ハメられた。ニロは膝を叩いて笑っている。
「むぅ、輪の円周は、円周率✕直径……大きい方がいいの?」
ソラのそばでアーシャがぴとっと寄り添う。まるで大型のペット。
アーシャの身体能力は、結局 陸上部の男子に匹敵する強さだった。走っても投げても軒並み新記録を叩き出す。これもスイリョ──リョクシュと適合したおかげらしい。とはいえ高い湿度と暑さに弱く、ブレーメン組と一緒にテントの下で体育祭は棄権。藍色の肌はじっとりと汗ばみ、高温には慣れていないらしい。アーシャの肩ではポポも暑さのためとろけている。
「乳輪なんてヒトの特徴のひとつに過ぎない。大小なんて関係ないんだよ」
「わたし、子供がいっぱいほしい。でも乳輪はアヤカの半分しかないの」
背中に殺気が突き刺さるのを感じる。
「そ、そう。アーシャは将来のことを考えてて偉いね」
何か別の話題に変えないと、本当に徹甲弾を撃ち込まれそう。
「むふぅ。普通そう。愛する殿方をみつけてぎゅーって抱きしめてほしい。家族は、むぅ。多ければ多いほど良い」
「わかる! わかるよアーシャちゃん」ニロが間に割って入る/服の下からハンドタオルがぶら下がったまま「きっとこれもブレーメンの本能ね。■■■が疼くのよ。いい男、強い男を捕まえてより強い子供を生むべきなんだって」
「むぅ、そう。いい男は早いもの勝ち」
妙なところで意気投合する2人。ブレーメンの風習というか文化というか、あるいは習性かもしれないが、“番”は女が男を選ぶ。戦闘部族だったブレーメンにとって強さは何にもまして重要だった。つまりは弱い男は選ばれず子孫を残せない。ブレーメンの出自は、神が作ったとか伝説がいろいろあるけれど、何千年もそういう淘汰をしてきたせいで、ヒトを凌駕する強さになったんだと思う──パルでそういう言説のブログを読んだことがある。
「で、あんたはどうなの?」
フェイフェイがあぐらをかいてソラの前に腰を下ろした。その背後では生徒たちが勢いよく走り抜け砂埃がもうもうと舞っている。
「僕? 乳輪の話だっけ」
「違う! もっと後。あんた、こっちにきてからもうすぐ1年になるでしょ。ブレーメンらしい繁殖期って無いの?」
「あれは、数年に1回のことだし」
「見た目のせいで、あたしらも普通に接してるけどもういい歳でしょ? 繁殖期がないと困るんじゃない?」
「今は、いいや。相手だっていないし」
するとアーシャの耳がピクリと動き、
「むぅ、じゃあわたしが生む」
「あ、ハハハ……ありがと」
そう真面目な顔で宣言されても困る。それにいくつかの段階をすっ飛ばしている。
「なーにニヤけてんのよ」アヤカが頬杖のまま「あんたの相手は純粋なブレーメンって決まってのの。1組の番だけでブレーメンが再興するとは思えないけど、それは後の世代が考える話。あんたはブレーメンを見つけて子供を作る。それ以上でもそれ以下でもない。だから、アーシャもソラをたぶらかさないの」
「僕は別に、アーシャになにもされてるわけじゃ──」
しかしアーシャは隣で頬を膨らませた。
体育祭の演目は飛距離の長さを競う“飛競争”に移り変わっていた。上へ高く飛んだり、走って飛んだり、陸上部のメンバーが棒で高く飛び上がると、観客たちが一斉に拍手した。
「うずうずしてるね、ニロ。参加したいの?」
「私? だめだめ。あーいう俊敏さっていうのかな。無いから」
すると、隣にすぃっとアヤカが現れた。
「乳が長すぎるものね、あなた。ヘソまで垂れてて重すぎる」
さっきの意趣返しだろうか、アヤカも容赦がない。
「重くても、先輩よりは足が速いですから」
平然とにらみ合う2人/フェイフェイがアヤカを引っ張ってテントの反対側まで連れて行った。
「あまり、喧嘩はしないほうがいい」
「喧嘩じゃないよー。これも女子トークってやつ。そんなに心配?」
