第3話 5
「見てもいいんですか?」
昨日嫌がっていたから、渡されたとは言え『僕』が聞くと、天使様は是非とでも言うように笑顔で頷いた。
『僕』はぱらぱらとノートをめくる。
最初は元々書かれていたものに始まり、次は読めない文字へ変わる。ページが進むに連れて字は綺麗になりつつあるものの、そこへ書かれていたのは沢山の"ありがとう"という少し崩れた文字で綴られた言葉だった。
天使様が真っ先に書こうとした言葉に、『僕』はノートに落としていた視線をぱっと天使様へと向ける。
「なんで……」
何に対してのありがとうかわからないものの、もっと別の言葉を綴ると思っていた『僕』は思わず疑問の言葉を投げ掛けた。
天使様は書くものを探そうとして、ノートは『僕』が持っていることに気づいたのと、そのノートは大半が埋まったことを思い出したらしい。
『僕』はそれに気がついて新しいノートを渡そうと立ち上がって取りに行こうとするが、それより先に『僕』の手を取った。
天使様は『僕』の手のひらを指でなぞり、ゆっくり覚えた言葉を書く。
指が少しくすぐったいが、『僕』は集中して天使様の書いた文字を読み解く。
『かみをととのえてくれた』
『いいたかった』
『僕』が何気なくしたことを、この人はずっと気にしていたようだった。
だから髪を綺麗にしたとき、代わりに『僕』の手を大事そうに握ったんだろう。
あの時声に出せなかったお礼の代わりに。




