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7話

 翌朝。

 自室のベッドの上で、俺はスマホの画面を見つめたまま完全に頭を抱えていた。


「結局、信じられないくらい大騒ぎになってるじゃないか……。」


 画面には、あらゆるニュースサイトのトップ見出しが踊っている。


『【速報】第三ダンジョンにて黒い異常個体が出現! 人気配信者・明星かざね絶体絶命の危機!』


『【神回・奇跡の救出】空間を切り裂き現れた『謎の白銀の騎士』! 災害級モンスターを一撃で粉砕!』


『【徹底解説】白銀の騎士と思われる人物5選! あの兜の中身はSクラス探索者か!?』



「やっぱり、あの配信……ものすごい数の人に見られてたんだな」


 御織さんのところで確認したときは8万人だったはずだが、俺が飛び出したあたりでさらに跳ねたらしい。

 助けることは俺が望んだことではあるが、広く知られることも今後のことを考えても避けたい。

 気軽にレヴィアの力を借りてダンジョンに潜れなくなってしまうからだ、 

 重いため息をつくと、実体化して俺の隣に待機していたレヴィアが、ふわりと誇らしげな笑みを浮かべた。


「当然の結果でございます、ご主人様。あの程度の害虫駆除とはいえ、ご主人様のお姿が世界に知れ渡る第一歩としては、悪くない滑り出しですね」


「いや、目立つのは極力避けたいって言ったばかりだよね?」


 怪訝な視線を向けるも、レヴィアは満足げに俺のスマホの画面をのぞき込んでくる。

 

 その近すぎる距離感に体が硬直する。レヴィアからやたらいい匂いがするのだが、なぜだろうか。

 カードの中にはレヴィアの居住空間があり、そこでいつも身支度を整えているのだろうか。


 そんなことを考えていると、レヴィアは勝手に国内最大の掲示板――『ダンジョン探索総合掲示板』の雑談スレッドを開いていた。

 スレッドの勢いは、過去に類を見ないほどの異常な数値を叩き出していた。


 ◆


【ダンジョン探索総合掲示板 > 雑談 > 『第三ダンジョン異常個体・配信事故スレ』】


918 : 名無しの探索者

 おいおいおいおい、昨日の明星かざねの配信見てた奴いるか!?

 第三ダンジョン中層で特大の事故起きてたぞ!


919 : 名無しの探索者

 918 見てた見てた。マジで心臓止まるかと思ったわ……。

 かざねちゃん無事なんか!? 配信が突然途切れてそれっきりなんだけど!


920 : 名無しの探索者

 かざねちゃんは無傷で、迷宮管理局の職員に保護されたらしい。命に別状はないってさ!


921 : 名無しの探索者

 よかっっったああああ!! マジで神に感謝! てか、あの黒いバケモノ、威圧感やばかっただろ。

 普通のモンスターの異常個体って噂だけど、どう見ても『災害級』じゃん……。


922 : 名無しの探索者

 かざねちゃん一人であんなバケモノに当てられたらどうしようもないからな。

 ていうかアイツ……プロデューサー気取りのイキリ野郎!

 あいつマジで絶対に許さんからな。


923 : 名無しの探索者

 安全マージン取れって言われてたのに無茶な進軍させて、いざバケモノが出たら一番にビビり散らしてたもんなw

 口だけはいっちょ前の無能のテンプレで腹筋痛ぇわ。


924 : 名無しの探索者

 923 笑い事じゃねーよ! 自分が助かるためにかざねちゃんをバケモノへの囮にして逃げ出しやがったんだぞ!!


925 : 名無しの探索者

 それな。数万人が見てる前で、仲間を盾にして全力逃亡。

 しかも逃げるところもバッチリ抜かれてたしな。

 間違いなく前代未聞のクズ。


926 : 名無しの探索者

 あんなもんが拡散されたら学園側も対処しなきゃだろうし、下手すればライセンスも剥奪だろうな。


927 : 名無しの探索者

 無能の話は置いとくとしてだ!