2人の付き合いは、ソラが来るより以前からあるのだから本人が言うなら本当にその通りなんだろう。アヤカについては、大学進学&飛び級を控え、学校活動は割り切っている感がそこはかとなくある。ヨシギ隊長もよくよくチグハグなメンバーをまとめていると思う。
「なにか気分転換に競技に参加したいね。ニロはどれがいい? 走るのが嫌って言うなら」
「うん、あれ。タイヤ運び」
ニロの指差す先に、黒いタイヤの山があった。4チームがそれぞれタイヤを自分の陣地へ運んだり相手チームの陣地から奪ったりする競技だ。アヤカの言葉を借りれば「ヒトの本能たる収奪を競技化しただけの悪趣味な遊び」らしい。
「私ならね、あの一番大きいの、いける」
ニロの言うアレは、軍用トラックのノンフラットタイヤだった。たぶん基地の廃棄品をもらってきたんだろう。幅だけでも生徒の背丈ほどある。ロープが巻き付けてあるのでチーム全員で力を合わせれば運べそう。そもそも競技のテーマは収奪ではなくチームの協調性とリーダーシップだ。
「私ね、アレを抱えられる」
「引っ張るんじゃなくて?」
「ソラくんだって、ブレーメンなんだからできるでしょ」
「できるけど、競技なんだから公平じゃない。ヒトとは体の作りが違う」
スポーツを通じた生徒たちの社会性の育成云々──それが体育祭の趣旨だ。なんでも1人勝ちしてしまうブレーメンが参加しては雰囲気をぶち壊してしまう。なにかと異質なブレーメン組+藍色の肌の少女。しかし生徒たちはテントのそばを通れば話しかけてくれるし、アーシャは男女ともに人気が高い。ヒトは純粋で優しかった。
その時、ぐわんとスピーカーがハウリング/ジャオ委員長の威勢のいい声が響き渡る。
『えー続きましてプログラムの変更があります。次の競技はブレーメンたちによる綱引きです。生粋のブレーメンの少年VSブレーメンの少女と藍色の妖艶な……えっこの表現はダメ? えへん! ともかくブレーメンたちの力と力の対決を御覧ください。』
小躍りするニロ&フェイフェイ/ぽかんと口を開けるアヤカ/「わたしもいっしょ?」と首を傾げてソラにくっつくアーシャ。観客たち生徒たちも面白がって手を叩いている。
「ね、聞いた? 聞こえた? ブレーメンたちって私たちよね」
ニロがはしゃぐ。
「むぅ。わたしも? 入っていい? がんばる」
アーシャはソラの腕を引っ張って立ち上がった。
『彼女たちは、1年前のソリドンブルグ襲撃事件の際、果敢に戦い街を守りました!』
ジャオ委員長によるシンプルな紹介。しかしソリドンブルグ市民にとってはこの上ないわかりやすい解説だった。観客たちの拍手は一層に増し、一方でアヤカは地団駄を踏んだ。
「私、あの場にいなかったんですけど」
「まあまあ、落ち着いてアヤカ先輩」フェイフェイが珍しく丁寧に話して肩を持つと「無事 大学への推薦入学も決まったし、そういう過去は水に流すってことで」
「まあいいわ。どうってことない」アヤカは髪をポニーテールに素早くまとめ直して「私たちでも束になればブレーメンに勝てるってところ、見せてあげる。だからソラ、あんたも手を抜いたらダメだからね」
性格が入れ替わったようなアヤカの態度だった。運動は苦手なはずだが対決モノは好きらしい。半ブレーメンの女子たち+藍色の少女は肩で風を切って運動場を横切った。
「むふぅ、わたしが勝ってソラにわたしの強さを思い知らせてやる」
アーシャが体操服の短い袖をめくってサイドトライセップス。腕に血管が走りしなやかな猛獣のように眼光が鋭い。ポポと混ざって強化したかと思ったが、ルールは守っているらしく、アーシャの頭の上でポポが揺れていた。
運動場の中央には両手で抱えるほど太いロープが敷かれた。巡空艦を地上につなぎとめておくような太いやつだ。中央に紅い布が巻かれ、左側に女子×4人が並ぶ。アーシャが先頭で次のアヤカが司令塔、フェイフェイと続き一番の力持ちのニロは体にロープを巻き付ける──ヒト相手ならまだしも、この4人には勝てるかどうか自信がない。
