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いつも深い悲しみを潜ませていた物憂げな両眼はもはやなく、そこには緑色の怪しげな光を発する、ぎらぎらとした双眸が鎮座している。
いつも、どことなく沈痛な面持ちであった口元が口角を上げ、隠しきれない喜びにほころんでいるのだった。
静香のすさまじい殺気に絡めとられ、虹丸は蛇に睨まれた蛙のように一歩も動けなくなった。
(この女…強い…)
静香の両眼が虹丸を見つめた。
「持っているな、緑の石を」
静香が言った。
楽しくて仕方ないといった口調だ。
「お前を殺して、さらなる力をつける。そうすれば…ふふふふ、ふははは!!」
静香が天を仰ぎ、大笑いした。
想像するだけで震えだすほどの喜び。
虹丸は静香が笑った隙を狙った。
静香の方へ向いたまま、ぽーんと後方へと跳躍したのだ。
敵の異常な気迫を見て、逃げの一手に決めた。
笑っている静香の瞳が緑色に強く輝いた。
「遅い!!」
烈迫の気合いと共に叫んだ静香は、岩男との戦いで折れた刀を抜いた。
半分ほどの長さになっている刀は、まるで虹丸には届かない。
はずであったが。
刀から突如、緑色のきらめきが発生した。
折れた部分から緑の光が一直線に虹丸へと伸びていく。
恐ろしい速さであった。
きらめきは一瞬で虹丸の胴体を横に切断した。
「ふふふ、ふははは!!」