 お前ら、話はあそこからだよ!


928 : 名無しの探索者

 ああ、それな。

 アレマジで何だったの??


929 : 名無しの探索者

 『白銀の騎士』な!

 ガチで最初誰だよ、管理局お抱えの探索者って転移もできたっけって頭混乱した。


930 : 名無しの探索者

 お前らあいつの装備見た? 形状からして近代の装備じゃなかっただろ。

 見たこともないデザインだったし、魔道具の一種だと思う。


931 : 名無しの探索者

 顔を完全に隠してるのは、正体を知られたくないからだろうな。


932 : 名無しの探索者

 なんかあいつが現れた瞬間、今まで無茶苦茶荒れてたモンスターも完全に凍りついてた。

 しかも、あのバケモノの全力の爪攻撃を、片手で無造作に止めてたからな。


933 : 名無しの探索者

 そして放たれたあの異常な閃光!!!!!

 あれヤバすぎる。ただの物理の剣撃じゃないぞ。

 魔法でもないし、普通に意味不明すぎる。


934 : 名無しの探索者

 画面上じゃ何かの巨大な極大魔法ぶっぱなして壁まで吹っ飛ばしたのかと思ったわ。

 どっちにしても、あの災害級モンスターを瞬殺した男がいるってことだろ?

 正体は普通にSクラスの探索者なんじゃね?


935 : 名無しの探索者

 まぁほぼ確実ではあるよな。

 「俺はただの通りすがりだ」つってトンズラしやがったけど。

 なにが目的なんかね? 売名? 話題作り?


936 : 名無しの探索者

 S級なんて一日で数千万ぐような連中だろ?

 売名も話題作りも、その時間使ってダンジョン潜ってる方が稼げるんだから、ありえなくね?


937 : 名無しの探索者

 顔隠して匿名なんだから承認欲求の線も薄いしな。

 SNSでも動画サイトでも本人のアカウントがないのに売名する意味ねぇ。

 

938 : 名無しの探索者

 おいお前ら、あの白銀の騎士が【国の非公開特務部隊】とか【転生特異点】みたいな解説が出回ってミリオン回ってんだけど。


939 : 名無しの探索者

 やっぱみんな気になるよなぁ。

 迷宮管理局のサーバーとかもうダウンしてアクセスできねぇ。


940 : 名無しの探索者

 いやー……好き勝手、色々と言わせてもらってるけど、まだ確定情報が出てねんだわ。

 結局、【白銀の騎士】の正体って誰なんだ……?


 ◆


「…………。」


 俺はスマホの画面をそっと閉じ、深いため息を吐き出した。


 ハードルが、上がりすぎている。  

 偶然にも手に入れた力を使った代償がこれか。

 掃除を押し付けられていた金欠のFランクの劣等学生が急に注目を浴びるとどうなるか。

 答えは、恐怖を感じる、である。


「素晴らしいですね。愚民も、ようやくご主人様の偉大さに気づき始めたようです」


 俺の心情などつゆ知らず、レヴィアは満足げに頷いている。


「レヴィア。昨日の出来事から俺だと特定されることは……ありうるか?」


「ご安心ください、ご主人様。私の武装憑依は完璧です。少し魔力干渉をさせれば、ご主人様の特的につながるような痕跡は全て消し去ることもできます。情報的にも、もちろん物理的にも」


「い、いや、物理的ってのは大丈夫だから! やらなくていいから!」


 俺はスマホをの放り投げ、再びベッドに寝転がった。


「とりあえずこの騒ぎが収まるまではおとなしくしておくか。万が一ってこともあるしな」


「えぇ、ご主人様。わたくしにお任せを」


 レヴィアは恭しくお辞儀をした。

 だが俺はこの時、彼女がなにを『任せてくれ』と言っているのか、しっかりと聞き出すべきだったのだ。あんなことに、なる前に。

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