第5話 8
『きょうかしょ しらない』
「教科書というのはですね、勉強する時に使うお手本みたいなものです」
『僕』は学校で使っていた社会の教科書を天使様の前に広げる。
昔の人の服、暮らしなどが写真と共に書かれており、それを天使様は興味深そうに見つめていた。
「例えばこれはですね、昔はこんな風に少し難しい服を着ていたんです。
もう着ている人は少ないですけど、忘れるのは寂しいから、こうして昔のことを覚えておきましょうって教えてくれる本なんです」
『僕』は着物の写真の載ったページを見せる。
天使様は不思議そうに眺めて、『僕』の服と交互に見比べていた。
『ふしぎ しらないこと たくさん』
天使様は星空の輝く空を見上げる。
深い深い漆黒の空に浮かぶ、天上の欠片。
空を見ているのか、その向こう側を見ているのか。
天使様は『僕』の知らない遠くを見ていた。
『わたしたちは "しってはいけなかった" かわってしまうから』
「?、どういう意味ですか?」
天使様の言葉の意味がわからなくて、聞き返しても『僕』ににこりと微笑むだけだった。
天使様は続けて言葉を記す、ただそれは『僕』の問いに答えるものではなかった。
『たくさんおしえて あなたとでるために』
"今"となっては、もうあの言葉の答えはわからない。
人を知らない天使様と同じで、『僕』も『天使』について知らなかったのだ。
今でもふと考えてしまう。
もしも『天使』にとって"知ることが罪"だったならば、罪を犯した『天使』は空へ帰れるのだろうかと。
第5話 終了




