第6話 4
『すごい』
その言葉を繰り返し書く。
ひとしきり凄いと書いた後、本と『僕』の手のひらを見比べて、困ったように指が空をなぞっていた。
何を書けば良いのかわからない、書こうにも追い付かないと言った風だ。
しばらく迷って絞り出された言葉は、再び書かれた『すごい』と言う言葉だった。
「面白かったですか?」
『僕』がそう聞けば、宝石のような瞳をさらに輝かせて頷く。
天使様は『僕』の指をさらさらなぞり始めた。
迷いある指先は興奮を孕んでいて、時折止まりつつも言葉はどんどん記される。
『もじなのにこえがきこえる どうぶつがおはなししてる』
『わるいことしたたぬき ちゃんとごめんなさいした』
『ぜんぶ ぜんぶ きらきらしてる』
天使様は書き終わった後、大事そうに本を抱きしめた。
絵本のタイトルが、天使様の髪にふわりと隠れている。
よっぽど気に入った様子だ
「それを人間は"物語"と呼んでます。ほんとの動物は喋らないけど、お話出来たら楽しいだろうな、こんな風になれば素敵だろうなってお話がいっぱいあるんですよ」
"物語"と言う言葉に、天使様は不思議そうな顔をしたが、「かちかち山」と書かれたタイトルを指でなぞる。
顔を綻ばせ、初めて触れた物語に天使様は楽しそうだ。
『ものがたり おはなし すてき』
だが幸せそうな天使様は、はっと何かに気がついたようで、また『僕』の手のひらに感想を綴る。