観客たちは手に手にパルを掲げ、心なしかアーシャに向けられるパルが多く感じるが、一体となって全方向から立体録画の準備が整っている。1時間後にはサイバーネットで拡散される予感。
ソラは荒縄を握った。手よりも大きく絶妙に握りにくい。審判の体育教師が中央の紅い布に足をおいて、両者に力を抜くようハンドサインで促す。
「いーい? ソラのブレーメンの力は最大でも5分が限度。だから持久戦に持ち込んで疲れさせたら私たちの勝ちだからね」
気合の入ったアヤカは後輩×3人に指示を出す。一方でこちらは1人だけ──既視感=こういう動画をパルで見たことがある。100人の子どもたちがロープで繋がった巡空艦を引っ張るというやつだ。重力を相殺して浮く巡空艦は、もちろん引けばヒトの力でも動かせるのだが、見た目の派手なイベントとして映える。ブレーメンの力も見世物に/しかし世間一般にブレーメンの力を見せつける好機でもある。
審判の体育教師が威勢よく掛け声を響かせる/ソラも縄を握りしめた。瞳が黄色に輝き、真正面のアーシャと目が合う/あのときの戦闘演習を思い出してしまう=すぐ頭から振り払って集中。この競技は1分程度で終わるはず。5分も要らない。それまでにあの紅い印をこちら側へ引っ張れば勝ちだ。
「いちについて、よーい、ドンっ!」
合図が来た。ロープが両側に引っ張られ、音速を超えしなったロープが破裂音を出す/足をどけるのが間に合わなかった体育教師が真上に吹き飛ぶ。
観客のどよめきが次第に遠のく/力を込めた両腕と両足に集中。
開始早々に負けるという失態は演じずに済んだ/しかし思いの外4人の合わさった力が強い。主にアーシャはヤル気というより殺る気にあふれている。ルール通りポポとは融合していないが、両腕と両足には血管が浮き出て、膨らんだ筋肉がパンパンに浮き出ている。
ロープは張り詰めたまま、赤い印は少しも動こうとしない。じわりと引かれそれを戻そうと力を入れてしまい疲労がたまる。アヤカはそれを見逃さず、素早い指示で力を緩め、そして4人同時に引いた。
腕も足も、まだ力が残っているのに手が滑ってロープの段差2つ分 引かれてしまった。そして違和感/力の限界が近い。まだ2分と経っていないのに。
そして思い出すこと=ここ最近、ブレーメンの力が限界を迎える時間が早くなった。可変戦闘車に乗っていればまだ多少はマシだがそれでも、自覚と実体の差が開きつつある。誰に相談できるわけでもなく、調整員のルナだって「感応器を微調整しときますね♪」と軽くあしらわれた。
ずるり。足が滑る。再び力を込めるがもう戻せない。動悸が早くなって汗が目に入って痛い。目をしばたかせても視界が歪んでまっすぐ見えない。
目を開く──見えたのは視界いっぱいに飛び込んできたアーシャだった。
「ソラ! 無理しないで!」
ソラは倒れると思ったが、寸前でアーシャに抱き抱えられた。その後ろではアヤカたちがバランスを崩してひっくり返った。
「ちょっ、アーシャ、僕は大丈夫だから下ろして」
「ぶへぅ、ソラ、ごめん。無理させちゃった。へっぐっ」
泣かなくてもいいのに──下ろしてほしい。それでもアーシャはお気に入りの人形が傷ついてしまったかのように涙ぐんだ。
一方の観客達=想定外の展開だったが「これはこれで絵になる」とばかりに、アーシャと、アーシャに抱え上げられたソラの様子をパルに記録した。
「いってててて。一応、勝ったのかにゃ」
ニロは尻についた砂埃を払いながら立ち上がった。
「でもでも、アヤカは負けだね」
ニヤニヤのフェイフェイ。
「うっさいわね、あんたたち。関係ないでしょ」
「まあまあ、落ち着いて。ソラくんの一番の見せ場は明日なんだから。アヤカ先輩も、うちのクラスを見に来てよね」
「ふん、ちょっとだけよ。聞いた感じ、良い予感はしないけど」




