3話
結局。
管理局を出て、俺は授業には戻らなかった。いや、戻れなかった。
頭の中でぐるぐると様々な思考が渦巻いていて、授業を受けるどころではなかったのだ。
学生寮の自室で、ベッドに横になり天井を見上げる。
「売れば、3億。そこからまたノーマルカードを買えば、もう――」
無限に資産を増やせるのではないか。
欲に飲まれそうになる自分を、深呼吸して必死に抑え込む。
「落ち着け、落ち着け。冷静になれ」
帰りの電車の中で調べた結果、どうやら同じナンバーのSSRカードは存在しない。
つまり融合で作れるのも、空いている番号のSSRだけという可能性もある。
今回の『ルミナス・ヴァルキュリア・アーマー』は偶然にも空番だったから融合できたのだ。
ここで売り払ってしまえば、融合で再びSSRを作れる可能性は、限りなく低い。
ならばURを作って売りさばけばいいのではないか。
だがここにも問題がある。今回のようにカードの入手手段が『幸運』で済まされるかどうかだ。
スキルで無尽蔵に生成できると知られれば、管理局も規制に動くだろう。
「カードを大量に管理局を通して売買すれば、俺の『融合』能力でカードが生成できることがバレる可能性がある。そうなれば素材の価格が吊り上がるか……サモンカードの相場そのものが暴落するかもしれない」
いや、それだけならまだマシだ。
最悪の場合、カードを作る道具として俺の身柄が狙われるかもしれない。
探索者は法外な身体能力を持つ者達が多く、その中には倫理観が少しずれている者も少なくない。
Fランクというほぼ一般人の俺が狙われれば、抵抗できる手立てはない。
そんな危険を冒すくらいなら、選択肢は最初から一つしかない。
「憧れたんだ。誰かを救う力に。それが俺自身の力じゃなくて……このカードの力だったとしても!」
俺は手の中のSSRカードを高く掲げ、力強くその名前を呼んだ。
「サモン! ルミナス・ヴァルキュリア・アーマー!!」
『SR以上のサモンカードの起動を確認。マスター登録を完了しました』
カードから眩い光が溢れ出し、薄暗い部屋の中を太陽のように照らし出す。
光が収まると、そこには――白銀の美しい甲冑に身を包んだ、息を呑むほど可憐な少女が片膝をついていた。
「これが、SSRのサモンモンスター……? まるで、人間じゃないか」
白銀の髪に、透き通るような白い肌。
四対の翼は微かに燐光を帯びている。
驚愕する俺を見上げ、彼女は優雅に、そして妖艶に微笑んだ。
「ごきげんよう、ご主人様。私はヴァルキュリアの一翼、レヴィア。これよりご主人様の剣となり、盾となり、絶対の繁栄をお約束することを誓います」
透き通るような美しい声。
だが、その瞳には底知れない圧倒的な力が宿っているのが分かった。
「は、初めまして! 二ツ野 優吾です!」
「存じております。召喚の儀式の折、ご主人様の情報は把握いたしておりますので。ですので、このような姿で失礼いたしております」
「ですので……? ま、まさか俺の意識が、その姿を望んだってこと?」
俺に美少女のはべらせ願望があったとでもいうのか。
なにか答えるでもなくレヴィアは微笑み、そして小首をかしげた。
「それでは、ご主人様。私に、なにをお望みでしょうか?」
「ダンジョンを攻略したい。なるべく早く、施設の皆を助けるための資金が必要なんだ。だから、レヴィアにはその手伝いをしてもらいたいんだ」
こんな美しい相手になら、従者だろうとサモンモンスターだろうと、頬が緩むものだろう。
だが俺の目的はあくまで資金の調達であり、ダンジョンの攻略だ。
今は無駄なことを考えている暇はない。
俺の言葉に、レヴィアは嬉しそうに目を細めゆっくりと立ち上がった。
「お任せください。こう見えても、殺戮――こほん、失礼いたしました。荒事には多少の心得がございますので」
白銀の戦姫はこれから始まる蹂躙を待ちわびるように、可憐な唇を妖しく吊り上げる。
「では、さっそく始めましょうか。――楽しい楽しい『聖戦』を」
レヴィアは壮絶で見る者を縮がらせるような笑みを浮かべるのだった。
かくして、少しばかり物騒で圧倒的な力を持つ従者を連れ、俺の本当の探索者生活が幕を開けたのだった。




